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2000年(平成12年)

平成11年神審第130号
    件名
貨物船第三高砂丸貨物船トーホー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

阿部能正、須貝壽榮、西林眞
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:第三高砂丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
高砂丸・・・左舷船尾外板に凹損、同舷後部ハンドレールに曲損
ト号・・・右舷側中央部外板に凹損

    原因
ト号・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
高砂丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三高砂丸を追い越すトーホーが、動静監視不十分で、第三高砂丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三高砂丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月27日04時55分
瀬戸内海備後灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三高砂丸
総トン数 198.64トン
登録長 49.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット
船種船名 貨物船トーホー
総トン数 3,411トン
全長 105.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,427キロワット
3 事実の経過
第三高砂丸(以下「高砂丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、石炭灰617トンを載せ、船首2.82メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成10年1月26日18時40分兵庫県東播磨港を発し、福岡県苅田港に向かった。
A受審人は、瀬戸内海を西行し、翌27日03時15分六島灯台から143度(真方位、以下同じ。)1,620メートルの地点において、単独で船橋当直に当たり、法定灯火を表示して、針路を備後灘の推薦航路線の右側に沿う253度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下、速力については対地速力である。)で自動操舵により進行した。

A受審人は、操舵室中央部後方のいすに座って見張りに当たり、04時47分わずか過ぎ高井神島灯台から321度2,600メートルの地点に達し、針路を自動操舵のまま推薦航路線に沿う236度に転じ、再びいすに座って見張りに当たっていたところ、同時51分半同灯台から294度3,020メートルの地点に達したとき、正船尾方240メートルのところに白、白2灯及び両舷灯を表示して後方から接近するトーホー(以下「ト号」という。)を視認し得る状況にあったが、後方からくる船は避けてくれるから大丈夫と思い、後方の見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま続航した。
A受審人は、その後ト号が自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近する状況で、04時53分高井神島灯台から287度3,300メートルの地点に達したとき、同船が避航措置をとらないまま正船尾方140メートルに迫っていたが、依然見張り不十分で、これに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで右舵一杯とするなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、同時55分わずか前ト号の黒い船体を左舷側後方間近に認め、手動操舵に切り替えて右舵一杯を取ったが、04時55分高井神島灯台から280度2.0海里の地点において、高砂丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船尾に、ト号の右舷側中央部が、後方から25度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、視界は良好で、衝突地点付近は憩流時であった。
また、ト号は、船尾船橋型貨物船で、船長Bほかミャンマー連邦人などの船員14人が乗り組み、空倉のまま、船首2.40メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、同月25日05時50分京浜港東京区を発し、瀬戸内海経由で関門港戸畑区に向かった。
B船長は、翌々27日04時22分わずか前高井神島灯台から054度5.1海里の地点において、自ら操船の指揮を執り、二等航海士を見張りに、操舵手を操舵にそれぞれ就け、法定灯火を表示して、針路を248度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力で進行した。
このころ、B船長は、左舷船首12度1.2海里に先航する高砂丸の船尾灯を初めて視認し、04時39分少し前同船が正船首方1,100メートルとなったとき、右舷船首側に替わって行くことから、危険のない同航船と考えて続航し、同時47分わずか過ぎ高砂丸の船尾灯を右舷船首12度600メートルに認める状況となったとき、同船が推薦航路線の転針点で左転したものの、これに気付かないまま進行した。

04時51分半B船長は、高井神島灯台から298度2,870メートルの地点に達したので、針路を備後灘の推薦航路線に沿う236度に転じたところ、高砂丸の船尾灯を正船首方240メートルに見る状況となり、その後同船を追い越す態勢で、衝突のおそれがあったが、少し前まで高砂丸の船尾灯を右舷船首方に認めていたことから、そのうちに右舷側に替わって行くものと考え、動静監視不十分で、これに気付かず、高砂丸の進路を避けないまま続航した。
B船長は、04時54分わずか前高砂丸が正船首に接近するので、操舵手に命じて左舵5度、次いで左舵10度を取らせたところ、意外に船尾灯が間近に見えたところから、ようやく衝突の危険があることに気付き、急ぎ左舵一杯を命じ、二等航海士に機関を半速力の9.0ノットに減じるように指示したが、時既に遅く、ト号の船首が211度を向いたとき、原速力の12.0ノットのまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、高砂丸は左舷船尾外板に凹損を、同舷後部ハンドレールに曲損をそれぞれ生じ、ト号は右舷側中央部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、備後灘において、高砂丸を追い越すト号が、動静監視不十分で、高砂丸の進路を避けなかったことによって発生したが、高砂丸が、後方の見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、備後灘の推薦航路線に沿って西行する場合、自船を追い越す態勢で接近する後方の他船を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方からくる船は避けてくれるから大丈夫と思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ト号の存在とその接近に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船尾外板に凹損及び同舷後部ハンドレールに曲損を、ト号の右舷側中央部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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