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2000年(平成12年)

平成11年神審第80号
    件名
遊漁船勝丸プレジャーボートエフ270アール衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮
    理事官
蓮池力

    受審人
A 職名:勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:エフ270アール船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
勝丸・・・・・・・損傷なし
エフ270アール・・・左舷中央部外板に亀裂及び破口、転覆、船外機に濡損、修理費の都合で廃船

    原因
勝丸・・・・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
エフ270アール・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、勝丸が、見張り不十分で、錨泊中のエフ270アールを避けなかったことによって発生したが、エフ270アールが、見張り不十分で、勝丸に対して有効な音響信号により注意を喚起しなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

適 条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月2日15時00分
高知県志和埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船勝丸 プレジャーボートエフ270アール
総トン数 4.76トン
登録長 9.70メートル 7.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 132キロワット 294キロワット
3 事実の経過
勝丸は、船体中央部に機関室を、その後方に船室をそれぞれ配置し、船室の上に操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が単独で乗り組み、遊漁の目的で、釣客4人を乗せ、船首0.30メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、平成11年1月2日06時00分高知県上ノ加江漁港を発し、同漁港南方の冠埼沖合の釣場に向かった。
A受審人は、06時40分目的の釣場に至り、錨泊のうえ釣客とともに釣りを開始し、14時40分あじ60キログラムを獲て釣りを終え、帰途に就くための準備に取り掛かり、同時45分興津埼灯台から034度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点を発進すると同時に針路を021度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.8ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

A受審人は、発進時、操舵室において周囲を見渡し、北方の海面には他船を認めなかったことから、前路に他船はいないと思い、船首が浮上して船首方に死角が生じる状況の下、同室中央の舵輪の少し右舷寄りのいすに腰を掛け、左舷前方に見える志和埼を700メートル隔てる針路で北上を続けた。
14時56分少し前A受審人は、興津埼灯台から030度4.4海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに、錨泊している船体が白色のエフ270アールを視認することができ、衝突のおそれがあったが、いすから立ち上がって左右に移動するなど、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
こうして、A受審人は、14時59分少し過ぎ志和埼を左舷側に航過したころ、操舵室前窓際の右舷寄りに設置された魚群探知器に浅所が映ったことから、いすに腰を掛けてこれを覗き込んでいるうち、15時00分興津埼灯台から029度4.9海里の地点において、勝丸は、原針路、原速力のまま、その船首がエフ270アールの左舷中央部に前方から60度の角度で衝突し、船首部船底を乗り上げた。

当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、エフ270アールは、船体中央部に船室とその上に操縦席とを設けたFRP製プレジャーボートで、高出力の船外機2基を装備し、B受審人が単独で乗り組み、釣りの目的で、友人2人を乗せ、船首0.10メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同2日09時00分高知県上ノ加江漁港を発し、志和埼沖合の釣場に向かった。
B受審人は、09時20分前示衝突地点に至り、化繊ロープを船首から150メートル、船尾から50メートルそれぞれ延ばして錨を投じ、船舶が通常航行する水域であったが、錨泊中であることを示す形象物を掲げないまま、船首を西方に向け、機関を停止した状態で錨泊した。
そして、B受審人は、後部甲板上において同乗者が行う釣りの様子を見たり、休憩したりして時間を過ごした後、14時30分休憩のため船室に入り、間もなくプレジャーボート2、3隻が相次いで自船の近くを航過していくのを認めたが、正月休みなので出漁する漁船は少ないはずであり、また、航行中の船舶があれば錨泊中の自船を避けてくれると思い、同室の腰掛けに横になり、周囲の見張りを十分に行わなかった。

そのため、B受審人は、14時56分少し前船首が261度を向いていたとき、左舷船首60度1,000メートルのところに、自船に向首接近する態勢の勝丸が存在し、衝突のおそれがあったが、このことに気付かず、有効な音響信号により注意を喚起しないでいるうち、15時00分少し前同船の機関音を聞いて船室の窓から左舷側を見たとき、至近距離から迫ってくるその船体を初めて認め、室外に出て同乗者ともども船首部に退避するとともに大声で叫んだが、エフ270アールは前示のとおり衝突した。
衝突の結果、勝丸には損傷がなく、エフ270アールは、左舷中央部外板に亀裂及び破口を生じたほか、乗り上がった勝丸が自船から離れる際、これに引きずられて転覆したために船外機に濡損を生じ、修理費の都合で廃船となった。


(原因)
本件衝突は、高知県志和埼沖合において、勝丸が、見張り不十分で、錨泊中のエフ270アールを避けなかったことによって発生したが、エフ270アールが、見張り不十分で、勝丸に対して有効な音響信号により注意を喚起しなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、高知県志和埼沖合において、機関を全速力前進にかけて北上する場合、船首が浮上して船首方に死角が生じる状態であったから、前路で錨泊中のエフ270アールを見落とさないよう、操舵室のいすから立ち上がって左右に移動するなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路には他船はいないと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のエフ270アールに気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、その左舷中央部外板に亀裂及び破口等を生じさせるに至った。
B受審人は、高知県志和埼沖合において、釣りのために船首尾から錨を投じて錨泊する場合、船舶が通常航行する水域であったから、自船に向かって接近する勝丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、正月休みなので出漁する漁船は少ないはずであり、また、航行中の船舶があれば錨泊中の自船を避けてくれると思い、船室内の腰掛けに横になり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する勝丸に気付かず、同船に対して有効な音響信号により注意を喚起しないで衝突を招き、前示のとおり自船に損傷を生じさせるに至った。


参考図






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