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2000年(平成12年)

平成11年神審第34号
    件名
貨物船関空エクスプレス岸壁衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

黒岩貢、西田克史、西林眞
    理事官
杉崎忠志

    受審人
A 職名:関空エクスプレス船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
関空・・・左舷船尾部に擦過傷
岸壁・・・ハンドレールが約60メートルにわたって倒壊

    原因
操船・操機(可変ピッチプロペラ遠隔操縦装置の不具合)措置不適切

    主文
本件岸壁衝突は、可変ピッチプロペラ遠隔操縦装置に不具合が発生した際の措置が不適切で、岸壁に向け進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月28日12時18分
神戸港第3区
2 船舶の要目
船種船名 貨物船関空エクスプレス
総トン数 698トン
全長 78.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,997キロワット
3 事実の経過
関空エクスプレス(以下「関空」という。)は、2基の主機と2舵を備え、2軸の可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)及びバウスラスタを装備した船首船橋型ロールオン・ロールオフ型貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、トラック2台を載せ、船首3.00メートル船尾3.28メートルの喫水をもって、平成10年9月28日12時15分神戸港六甲アイランド南岸の神戸航空貨物ターミナル前の岸壁を発し、大阪府泉州港に向かうこととなった。
ところで、関空は、CPPの翼角、バウスラスタの翼角及び舵角を操作ユニットのジョイスティックと回頭ダイヤルにより一括制御し、船体を任意の方位に移動させることができる統括操縦装置(以下、この装置を用いる操船方法を「統括操縦」という。)を装備し、操舵スタンド左側の主機制御盤に設けられた操縦パネルのスイッチを切り換えることにより、操舵室中央部において各機器を個別に操作して行う通常の操船方法(以下「個別操縦」という。)と、操舵室各舷に配置したコントロールスタンド上の操作ユニットを用いて行う統括操縦のいずれかを選択することができるようになっていた。

また、個別操縦から統括操縦への切換えは、舵の制御、操舵機、CPP変節油ポンプ、CPP翼角のマイクロコンピュータによる制御(フォロー制御)、バウスラスタ駆動電動機、同操縦位置が船橋であること、主機回転数が適正範囲内であること及びクラッチが嵌合(かんごう)されていることの各条件がすべて準備完了したときに限って可能であった。そして、いったん統括操縦への切換え完了後、前示条件が不備となった場合には、警報を発令するものの、不具合となった機器以外の統括操縦を続けることも可能であったが、メーカーの取扱説明書では操縦バランスが崩れるため、個別操縦に切り換えて対処することを推奨していた。
また、同説明書では、「左舷CPPリモコン異常」など、CPP遠隔操縦装置についての警報が発令された場合、統括操縦においても、個別操縦に切り換えても、CPP翼角のフォロー制御ができなくなるので、主機制御盤の操縦パネルにあるCPP遠隔操縦装置のフォロー・ノンフォロー切換えスイッチをノンフォロー側に切り換え、制御スイッチを前進側、または後進側に倒すことにより、マイクロコンピュータを介さずにCPP翼角を制御するよう記述されていた。

A受審人は、平成6年の関空艤装時に二等航海士として、同8年からは船長として同船及び姉妹船の六甲エクスプレスに交互に乗船しており、とりわけ関空では、六甲アイランドと泉州港の間を1日3往復し、平素から統括操縦を使用して離接岸操船をしていたことから、同装置による操船には十分に慣れており、これまで統括操縦に不具合が発生したことがなく、前示CPP翼角のノンフォロー制御をしたこともなかったが、スイッチの切換えにより同制御ができることは知っていた。
こうしてA受審人は、単独で昇橋して操船指揮に就き、統括操縦の各条件が全て成立した旨の表示灯が点灯していることを確認し、左舷入り船付けであったため操縦装置を個別操縦から左舷操作ユニットを用いる統括操縦に切り換え、船首甲板に一等航海士及び三等航海士を、船尾甲板に二等航海士と一等機関士を、機関室に機関長をそれぞれ配置して出港スタンバイとし、船首から左舷後方の岸壁上のビットにとったスプリング1本を残してシングルアップしたのち、同日12時15分同索を解放し、操作ユニットのジョイスティックを軽く手前に引きCPP翼角を微速力後進にかけて出航した。

A受審人は、間もなく後進行き脚がつき、12時15分少し過ぎ船首が前方の可動橋桟橋から10メートル離れたことからジョイスティックを中立とした。
このとき、関空は、統括操縦装置の一部であるCPP遠隔操縦装置のプリント基板上端子に接触不良が発生し、CPPリモコン異常警報が発令されるとともに、CPP翼角は通常の操作では変節不能となる事態に陥り、3.0ノットの後進惰力がついたままの状態となった。
警報を聞いたA受審人は、ジョイスティックを右真横に、次いで前に倒しても、船首が岸壁からわずかに離れただけで行き脚は変わらなかったことから、CPP遠隔操縦装置の異常を認めたものの、気が動転していたこともあって個別操縦から統括操縦への切換えが不完全であったものと思い、同装置のフォロー制御が不可能となったことに気付かず、後進行き脚を逓減できるよう、直ちに操縦パネルのスイッチをノンフォローに切り換えてCPP翼角を制御スイッチにより操作するなど、CPP遠隔操縦装置の不具合に対する適切な措置をとらなかった。

そしてA受審人は、いったん個別操縦に戻してバウスラスタの操作を行い、さらに統括操縦への切換えを試みるなどしたものの、CPP翼角を制御することができず、後進惰力のまま岸壁に向け進行中、関空は、12時18分神戸港第7防波堤東灯台から真方位281度2,120メートルの地点において、3.0ノットの後進惰力をもったその左舷船尾部が、岸壁に9度の角度で衝突した。
衝突時A受審人は、船尾方の浮き桟橋への接触を回避しようと船首配置の一等航海士に左舷錨の投下を指示し、関空は、12時22分ようやく停止した。
当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果、関空は、左舷船尾部に擦過傷を生じたのみであったが、岸壁上のハンドレールが約60メートルにわたってなぎ倒され、のち修理された。


(原因)
本件岸壁衝突は、神戸港において、統括操縦により離岸操船中、CPP遠隔操縦装置に不具合が発生した際、直ちに同装置をフォロー制御からノンフォロー制御に切り換え、CPP翼角を制御スイッチにより操作するなど、それに対処するための措置が不適切で、岸壁に向け進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、神戸港において、統括操縦により離岸操船中、CPP遠隔操縦装置に不具合を認めた場合、同装置のフォロー制御が不可能となったのであるから、直ちに同装置をフォロー制御からノンフォロー制御に切り換え、CPP翼角を制御スイッチにより操作するなど、CPP遠隔操縦装置の不具合に対処するための適切な措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、統括操縦への切換えが不完全であったものと思い、一旦、個別操縦に戻すなどしていて、CPP遠隔操縦装置の不具合に対処するための適切な措置をとらなかった職務上の過失により、後進惰力のまま岸壁に向け進行して衝突を招き、左舷船尾部に擦過傷を生じさせ、岸壁上のハンドレールを60メートルにわたって損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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