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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月1日07時40分 和歌山県地ノ島北方沖合 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートドント マインド 総トン数 10トン 全長 11.87メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
323キロワット 船種船名 プレジャーボート福元丸 登録長 3.29メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
5キロワット 3 事実の経過 ドント
マインド(以下「ド号」という。)は、2基2軸2舵を備え、船体中央からやや後方の左舷側に操縦席を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.7メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成10年11月1日06時15分大阪港堺泉北区第5区を発し、和歌山県地ノ島北方沖合の釣場に向かった。 ところで、ド号には、船首の持ち上がりの制御や横風などの影響による船体の傾きを補正するためのフラップと称する可動式翼板が、トランサムの左右各舷側下方にそれぞれ海面に対してほぼ水平に取り付けられていた。そして、A受審人は、ド号の速力が8ノットから16ノットの間では船首が浮上し、前方の見通しが妨げられることから、そうならないようにいつもフラップ先端部を下向きにした状態で発進し、増速ののち船体が滑走状態に入ればフラップを水平に戻すよう操作していたものの、航行中に減速するなどして船首が浮上するようなときには、フラップの操作は行わず、これまで船首を左右に振って船首方の死角を補う見張りを行っていた。 発進したA受審人は、操縦席に腰を掛けて操舵と見張りに当たり、機関を全速力よりも少し下げた回転数にかけ、間もなく船体が滑走状態となったところでフラップを水平に戻し、堺泉北区を西行して泉大津沖埋立処分場北端を左舷側に見てこれを付け回し、機関を全速力前進にかけて大阪湾を南下した。 07時31分半A受審人は、地ノ島灯台から045度(真方位、以下同じ。)1.72海里の地点で、針路を地ノ島西端近くに向けて248度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 A受審人は、地ノ島に近づくにつれ、同島北方に散在する100隻ばかりの漁船や遊漁船を認め、07時36分少し前地ノ島灯台から350度1,260メートルの地点に至り、もう少し西寄りの釣場に向かうこととし、針路を散在する小型船の間に向けて270度に転じて続航した。 転針したA受審人は、予定の釣場まで間もないので減速することとし、機関を半速力前進に減じ、10.0ノットの対地速力となったとき、船首が浮上して左舷船首15度から右舷船首20度にわたって死角を生じたが、転針するときその方向に何も認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首方に死角のある状態で進行した。 07時37分少し前A受審人は、地ノ島灯台から336度1,360メートルの地点に達したとき、正船首1,000メートルに漂泊中の福元丸を視認でき、その後同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めることができる状況にあったが、依然、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなり、船首の持ち上がりを制御するフラップを活用するなど船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かずに続航した。 こうして、A受審人は、前路の福元丸を避けることなく進行中、07時40分地ノ島灯台から309度1,980メートルの地点において、ド号は、原針路、原速力のまま、その船首が、福元丸の右舷中央部に90度の角度で衝突し、これを乗り切った。 当時、天候は曇で風はなく、潮候は下げ潮の中央期であった。 A受審人は、衝突に気付かないでいたところ、付近のプレジャーボートから無線でその事実を知らされ、急ぎ反転して事後の措置に当たった。 また、福元丸は、船外機付きのFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日06時30分大阪府深日港の谷川泊地を発し、地ノ島北方沖合の釣場に向かった。 B受審人は、06時45分友ケ島水道北側に当たる、衝突地点付近の釣場に至って船外機を止め、船尾から長さ5メートルの化学繊維製ロープにパラシュート型シーアンカーを連結して海中に投じ、同ロープの一端を船体に船外機を固定するために締め付ける2個のクランプハンドルに大回しに2回巻き、その末端のアイを同ハンドルに掛け、船首を北方に向けて漂泊した。 そして、B受審人は、船体中央部のいけすの上蓋に腰を掛けて船尾方を向き、折から風もなく、友ケ島水道は憩流時に当たっていたので、シーアンカーのパラシュートが開かず、同アンカー用のロープが弛んだ状態のまま、2本の釣竿を両舷から出し、時折周囲を見張りながら釣りを続けた。 07時39分半少し前B受審人は、衝突地点において、船首が000度に向いていたとき、右舷正横200メートルのところにド号を初めて視認し、間もなく自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めたが、いずれド号が自船を避けるものと思い、同船の動静を見守った。 07時39分半少し過ぎB受審人は、ド号が避航の気配を示さないまま100メートルに迫ったが、依然として同船の避航を期待し、シーアンカー用のロープを解き放して機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けるうち、同時40分少し前ようやく危険を感じ、急ぎ海中に飛び込んで難を逃れ、福元丸は、000度に向首したまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、ド号は、船首及び船底部に擦過傷を生じただけであったが、福元丸は、右舷側外板を大破して水船となり、船外機などが冠水し、ド号に曳航されて発航地に引き付けられたが、のち廃船となった。また、B受審人は、来援した漁船に救助された。
(原因) 本件衝突は、和歌山県地ノ島北方沖合において、ド号が、見張り不十分で、漂泊中の福元丸を避けなかったことによって発生したが、福元丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、和歌山県地ノ島北方沖合において、釣場に向けて西行する場合、船首の浮上によって死角を生じる状況であったから、前路で漂泊している福元丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなり、船首の持ち上がりを制御するフラップを活用するなど船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路の福元丸に気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、ド号の船首及び船底部に擦過傷を生じさせ、福元丸の右舷側外板を大破させて船外機などを冠水させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、和歌山県地ノ島北方沖合において、漂泊して魚釣り中、ド号が右舷正横から自船に向首して避航の気配を示さないまま接近するのを認めた場合、シーアンカー用のロープを解き放して機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれド号が自船を避けるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷などを生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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