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2000年(平成12年)

平成11年神審第104号
    件名
油送船しんみなみ丸漁船千代丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、阿部能正、黒岩貢
    理事官
清水正男

    受審人
A 職名:しんみなみ丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:しんみなみ丸一等航海士 海技免状:二級海技士(航海)
C 職名:千代丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
しんみなみ丸・・・ファッションプレートに小凹損
千代丸・・・・・・右舷船尾部を破損

    原因
しんみなみ丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守、見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
千代丸・・・・・・狭視界時の航法(信号、レーダー)不遵守、見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、しんみなみ丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったばかりか、目視できるようになった際、見張り不十分で、漂泊中の千代丸を避けなかったことによって発生したが、千代丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったばかりか、目視できるようになった際、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月27日17時10分
伊良湖水道
2 船舶の要目
船種船名 油送船しんみなみ丸 漁船千代丸
総トン数 698トン 14トン
全長 68.80メートル 21.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
しんみなみ丸は、アスファルトの輸送に従事する船尾船橋型のタンク船で、A及びB両受審人ほか5人が乗り組み、同貨1,050トンを載せ、船首3.80メートル船尾4.55メートルの喫水をもって、平成10年7月27日13時40分三重県四日市港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
A受審人は、船橋当直をいつものとおり同人が08時から12時まで、次いで二等航海士、B受審人の順に4時間交替の輪番で行うこととし、14時00分出航操船を終えたとき、二等航海士に船橋当直を委ねるに当たり、あらかじめ入手していた気象情報により、当日午後から強い雨が降り、視界が悪くなると予想していたが、当直航海士がいずれも自身より上級の海技免状を受有し、伊勢湾における航海経験もあるので、改めて指示するまでもないと思い、視界が悪化したときには自身に報告するよう、また、これを次直者に申し送るよう指示することなく自室に退いた。

B受審人は、15時45分伊勢湾第4号灯浮標の南東方1.0海里付近で昇橋し、二等航海士から視界が悪化したときの報告について申し送りの指示を受けないまま単独の船橋当直に就き、雨の影響で約2海里となった視程が、強雨域に入るとそれ以下となり、同域を抜けると再び元の程度まで回復する状況の下で伊勢湾を南下した。
16時45分B受審人は、伊勢湾第3号灯浮標付近に至り、伊良湖水道に差し掛かったころ、前方の視程が一時的に200メートルになったが、付近にいる3隻ばかりの漁船及び前路の同航船をレーダーで把握していたことから、A受審人に昇橋を求めるまでもないと思い、視界が悪化した旨を同人に報告しなかったうえ、霧中信号を行うことも、安全な速力にすることもせず、航行中の動力船の灯火を表示して航行した。
B受審人は、16時50分神島灯台から355度(真方位、以下同じ。)1.6海里の伊良湖水道航路北口で、針路を133度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で航路をこれに沿って自動操舵により進行し、17時02分神島灯台から086度1.4海里の地点で航路を出たとき、針路を160度に転じ、折からの北西流及び東南東風により右方へ3度圧流されながら同じ速力で伊良湖水道を南下した。

転針したときB受審人は、降雨のため視程が船首方で400メートル、左舷前方から後方にかけて800メートルであり、視界が制限された状態の下、レーダーにより船首1.6海里のところに、漂泊中の千代丸の映像を認めることができる状況であったが、左舷前方に視認していた第三船である漁船に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、千代丸の存在及びその後同船と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を停止することなく続航した。
17時09分少し前、B受審人は、船首方の視程が同じく400メートルで、正船首ほぼ同距離に船首を250度に向けて漂泊中の千代丸を目視することができる状況であったところ、これまでに同船のレーダー映像を見落としていたこともあり、前路には第三船以外の他船がいないと思い込み、見張りを十分に行っていなかったので、千代丸の存在に気付かず、速やかに同船を避けることなく同じ針路、速力及び圧流模様で進行した。

そして、B受審人は、左舷前方の第三船に対して昼間信号灯により点滅を数回行い、17時10分わずか前ふと前方を見たとき、船首至近に白色に塗装した千代丸を初めて視認したものの、どうすることもできず、17時10分神島灯台から124.5度2.2海里の地点において、しんみなみ丸は、その船首が千代丸の右舷船尾に直角に衝突した。
当時、天候は雨で風力4の東南東風が吹き、視程は400メートルで、潮候は上げ潮の中央期にあたり、付近には1.3ノットの北西流があった。
A受審人は、自室にいたところB受審人から衝突の報告を受け、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
また、千代丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同27日07時30分愛知県一色漁港を発し、伊良湖水道南方の漁場に向かった。

C受審人は、08時30分瀬木寄瀬東方灯標の東方0.5海里付近の漁場に至って操業を開始し、その後南北方向に曳網を繰り返すうち、12時過ぎに雨が降り始め、付近が航行する船舶の多い海域であることから、他船から自船が視認されやすいように黄色回転灯を点灯して操業を続けた。
C受審人は、16時00分ごろから強い雨が頻繁に降り、また、海上も荒れ模様となってきたので、操業を止めて帰航することに決め、同時40分神島灯台から127.5度2.9海里の地点において、船首を西方に向けて機関のクラッチを中立とし、折からの北西流と東南東風によって北西方に1.5ノットの速力で流されながら漂泊し、甲板員とともに後部甲板上で揚網に取り掛かり、降雨の状態によって視程が1海里以下に狭められていたが、雨が止めば回復するものと思い、霧中信号を行わなかった。

17時00分C受審人は、揚網を終えると引き続き後部甲板上で漁獲物の選別作業を始め、同時02分神島灯台から126度2.4海里の地点において、船首を250度に向けた状態で漂泊していたとき、レーダーにより右舷正横1.6海里にしんみなみ丸の映像を認めることができ、その後同船が自船に向首接近していることが分かる状況であったところ、漁獲物の選別作業に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
そして、C受審人は、17時09分少し前、北方の視程が400メートルであり、右舷正横同距離にしんみなみ丸を目視できる状況となったとき、同船が自船に向けて接近しており衝突の危険があったが、見張り不十分で、依然これに気付かず、警告信号を行うことも、速やかに機関のクラッチを前進に入れるなど、衝突を避けるための措置もとらないでいるうち、千代丸は、船首を250度に向けて漂泊中、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、しんみなみ丸はファッションプレートに小凹損を生じ、千代丸は右舷船尾部を破損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、降雨のため視界制限状態となった伊良湖水道において、しんみなみ丸が、霧中信号を行わなかったうえ、安全な速力とせず、かつ、レーダーによる見張り不十分で、漂泊中の千代丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を停止しなかったばかりか、千代丸を目視できるようになった際、見張り不十分で、同船を避けなかったことによって発生したが、千代丸が、霧中信号を行わなかったうえ、レーダーによる見張り不十分で、かつ、しんみなみ丸を目視できるようになった際、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
しんみなみ丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、同当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
A受審人は、四日市港の発航操船を終えて二等航海士に単独の船橋当直を委ねる場合、あらかじめ入手していた気象情報により、当日午後から強い雨が降り、視界が悪くなると予想していたのであるから、視界が悪化したときには自身に報告するよう、また、その旨を次直者に申し送るよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、航海士がいずれも自身より上級の海技免状を受有し、伊勢湾における航海経験もあるので、改めて指示するまでもないと思い、視界が悪化したときには自身に報告するよう、また、その旨を次直者に申し送るよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から視界が悪化した旨の報告が得られず、自ら操船の指揮をとることができずに衝突を招き、自船のファッションプレートに小凹損を、千代丸の右舷船尾部を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、単独で船橋当直に当たって伊良湖水道を南下中、降雨のため視界が制限された状態となった場合、前路に漂泊中の千代丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷前方に視認していた第三船に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、千代丸の存在及びその後同船と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を停止しなかったばかりか、同船を目視できるようになった際、依然見張り不十分で、千代丸を避けずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、降雨のため視界が制限された伊良湖水道において漂泊する場合、接近するしんみなみ丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、漁獲物の選別作業に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、目視できるようになった際も、しんみなみ丸が右舷正横から接近してくることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもしないで衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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