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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月18日05時43分 東京湾海獺島北方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船松雄丸 漁船長国丸 総トン数 4.9トン 2.9トン 登録長 10.68メートル 8.80メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 323キロワット
114キロワット 3 事実の経過 松雄丸は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、さば一本釣り漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年8月18日05時00分神奈川県間口漁港を出港し、同時30分海獺島灯台から277度(真方位、以下同じ。)750メートルの地点において、機関を中立として漁協取り決めによる操業開始時刻まで待機し、同時40分数十隻の僚船とともに同地点を発し、同県千代ヶ埼沖合の漁場に向かった。 ところで、A受審人は、自船が速力を徐々に増すと13ノットあたりから船首が浮上して前方に死角が生じるため、普段はレーダーを使用して付近の状態を確かめたり、船首を左右に振るなどして死角を補っていた。 A受審人は、発進時から針路を029度に定め、舵輪の後方に立って操船に当たり、徐々に速力を上げ16.0ノットに整定した速力で同僚漁船群の最西端に位置して進行し、05時42分正船首495メートルのところに停留中の長国丸と、衝突のおそれのある態勢となったが、前方に死角が生じていて、いつもこの辺りに船がいないので、前路に他船はいないものと思い、天窓から顔を出すなり、船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かないまま続航した。 05時43分わずか前、A受審人は船首至近に迫った長国丸のスパンカ用マストに気付き右舵一杯としたが、及ばず、05時43分海獺島灯台から352度1,160メートルの地点において、原針路、原速力のまま、松雄丸の船首が、長国丸の船尾に真後ろから衝突した。 当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、海上は平穏であった。 また、長国丸は、汽笛吹鳴装置を備えないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、知人1人を手伝いとして乗せ、たいはえ縄漁の目的で、船首0.1メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日05時00分千葉県竹岡漁港を発し、神奈川県久里浜沖合の漁場に向かった。 05時30分B受審人は、海獺島灯台から004度1,300メートルの漁場に到着して操業の準備を行い、同時33分漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げないまま、機関のガバナを増速側にしても設定された低速回転以上に上がらないトローリング設定とし、2.0ノットの極微速力前進で、船首を253度に向けてはえ縄の投入を始め、約400メートルの1本目の縄の投入を終え、同時39分海獺島灯台から347度1,230メートルの地点において、2本目の縄をつなぎ、今度はジグザグとなるよう反転し、船首を107度に向けて進行した。 05時40分B受審人は、船首が107度を向いていたとき、右舷正横後9度1,200メートルの海獺島付近にいた一群の漁船が、一斉に北方に向かって走り出したのに気付き、しばらくそれらの動静を監視し、それらの漁船が自船の前方を航過する態勢にあるのを確かめ、同時41分機関を中立として停留し、引き続き様子を見ていたところ、同時42分一群の最西端に位置していた松雄丸のみが、右舷正横後12度495メートルに見る態勢となって、自船に向首し、衝突のおそれが生じていたが、接近してから自船を避けるであろうと思い、更に接近してもトローリング設定を解除して、適切な衝突を避けるための措置をとることなく、停留を続けた。 05時43分少し前B受審人は、自船がそれまでの船首方向を保っていたとき、松雄丸が避航することなく右舷正横後12度100メートルにまで接近し、自船の右舷側中央部に向首しているので危険を感じ、前進にクラッチを入れ機関の回転を上げ左舵一杯としたものの、動転していてトローリング設定を解除していなかったので、予定した回頭力を得られないまま緩やかにその場で左回頭中、029度を向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、松雄丸は船首部を擦過し、長国丸は船尾部に亀裂を生じて、船橋を圧壊し、僚船に曳航されて竹岡漁港に引きつけられ、のち修理され、長国丸同乗者Cが頭部や腰部などに約2週間の打撲傷を、B受審人が約1週間の左上腕挫創及び打撲傷を負った。
(原因) 本件衝突は、神奈川県久里浜沖において、松雄丸が、漁場に向けて航行する際、見張り不十分で、前路で停留して操業中の長国丸を避けなかったことによって発生したが、長国丸が、衝突を避けるための措置を適切にとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、神奈川県久里浜沖において、1人で操船に当たり漁場に向けて航行する場合、自船の前方に死角があったのであるから船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、いつもこの辺りに船がいないので、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で停留して操業中の長国丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、自船の船首部を擦過し、長国丸の船尾部に亀裂を生じさせ、船橋部を圧壊させたほか、同乗者に打撲傷を、B受審人に挫創及び打撲傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。 B受審人が、神奈川県久里浜沖においてはえ縄を投入中、自船に向首接近する松雄丸を認めた場合、同船の避航に期待するだけでなく、自船から避航するに際しては、予定回頭力が得られるよう、トローリング設定を解除しておき、適切な衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、松雄丸が接近してから自船を避けるであろうと思い、トローリング設定を解除しないまま機関の操作を行い、予定回頭力が得られず、適切な衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、衝突直前にとられた避航措置が、効なく、前示のとおり衝突を招き、損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する
参考図
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