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2000年(平成12年)

平成12年横審第27号
    件名
引船高須丸引船列漁船あくゆう丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西村敏和、半間俊士、平井透
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:高須丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:あくゆう丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
高須丸引船列・・・損傷なし
あくゆう丸・・・・船首張出部が脱落するなどの損傷

    原因
あくゆう丸・・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
高須丸引船列・・・被えい船の法定灯火不表示、動静監視不十分、注意喚起措置不履行(一因)

    主文
本件衝突は、あくゆう丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る高須丸引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、高須丸引船列が、最後尾の被えい船に法定の灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、注意喚起の措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月2日04時05分
静岡県御前埼東南東方
2 船舶の要目
船種船名 引船高須丸 漁船あくゆう丸
総トン数 196.11トン 6.68トン
全長 31.60メートル
登録長 28.42メートル 10.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット
漁船法馬力数 120
船種船名 起重機船兼杭打船松庫250
総トン数 1,305トン
全長 48.00メートル
幅 22.00メートル
深さ 3.50メートル
船種船名 作業船第二隆丸
総トン数 19トン
全長 13.70メートル
登録長 12.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 853キロワット
3 事実の経過
高須丸は、ダックプロペラを備えた2基2軸の鋼製引船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.4メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、作業責任者Cほか8人が乗り組み、船首1.5メートル船尾1.8メートルの喫水となった松庫250(以下「台船」という。)を、更に台船の船尾から、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水となった無人の第二隆丸を縦列でえい航し、平成11年6月25日10時00分山口県三田尻中関港を発し、千葉県木更津港に向かったが、途中荒天のため、大阪府阪南港及び三重県尾鷲港に順次避泊し、7月1日05時30分尾鷲港を発し、木更津港に向けてえい航を再開した。

A受審人は、尾鷲港を出たところで、高須丸から繰り出した直径46ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約200メートルのワイヤロープと、台船の船首両端からV字型に取った直径42ミリ長さ約30メートルのワイヤロープとを、直径90ミリ長さ約25メートルのナイロン製スプリングロープにより連結して台船をえい航し、更に台船の船尾から、直径32ミリ長さ約120メートルのワイヤロープと直径50ミリ長さ約25メートルのナイロン製スプリングロープとを繋いで第二隆丸をえい航して、高須丸の船尾から台船の後端までの距離を約300メートル、同じく第二隆丸の後端までの距離を約460メートルの引船列(以下「高須丸引船列」という。)とした。
ところで、台船は、船首部に225トン吊りの起重機を備えた非自航船で、船尾部の3層から成る上部構造物の最上層に船橋があり、各種法定灯火を設置しているほか、上部船橋甲板には、両舷側に作業甲板照射用の500ワットの作業灯と、中央部に400ワットの水銀灯を使用する伏仰(ふぎょう)旋回式の投光器をそれぞれ設置していた。また、第二隆丸は、専ら台船の投揚錨作業に従事する台船付属の作業船で、船橋上部に各種法定灯火を設置しているほか、株式会社ゼニライトブイ製のL−2型と呼称する、単一乾電池4個を電源とし、発光部に黄色フィルタを使用した毎4秒に1閃光の単閃黄光で視認距離約1キロメートルの日光弁付き簡易標識灯(以下「簡易灯火」という。)を、マスト頂部の海面上の高さ約6メートルのところに1個と、船橋上部の四隅の同じく約4.5メートルのところに各1個の合計5個を設置していた。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士による4時間交替の単独2直制とし、台船では、C作業責任者ほか7人による4時間交替の各直2人の4直制とし、えい航状態の確認や周囲の見張りなどに当たらせ、必要に応じてトランシーバー又は船舶電話により連絡をとることにし、昼間においては、高須丸をはじめ各船にひし形の形象物をそれぞれ表示し、夜間においては、高須丸には、えい航物件の後端までの距離が200メートルを超える場合のえい航船の法定灯火を表示し、台船には、被えい船の法定灯火である舷灯及び船尾灯を表示したほか、作業灯2個を点灯して作業甲板を照射し、また、第二隆丸には、被えい船の法定灯火を表示せず、法定灯火に比べて十分な視認距離を有しない前示簡易灯火5個を、三田尻中関港発航前に乾電池を新換えしたうえ、同港発航時から点灯していた。
23時00分から船橋当直に就いた一等航海士は、静岡県天竜川沖合から御前埼沖合にかけての遠州灘を陸岸から約10海里隔てて東航し、翌2日02時00分御前埼灯台から184度(真方位、以下同じ。)7.6海里の地点において、針路を083度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.2ノットの対地速力で、駿河湾口沖合を神子元島南方約1海里に向け、自動操舵によって進行した。
03時00分A受審人は、御前埼灯台から146度8.3海里の地点において、一等航海士と船橋当直を交替し、同じ針路及び速力で続航中、04時00分半、同灯台から121.5度12.0海里の地点において、左舷船首13度1.0海里のところのあくゆう丸の灯火を視認し得る状況で、その後高須丸引船列の前路を右方に横切り、衝突するおそれのある態勢で接近したが、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。

04時03分A受審人は、御前埼灯台から121度12.1海里の地点において、ようやく左舷船首19度600メートルのところに接近したあくゆう丸の白、紅2灯を初めて視認し、高須丸引船列に小角度で接近する態勢であることを知ったが、あくゆう丸が第二隆丸の船尾方を避けるものと軽く考え、その後も船橋左舷側の椅子に腰をかけたまま漫然と船橋当直を続け、あくゆう丸の動静監視を行っていなかったので、同船が台船の付近に向けて接近していることに気付かず、台船の当直者に対し、投光器により第二隆丸の方向を照射するなどして注意を喚起するよう指示することなく進行した。
こうして、A受審人は、あくゆう丸の動静監視を行わないまま続航中、04時04分わずか過ぎ、御前埼灯台から120.5度12.2海里の地点において、同船が高須丸の左舷正横80メートルのところを通過し、台船の付近に衝突するおそれのある態勢で接近したが、依然として、このことに気付かず、同時04分半、台船の当直者が、左舷船首至近に台船と第二隆丸との間に向首したあくゆう丸を認め、左舷側ウイングに出て同船に対して大声を発したものの、効なく、同船は少し右に転針しただけで台船の左舷側を30メートル隔てて通過し、04時05分御前埼灯台から121度12.1海里の地点において、高須丸引船列は、原針路、原速力のまま、最後尾の第二隆丸の左舷船首部が、あくゆう丸の船首部に前方から45度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、C作業責任者からの報告を受けて事故の発生を知り、事後の措置に当たった。
また、あくゆう丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか漁の目的で、船首0.25メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同月2日01時45分静岡県安良里漁港を発し、御前埼沖合の漁場に向かった。
B受審人は、法定灯火を表示し、02時05分田子島灯台から270度1.0海里の地点において、針路を218度に定め、機関回転数毎分1,700とし、12.0ノットの対地速力で、御前埼灯台から159度12.8海里の地点に浮魚礁として設置された御前崎沖金洲ノ瀬北方海洋観測灯浮標に向け、自動操舵によって進行した。
B受審人は、操舵室右舷側の椅子に腰をかけて操船に当たり、03時59分御前埼灯台から116度12.7海里の地点において、白、白、白3灯を連掲した高須丸と作業灯を点灯した台船を初めて視認し、1.5海里レンジとしたレーダーで、右舷船首25度1.5海里のところに高須丸とそのわずか右方に台船の映像を確認したが、第二隆丸が法定灯火を表示せず、これに代えて十分な視認距離を有しない簡易灯火だけを点灯していたので、これを視認することができず、また、レーダーによっても第二隆丸の映像を探知することができなかったので、高須丸は台船1隻だけをえい航して前路を左方に横切る態勢で接近していると判断し、台船の作業灯が明瞭に視認できていたので、高須丸引船列を初認した後は、レーダーを使用せず、目視による動静監視を行いながら続航した。

B受審人は、高須丸引船列の方位が右方に変化するのを認め、同引船列の前路を無難に横切ることができる態勢であることを知ったが、横切っている間に自船の機関に故障でも生じてはいけないと思い、念のため台船の船尾方を避けることにし、その後台船の動静監視に気を取られ、レーダーを活用するなどして見張りを十分に行っていなかったので、台船の後方に第二隆丸がえい航されていることに気付かず、04時00分半、御前埼灯台から118度12.6海里の地点において、高須丸を右舷船首32度1.0海里に見るようになったとき、針路を30度右に転じて248度とし、台船の作業灯を右舷船首方に見て進行した。
B受審人は、台船の船尾至近のところを避けるつもりで続航中、04時02分御前埼灯台から119度12.4海里の地点において、高須丸が正船首1,140メートルのところを左方に替わり、同時03分半、同灯台から120度12.3海里の地点に達して、台船を正船首わずか右方620メートルに見るようになり、右舷船首4度780メートルのところに第二隆丸が存在し、その簡易灯火を視認し得る状況となったが、両船の進路が15度の小角度で交差しており、台船の船尾至近を避けることに気を取られ、台船の作業灯の明るさで簡易灯火が視認しにくかったこともあって、これに気付かず、同時04分わずか過ぎ、高須丸を左舷正横80メートルに見て通過して間もなく、台船の左舷船尾に接近し過ぎることに気付き、操舵室天井の開口部を開け、上半身を出して操船に当たったものの、このころほぼ正船首200メートルのところに第二隆丸が接近していることに気付かなかった。
こうして、B受審人は、第二隆丸の簡易灯火に気付かないまま進行中、04時04分半わずか過ぎ、台船の左舷中央部に30メートルまで接近したとき、手動操舵に切り換えて更に針路を10度右に転じて258度とし、台船の左舷船尾部を30メートル隔てて通過したところで操舵室内に下がり、同時05分わずか前、元の針路の218度まで戻して自動操舵に切り換えたとき、正船首至近に第二隆丸の船体を認め、急いで右舵一杯をとったが、効なく、あくゆう丸は、218度に向いた船首が、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、高須丸引船列は、損傷がなく、あくゆう丸は、船首張出部が脱落するなどの損傷を生じたが、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、静岡県御前埼沖合において、両船が互いに進路を横切り、衝突するおそれのある態勢で接近中、漁場に向けて南下中のあくゆう丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る高須丸引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、東航中の高須丸引船列が、最後尾の被えい船に法定の灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、注意喚起の措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、静岡県御前埼沖合において、漁場に向けて南下中、前路を左方に横切る態勢の高須丸引船列を認め、同引船列の進路を避ける場合、最後尾の被えい船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、被えい船は台船1隻だけと思い、台船の船尾至近を避けることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、台船の船尾から更に第二隆丸がえい航されていることに気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、あくゆう丸の船首部を大破させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
A受審人は、夜間、静岡県御前埼沖合において、台船及び法定の灯火に代えて十分な視認距離を有しない簡易灯火を点灯した第二隆丸の2隻を縦列でえい航中、自船の後方に向け右方に横切る態勢のあくゆう丸を認めた場合、被えい船と衝突するおそれについての判断ができるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一見してあくゆう丸が引船列最後尾の第二隆丸を避けて行くものと軽く考え、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、あくゆう丸が、台船の船尾至近を通過しようとして、高須丸引船列と衝突するおそれのある態勢で接近していることに気付かず、台船の当直者に対し、投光器により第二隆丸の方向を照射するなどして注意喚起の措置をとるよう指示することなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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