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2000年(平成12年)

平成11年広審第53号
    件名
貨物船第十五住若丸漁船秀漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、釜谷奬一、工藤民雄
    理事官
上中拓治、小寺俊秋

    受審人
A 職名:秀漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
住若丸・・・左舷船首部に擦過傷及びハンドレールに曲損
秀漁丸・・・船首部にき裂、破損等

    原因
秀漁丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、秀漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の第十五住若丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月27日06時05分
瀬戸内海高松港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十五住若丸 漁船秀漁丸
総トン数 454トン 4.9トン
登録長 53.30メートル 11.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第十五住若丸(以下「住若丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製砂利採取運搬船で、船長Bほか4人が乗り組み、海砂900立方メートルを積載し、船首3.4メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成10年8月26日10時00分徳山下松港を発し、神戸港に向かい、途中、仕向け地の変更に伴う時間調整のため、香川県高松港に寄せて待機することとなった。
翌27日01時00分住若丸は、高松港内の高松港朝日町外防波堤北灯台から091度(真方位、以下同じ。)420メートルの地点で、右舷錨を投錨して錨鎖3節を延出し、錨泊灯を掲げたほか、甲板を照明する投光器、船首部作業灯、船尾通路照明灯などを点灯して錨泊を開始した。

住若丸は、そのままの状態で、乗組員が休息をとり錨泊中、06時05分前示投錨地点において、230度に向首していたとき、その左舷船首部に、秀漁丸の船首が、前方から7度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、日出は05時33分であった。
また、秀漁丸は、中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、香川県鎌野漁港を基地とし、備讃瀬戸東部の漁場において、A受審人が専らえびこぎ網漁に使用していた。
A受審人は、早朝03時ごろ出港してえびこぎ網漁を行い、17時ごろ水揚げのため帰港するという就業形態を連日続けていたところ、同月26日夕刻就業を終えて帰宅し、翌日の予定が、久々に近場でのたこつぼなわ漁で早朝の出漁を必要としなかったことから、睡眠をとらないまま飲酒を始め、ふだんの酒量を超えたころに高松市内の行きつけの酒場に出かけることを思い立ち、翌27日00時ごろ秀漁丸で鎌野漁港を出発し、01時ごろ高松港に着き、同船を北浜町の岸壁に係留して同市内の酒場に出向き、03時半ごろまで飲酒を続けた。

その後A受審人は、食事をとるなどして睡眠をとらないまま秀漁丸にもどり帰航することとしたが、睡眠不足と飲酒の影響で強い眠気を覚えており、そのままの状態で出航すると居眠り運航となるおそれがあったものの、約1時間の航程であり外気に当たって操船すればなんとかなると思い、出航に先立ちいったん仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった。
こうしてA受審人は、秀漁丸に1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、05時54分高松港北浜町の係留地を発し、鎌野漁港に向かい、同時58分東防波堤を航過したころ、それまで操舵室後方の甲板で立って操船を行っていたものの、眠気により立っているのが辛くなり、同室の左舷側甲板に右舷方に向いて座り、遠隔操舵によって続航した。
06時01分半A受審人は、高松港朝日町防波堤灯台から313度15メートルの地点に達したとき、眠気でもうろうとしており、何とか覚えのある右舷方の陸岸の地形を見ながら、針路を港外に向け043度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力で、そのまま座った姿勢で遠隔操舵により進行した。
定針したときA受審人は、正船首930メートルのところに錨泊中の住若丸が存在していたものの、このことに気付かないままほどなく居眠りに陥り、同船を避けずに続航中、秀漁丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住若丸は、左舷船首部に擦過傷及びハンドレールに曲損を、秀漁丸は、船首部にき裂、破損などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、秀漁丸が、香川県高松港から同県鎌野漁港に帰航するに当たり、居眠り運航の防止措置が不十分で、出航後まもなく居眠り運航となり、錨泊中の住若丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、香川県高松港から同県鎌野漁港に帰航するに当たり、睡眠不足と飲酒の影響で強い眠気を覚えていた場合、そのままの状態で出航すると居眠り運航になるおそれがあったから、出航に先立ちいったん仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、外気に当たって操船すればなんとかなると思い、出航に先立ち仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となって衝突を招き、住若丸の左舷船首部に擦過傷及びハンドレールに曲損を、自船の船首部にき裂、破損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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