日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年広審第67号
    件名
漁船(船名なし)プレジャーボートNO3利徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、釜谷奬一、内山欽郎
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:漁船(船名なし)船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
B 職名:NO3利徳丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
漁船(船名なし)・・・左舷船首部及び同船尾部にき裂、作業員2人が海中に転落、うち1人が溺死
利徳丸・・・・・・・・左舷船首部にき裂

    原因
漁船(船名なし)・・・灯火設備の不装備で出航
利徳丸・・・・・・・・灯火設備の故障で無灯火のまま航行

    主文
本件衝突は、灯火設備を有しない漁船(船名なし)が、日出を待たずに出航したことと、NO3利徳丸が、灯火設備の故障により無灯火の状態になった際、航行を中止しなかったこととによって発生したものである。
受審人Aの二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月11日05時37分
香川県香西港
2 船舶の要目
船種船名 漁船(船名なし) プレジャーボートNO3利徳丸
総トン数 0.7トン
全長 6.33メートル
登録長 8.00メートル
機関の種類 電気点火機関 ディーゼル機関
出力 95キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
漁船(船名なし、以下「A丸」という。)は、船首尾にわたってほぼ全通の平甲板を有し、舷側部の甲板上高さが約30センチメートルで、甲板上構造物及び灯火設備がなく、船尾端に船外機が取り付けられているFRP製漁船で、毎年10月から翌年3月にかけて、香川県香西港埋立地沖でのり養殖業に従事するA受審人により、同港と養殖漁場間の往復、諸作業などに使用されていた。
A受審人は、平成10年度も例年通り10月1日のり養殖を開始し、その後諸作業を行うためほぼ日出時に出航し、約10分の航程にある養殖漁場での就業を繰り返していたところ、超えて翌月10日水温、潮などの具合でかのりの発育状態に異常が見られ、のりの芽をいったん海中から回収して冷暗所に保管する必要が生じ、のりの芽が日光に弱く、日が昇ってからの作業時間をできるだけ短縮したかったことから、翌11日朝いつもより早めに出航して回収作業を行うこととした。

こうして同日05時35分A受審人は、A丸には灯火設備がなく、当時まだ日出の約1時間前で香西港付近の海上は暗く、航行すると無灯火の状態であり他船からは視認することができない状況であったが、これまで早朝のり養殖漁場に至る間に滅多に他船と出会ったことがなかったことから、他船と出会うおそれはないと思い、日出時まで出航を待つことなく、A丸に1人で乗り組み、作業員2人を乗せ、船首尾共0.1メートルの喫水をもって、香西港内港第1横桟橋を発し、同漁場に向かった。
05時36分A受審人は、香西港西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から178度(真方位、以下同じ。)480メートルの地点で、針路を008度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、作業員2人がそれぞれ船首部左舷船側及び船尾左舷船側に、自身は船尾右舷側に座り船外機を操作して、前示桟橋から北方に向けて延びている岸壁に沿い、港内を北上した。

05時36分半A受審人は、左舷前方の岸壁角に近づいたころ、左舷船首8度210メートルのところに、入航するNO3利徳丸(以下、「利徳丸」という。)が存在し互いに接近していたものの、同船が無灯火でありこれを認めることができず、同時36分40秒防波堤灯台から170度280メートルの地点で岸壁角に並んだとき、針路を防波堤入口に向け002度に転じて続航中、突然衝撃を感じ、A丸は、05時37分防波堤灯台から164度180メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部に利徳丸の船首が前方から12度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、日出は06時32分であった。
また、利徳丸は、専ら余暇の魚釣りに使用されるFRP製釣り船で、B受審人が1人で乗り組み、小槌島付近でいいだこ釣りを行う目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日05時15分香川県高松漁港を発し、途中知人1人を同乗させるため香西港に向かった。

ところでB受審人の利徳丸使用模様は、同船には平成5年の購入時から灯火設備がなく、日本小型船舶検査機構により夜間航行禁止の条件が付されていたところ、自身で船尾にマスト灯及び後部の機関室囲壁前面に両色灯を取り付けたのち、同検査機構の承認を得ないまま夜間航行に使用し、その後マスト灯が故障してからは両色灯のみを点灯して航行するというものであった。
こうしてB受審人は、両色灯のみを点灯し高松市沿岸を西進していたところ、05時27分ごろ弦打港東防波堤灯台から301度190メートルの地点で、電気回路が短絡するかして同灯が消灯し、無灯火の状態となったが、付近は陸岸とのり養殖漁場に挟まれた船舶交通のほとんどない水域であり、ここで錨泊することができたものの、他船の灯火を視認すればそのとき対処すればよいと思い、速やかに錨泊するなどして日出まで航行を中止することなく続航した。

05時35分半B受審人は、防波堤灯台から082度20メートルの香西港防波堤入口に達したとき、針路を170度に定め、機関を半速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で、船尾甲板に立って舵柄を持ち、港奥に向け手動操舵により進行した。
05時36分半B受審人は、右舷船首10度210メートルのところに、出航するA丸が存在し、その後互いに接近していたものの、無灯火である同船を認めることができずに続航中、同時37分わずか前船首至近に同船の白色船体を初認したが、どうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、A丸は、左舷船首部及び同船尾部にき裂を、利徳丸は左舷船首部にき裂を生じたが、のちいずれも修理され、A丸の作業員2人が海中に転落し、うちC(昭和18年2月4日生)が溺死した。


(原因)
本件衝突は、香川県香西港において、灯火設備を有しないA丸が、日出を待たずに出航したことと、利徳丸が、夜間、香西港に向け高松市沿岸を航行中、灯火設備の故障により無灯火の状態になった際、航行を中止しなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、香川県香西港において、のり養殖漁場に向け出航しようとする場合、自船には灯火設備がなかったのであるから、他船が自船を認識することができるよう、日出を待って出航すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで同漁場に至る間に滅多に他船と出会ったことがなかったことから、他船と出会うおそれはないと思い、日出を待たずに出航した職務上の過失により、衝突を招き、自船の左舷船首部及び同船尾部にき裂を、利徳丸の左舷船首部にき裂を生じさせ、自船の作業員1人が溺死するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、高松市沿岸を香西港向け航行中、灯火設備の故障により無灯火の状態となった場合、速やかに錨泊するなどして日出まで航行を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船の灯火を視認すればそのとき対処すればよいと思い、速やかに錨泊するなどして日出まで航行を中止しなかった職務上の過失により衝突を招き、前示の損傷及び死亡を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION