日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成12年神審第4号
    件名
引船たか丸引船列貨物船マーレ カスピウム衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

阿部能正、黒岩貢、西田克史
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:たか丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
はしけ・・・損傷なし
たか丸・・・船首上部に凹損、船長が、頚椎捻挫及び頭部外傷など
マ号・・・右舷前部外板に亀裂を伴う凹傷

    原因
たか丸・・・動静監視不十分、港則法の航法(小型船)不遵守(主因)
マ号・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、小型船であるたか丸引船列が、動静監視不十分で、小型船及び雑種船以外の船舶であるマーレ カスピウムの進路を避けなかったことによって発生したが、マーレ カスピウムが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月29日17時00分
神戸港第2区
2 船舶の要目

3 事実の経過

A受審人は、はしけの前端付近に設置された係船用のビットに係止した長さ36メートルの化学繊維製ロープの端をたか丸の船尾に設置してあるフックに掛け、引船列全体の長さを約75メートルとし、また、たか丸の船尾からはしけの後端まで61.7メートルであったが、発航時、たか丸にはマスト灯3個、両舷灯、船尾灯及び同灯火の垂直線上の上方に引き船灯を、はしけには両舷灯及び船尾灯をそれぞれ表示した。
16時50分少し前A受審人は、第6防波堤灯台から298度(真方位、以下同じ。)1,390メートルの地点において、第7防波堤東灯台を目標として、針路を090度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で、手動操舵に当たって進行した。
16時52分わずか前A受審人は、第6防波堤灯台から308度1,080メートルの地点に達したとき、左舷船首12度1,680メートルに第2区六甲アイランドコンテナふ頭3W(以下「コンテナふ頭3W」という。)に出船左舷付けとして接岸中のマーレ カスピウム(以下「マ号」という。)を初めて視認した。

このとき、A受審人としては、マ号が港則法に規定された小型船及び雑種船以外の船舶であり、自船の針路がマ号の船首から210メートルばかりのところを通過する状況で、同船が出航して前進を始めると、これと著しく接近することとなり、同法に規定された小型船である自船が、マ号の進路を避けなければならないことになるから、同船が出航するかどうかを確認するため、その動静を監視する必要があった。
しかしながら、A受審人は、マ号の右舷船尾付近で作業中のタグボート北野丸の存在にも気付かず、一瞥しただけで、マ号が岸壁に接岸しているので大丈夫と思い、同船の動静監視を十分に行うことなく、16時56分少し前自動操舵とし、船首方向の六甲アイランドコンテナふ頭7付近の大型コンテナ船とその周りの2隻のタグボートを見ながら続航した。

16時57分A受審人は、第6防波堤灯台から007度670メートルの地点に達したとき、左舷船首21度730メートルのところに、マ号が北野丸に引かれて前進を開始したのが明確に分かる状況で、マ号が前進して自船の針路上に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視不十分で、このことに気付かず、マ号の進路を避けないまま、同時58分機関音が不調のように思えたので、船橋を無人とし、機関室に赴いた。
A受審人は、機関室において、主機冷却水の圧力計を確認するなどしたが異常が見当たらず、このころマ号が汽笛により注意喚起信号を吹鳴したが、機関音が高く、これにも気付かないまま17時00分わずか前同室から出て、炊事場に立ち寄ったとき、17時00分第6防波堤灯台から044度900メートルの地点において、たか丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、マ号の右舷側前部に、前方から72度の角度で衝突し、その直後はしけ乗組員が危険に気付いて錨を投入したものの、はしけの船首が、マ号の右舷側前部にたか丸の左舷側と並ぶようにして衝突した。

当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、日没は16時57分で、視界は良好であった。
また、マ号は、船尾船橋型のコンテナ船で、同月29日11時06分神戸港に入港し、船首を172度に向けて六甲アイランド南西端角から北側約70メートル離し、コンテナふ頭3Wに出船左舷付けとして接岸して荷役を行い、16時45分これを終了した。そしてマ号は、クロアチア共和国人の船長Cほか同国人など20人が乗り組み、雑貨入りコンテナ15,331.2トンを積載し、船首8.4メートル船尾9.4メートルの喫水をもって、既に乗船していたB指定海難関係人(受審人に指定されていたところ、平成12年3月31日阪神水先区水先人の業務を廃止したので、これが取り消され、新たに指定海難関係人に指定された。)の水先の下、台湾基隆港に向けて発航することとなった。

B指定海難関係人は、16時45分わずか過ぎ水先業務に就き、C船長と共に船橋に位置し、北野丸の船首から引き綱をマ号の右舷船尾に取り、小型船及び雑種船以外の船舶であることを表示する国際信号旗数字旗1を掲揚しないまま、同時50分右舷側ウイングに出て神戸信号所の出航信号が出航可であることを確認したところ、右舷船首87.5度2,020メートルに、来航するたか丸引船列を初めて視認したが、一瞥しただけで、危険はないものと思い、北野丸に命じるなどして、動静監視を十分に行わないまま、左舷側ウイングで離岸作業に当たった。
16時54分B指定海難関係人は、係船索を全てかいらんしたのち、法定灯火を表示し、神戸港第3航路に向かって出航することとし、左舵一杯、ついで機関を6.0ノットの前進極微速力に令し、船首スラスタを使用すると共に北野丸を300度に引かせ、同時54分半左舷側を岸壁から30メートル平行に離したのち、前進を開始した。

その後、B指定海難関係人は、16時58分第6防波堤灯台から042度1,150メートルの地点に船首を178度に向けて進出し、2.4ノットの対地速力になったとき、たか丸引船列を右舷船首71度550メートルに視認し得る状況となり、同引船列が自船の進路を避けないまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然動静監視不十分で、これに気付かず、警告信号を行うことも、機関を後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることもしないで徐々に速力を上げ、船首を右方に回頭させながら前進を続けた。
B指定海難関係人は、16時58分少し過ぎ、マ号の船首が179度を向いて2.5ノットの対地速力になったとき、右舷船首69度500メートルに接近するたか丸引船列にようやく気付き、汽笛を吹鳴して注意を喚起したけれども、更に同引船列が迫るので同時58分半機関停止ついで後進を令したが、時既に遅く、船首を198度に向けて1.7ノットの行きあしとなったとき、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、はしけには損傷がなかったが、たか丸は、船首上部に凹損を生じ、マ号は、右舷前部外板に亀裂を伴う凹傷を生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人は、頚椎捻挫及び頭部外傷などを負った。

(原因)
本件衝突は、日没直後、神戸港第2区において、小型船であるたか丸引船列が、動静監視不十分で、小型船及び雑種船以外の船舶であるマ号の進路を避けなかったことによって発生したが、マ号が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、日没直後、神戸港第2区において、たか丸にはしけを引いてポートアイランドライナー岸壁7を発し、六甲アイランド南側沖合に向かって航行中、左舷船首方のコンテナふ頭3Wに出船左舷付けとしているマ号を認め、同船の前方近距離のところを通過する状況となった場合、マ号が出航して前進を始めると、これと著しく接近することとなり、小型船及び雑種船以外の船舶であるマ号の進路を避けなければならなかったから、同船が出航するかどうかを確認するため、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで、マ号が岸壁に接岸しているので大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が前進を開始して自船の針路上に衝突のおそれがある態勢で接近したことに気付かず、マ号の進路を避けないまま進行して衝突を招き、たか丸の船首上部に凹損を、マ号の右舷前部外板に亀裂を伴う凹傷をそれぞれ生じさせ、また、自身が頚椎捻挫及び頭部外傷などを負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、日没直後、神戸港第2区において、マ号を水先して出航中、たか丸引船列に対する動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、事後水先業務を廃止したことに徴し、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION