|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年1月6日15時10分 兵庫県東播磨港 2 船舶の要目 船種船名
引船天常丸 総トン数 79トン 全長 25.5メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 456キロワット 船種船名
台船ケイワイ−1号 総トン数 約1,486トン 全長 63.9メートル 幅 18.0メートル 深さ
3.66メートル 3 事実の経過 天常丸は、鋼製引船で、A受審人ほか3人が乗り組み、無人で空荷の台船ケイワイ−1号(以下「台船」という。)を船尾に曳航し、兵庫県東播磨港の寄神建設株式会社東播工作所(以下「東播工作所」という。)に係留中の起重機船海翔に接舷し、台船の船首と船尾に揚錨機を積み込む目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成11年1月5日07時00分広島県沼隈郡沼隈町常石造船株式会社造船工場の岸壁を発し、東播磨港に向かった。 ところで、東播工作所は、播磨地区埋立造成地の南西部に位置し、造成地西端に沿って構築されたコンクリート製護岸及び同造成地南西端から西方に延びる東防波堤に囲まれた水域が起重機船等の係留地となっていた。海翔は、その最も南側に、西方に向けた船首の両舷から前方に錨を入れ、船尾両舷から護岸上に係船索をとり、長さ120メートル幅55メートル深さ7.5メートルの船体を護岸に直角に出船付けで係留され、また、同船の北側60メートルを隔てたところにも同様の大きさの起重機船が、海翔と平行に同じ体勢で係留されていた。そして、海翔の右舷船尾端のすぐ北側には、前面にゴムフェンダーを取り付けた幅5.6メートルの鋼鉄製桟橋が、同護岸から7.6メートル突出して設置されていた。 翌6日06時00分A受審人は、天常丸の操船に当たって東播磨港別府東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)を右舷側に通過し、接舷予定である海翔の右舷側後部付近の様子を見たところ、護岸から突出した前示桟橋を認め、これに注意して接舷することとし、いったん船尾から出していた曳航索を解き、台船を自船の右舷側に横抱きするように曳航索を取り直して接舷作業に取り掛かった。 こうして、07時30分A受審人は、台船を海翔の右舷側後部に防舷材を介して入り船右舷付けし、その船首右舷側が桟橋まで2メートルに接近した位置で、台船の右舷船首部、中央部及び船尾部からそれぞれ両端にアイの付いた直径70ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ2ないし3メートルの化学繊維製ロープを1本ずつ海翔のビットにとって係留した。この時点で同人は、それらの係船索がかなり弛んだ状態でとられていたことから、何らかの原因で台船に前後方向の力が加われば、移動する可能性があることに気付いていた。 係留後A受審人は、曳航索を解いて台船の左舷側で荷役の終了を待っていたところ、15時00分東播工作所から積荷の関係で台船を前後逆に付け替えてほしい旨の要請を受け、海翔とその北側の起重機船との間隔が60メートルと狭かったため、いったん台船を天常丸により東防波堤灯台北側付近まで引き出して反転させ、同箇所に出船左舷付けすることとし、再び台船を横抱きするため、台船左舷後部に天常丸を右舷付けして曳航索をとる準備に入った。 A受審人は、台船を横抱きする際に曳航索として3本の化学繊維製ロープを使用することにしており、平素、最初に台船の左舷船尾に接近し、天常丸船首部のビットから台船船尾端のビットに直径70ミリ長さ10メートルのスプリングをとり、次いで機関前進として天常丸船首部のビットから台船左舷側中央部付近のビットに直径65ミリ長さ13メートルの船首索をとり、最後に天常丸船尾部のビットから台船船尾端のビットに直径65ミリ長さ3メートルのブレストラインをとることにしていた。 一方、各曳航索は、両端にアイが施された長さの定まったものであり、前示方法で曳航索をとるには機関操作を的確に行い、スプリングをとったのち同索の長さ一杯となるところまで前進して行き脚を止め、その位置から船首索をとることが必要となり、機関操作を誤るとスプリングが緊張して台船が移動するので、今回のように台船の船首方至近距離に桟橋があるときは、台船に前進行き脚がついてこれと衝突することがないよう、船首索を最初にとり、後退してスプリングをとるなど、曳航索をとる作業手順を十分に考慮すべき状況となっていた。 しかしながらA受審人は、いつものように低速力で作業を行えば大丈夫と思い、台船に前進行き脚をつけさせない適切な作業手順をとることなく、平素の手順で作業を行うこととし、15時10分少し前台船左舷後端のビットにスプリングをとり、機関を極微速前進にかけ船首索をとるべく進行したところ、機関操作を誤って天常丸が加速し、スプリングが緊張するとともに、まもなく台船に前進行き脚が生じたことを認め、急いで機関後進としたが及ばず、15時10分台船は、東防波堤灯台から085度(真方位、以下同じ。)340メートルの地点において、113度を向いたその右舷船首が、1.0ノットの速力で前示桟橋に直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候はほぼ満潮時であった。 衝突の結果、天常丸には損傷がなく、台船は、右舷船首外板に破口を伴う凹損を生じ、桟橋は、フェンダー取付け板及びグレーチングをそれぞれ損傷したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件桟橋衝突は、東播磨港において、台船を横抱きするため、天常丸から台船に曳航索をとる際、作業手順が不適切で、台船に前進行き脚がついて桟橋に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、東播磨港において、台船を横抱きするため、天常丸から台船に曳航索をとる場合、台船の前方至近距離に桟橋が存在したから、台船に前進行き脚をつけて同桟橋と衝突することのないよう、曳航索をとる順序を最初に船首索、次いでスプリングとするなど、適切な作業手順をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、低速力で作業を行えば平素の手順でも大丈夫と思い、適切な作業手順をとらなかった職務上の過失により、機関操作を誤って台船に前進行き脚をつけ、桟橋との衝突を招き、台船の右舷船首外板に破口を伴う凹損を、桟橋フェンダー取付け板及びグレーチングに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 |