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2000年(平成12年)

平成11年神審第35号
    件名
漁船明石丸プレジャーボートくま五郎III衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、西田克史、小須田敏
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:明石丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
B 職名:くま五郎III船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
明石丸・・・・・右舷船首部外板に擦過傷
くま五郎III・・・左舷船尾部が破損、修理費の都合で廃船

    原因
明石丸・・・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
くま五郎III・・・見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、くま五郎IIIを追い越す明石丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、くま五郎?が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月14日19時15分
兵庫県明石港
2 船舶の要目
船種船名 漁船明石丸 プレジャーボートくま五郎III
総トン数 3.4トン
全長 12.00メートル 7.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 66キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
明石丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、レーダーの装備が無く、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年9月14日13時00分兵庫県明石港西外港泊地魚市場前の岸壁を発し、明石海峡大橋の舞子側橋梁付近の漁場に向かった。
A受審人は、13時15分漁場に至り、漂泊しながら一本釣り漁に取り掛かり、潮止まりとなる日没過ぎまで続行し、たい約3キログラムを獲て漁を切り上げ、19時10分明石港東外港南防波堤灯台(以下「東外港南防波堤灯台」という。)から122度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点を所定の灯火を表示して発進し、帰途に就いた。

発進と同時に、A受審人は、操舵室右舷寄りでいすに腰を掛けて操船に当たって針路を312度に定め、機関を全速力前進の回転数よりも少し下げ、折からの微弱な東流に抗し18.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し、19時13分少し前東外港南防波堤灯台から112.5度1,740メートルの地点に達したとき、前示魚市場前の岸壁に向首するよう、同岸壁に点灯した光力の強い照明灯を船首目標に針路を287度に転じた。
このとき、A受審人は、操船位置から操舵室前窓2枚のうち右舷側の旋回窓付きのガラス窓を通して前方の見張りを行っており、同照明灯のわずか右の方向にあたる右舷船首1度1,140メートルのところに、注意していればくま五郎IIIの白灯1個を視認することができる状況で、その後低速力で西行する同船を追い越す態勢で衝突のおそれがあったが、前路には他船はいないと思い、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく続航した。

こうして、A受審人は、同じ針路及び速力で明石港の港域内を進行していたところ、19時15分東外港南防波堤灯台から125度530メートルの地点において、明石丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が、くま五郎IIIの左舷船尾に後方から17度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には微弱な東流があり、視界は良好であった。
また、くま五郎IIIは、船体中央部に無蓋の操縦席を設け、電気ホーンを装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、魚釣りの目的で、知人1人を乗せ、船首尾とも0.8メートルの喫水をもって、同日17時00分兵庫県明石川河口から上流300メートルの同川右岸の係留地を発し、明石港西外港泊地の沖合に至り、18時00分ごろまでえさ用の小魚を釣り、その後同泊地に寄せて更に知人1人を乗せ、同港東部の釣り場に向かった。

B受審人は、釣り場に到着後、漂泊したまま同乗者とたちうおの一本釣りを行っていたが、釣果が得られなかったことから、600メートル西方に移動することとした。そして、白色全周灯及び両舷灯を点灯のうえ、19時11分東外港南防波堤灯台から117度670メートルの地点で、針路を270度に定め、急いで移動する必要がなかったことから、機関を回転数毎分2,000の極微速力前進にかけ、折からの微弱な東流に抗し1.3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
B受審人は、同乗者の1人を船首部に、他の者を操縦席前の甲板に座らせ、自らは立ったまま操船に当たり、19時13分少し前東外港南防波堤灯台から121度585メートルの地点に達したとき、左舷船尾18度1,140メートルのところに、明石丸の白灯1個及び両色灯の紅、緑2灯を視認することができる状況で、その後同船が自船を追い越す態勢で接近し衝突のおそれがあったが、後方から接近する他船はいないと思い、前方を見ていて周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。

こうして、B受審人は、同じ針路及び速力で続航し、19時14分半明石丸が方位がほとんど変わらずに280メートル後方に迫っていたが、依然、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、増速のうえ右舵一杯をとるなど衝突を避けるための協力動作をとらないでいるうち、くま五郎IIIは、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、明石丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じ、くま五郎IIIは左舷船尾部が破損し、修理費の都合で廃船となった。


(原因)
本件衝突は、夜間、明石港において、くま五郎IIIを追い越す明石丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、くま五郎IIIが、見張り不十分で、明石丸に対して警告信号を行わず、同船が間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、明石港において、漁場から同港西外港泊地魚市場前の岸壁に向けて高速力で西行する場合、同岸壁に点灯した光力の強い照明灯を船首目標にしていたから、前路に低速力で先航するくま五郎IIIの灯火を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路には他船はいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船が追い越すくま五郎IIIに気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、自船の右舷船首部外板に擦過傷を生じ、くま五郎IIIの左舷船尾部を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、明石港において、釣り場を移動するため低速力で西行する場合、後方から接近する明石丸の灯火を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、後方から接近する他船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から迫ってくる明石丸に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、間近に接近したとき、増速のうえ右舵一杯をとるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもしないで進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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