日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成12年横審第23号
    件名
漁船先進丸漁船千代丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西村敏和、勝又三郎、向山裕則
    理事官
葉山忠雄

    受審人
A 職名:先進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:千代丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
先進丸・・・船首材に擦過傷
千代丸・・・右舷側に傾斜、横倒、その後沈没、のち廃船

    原因
先進丸・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
千代丸・・・動静監視不十分、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、千代丸を追い越す態勢の先進丸が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、千代丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月19日04時30分
八丈島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船先進丸 漁船千代丸
総トン数 6.0トン 4.62トン
登録長 11.51メートル 9.86メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 90
3 事実の経過
先進丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成11年8月19日03時30分八丈島神湊港を発し、同島北方約15海里の黒瀬海穴の漁場に向かった。
A受審人は、航行中の動力船が表示する灯火に加え、後部甲板に100ワットの作業用照明灯をつけ、神湊港防波堤を替わって北上し、03時41分大越鼻灯台から104度3.0海里の地点において、漁場に向かって針路を342度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

定針したとき、A受審人は、正船首2.4海里のところに、一緒に出漁することが度々あった僚船の千代丸の白灯を認め、神湊港出航に先立ち、同船に乗り組むB受審人と漁場についての情報を交わしていたので、同じ漁場に向かうこととして同船とあまり距離を開けずに後続し、両船の機関馬力数の相違から、漁場に到着するまでには千代丸を追い越すことになるものの、同船に接近するまでには十分な時間があるので、餌を準備することとして後部甲板上の作業台でむろあじ等の切り刻み作業を始め、その後、座ったまま時々左右に体を伸ばして前方の見張りをしながら続航した。
04時28分A受審人は、大越鼻灯台から001度8.3海里の地点において、千代丸が正船首185メートルのところとなり、衝突のおそれがある態勢で接近していたが、船首が左右各5度ぐらいに振る状態で餌刻み作業の合間に同船を見たところ、正船首わずか右方に認めたこともあって、同船の左舷側を追い越せるものと思い、十分な動静監視を行わなかったので、この状況に気付かず、左転するなどして同船と十分な距離を隔てて確実に追い越すまで、その進路を避けることなく同作業を続けながら進行中、04時30分大越鼻灯台から000度8.6海里の地点において、先進丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が千代丸の左舷船尾端に真後ろから衝突した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、日出時刻は05時05分であった。
A受審人は、衝撃を感じて衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
また、千代丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日03時15分八丈島神湊港を発し、先進丸に先航して同船と同じ黒瀬海穴の漁場に向かった。
B受審人は、航行中の動力船が表示する灯火に加え、後部甲板に100ワットの作業用照明灯をつけ、神湊港防波堤を替わって北上し、03時24分半大越鼻灯台から104度3.0海里の地点において、漁場に向かって針路を342度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針したのち、B受審人は、船尾甲板において右舷側を向いた状態で座って餌刻み作業を始め、03時41分左舷正横に大越鼻灯台を通過して小島の島影が見えるようになったとき、正船尾2.4海里のところに、先進丸の白、緑、紅の3灯を認め、その後、座ったまま時々左右に体を伸ばして前方の見張りを行うとともに後方も見て、その接近模様や両船の機関馬力数の相違から、いずれ自船を追い越すものと思って続航した。

B受審人は、日出前の薄明で空が白みだしたころ、餌刻み作業が終了し、漁場に近づきつつあったので2枚のスパンカを掲げたところ、04時28分先進丸が正船尾185メートルのところに接近し、その灯火ばかりか船体が見えるようになり、衝突のおそれが生じていたが、船首が左右各5度ぐらいに振れていて、同船を正船尾わずか左方に認めていたこともあって、自船の左舷側を追い越すものと思い、十分な動静監視を行わなかったので、この状況に気付かなかった。
そして、B受審人は、船橋に戻って前方の見張りを行い、GPSプロッターで漁場までの残航程の確認等を行っているとき、04時29分先進丸が正船尾わずか左方90メートルのところに接近していたが、依然、同船が自船の進路を避けることなく進行していることに気付かず、右転して衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、船橋において朝食をとろうとしたとき、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、先進丸は船首材に擦過傷を生じ、千代丸は左舷後方から押されて左転をするようになり、右舷側に傾斜を起こして横倒しとなり、B受審人は自船の左舷側に這い上がっていたところを先進丸に救助され、その後千代丸は八丈島底土泊地に向かって曳(えい)航されたが、同泊地沖合において沈没し、のち引き揚げられたものの、廃船となった。

(原因)
本件衝突は、夜間、八丈島北方沖合において、両船が同じ漁場に向かって北上中、先進丸が、先航する千代丸を追い越す際、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、千代丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、八丈島北方沖合において、僚船と前後して漁場に向かって北上中、先航する千代丸を追い越す状況で接近した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、十分な動静監視を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同船の左舷側を追い越せるものと思い、十分な動静監視を行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、左転するなどして同船と十分な距離を隔てて確実に追い越すまで、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、先進丸の船首材に擦過傷を生じ、千代丸を横転させ、のち沈没して廃船とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、八丈島北方沖合を漁場に向かって北上中、後方から同じ漁場に向かって航行している僚船の先進丸が自船を追い越す状況で接近した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、十分な動静監視を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同船を正船尾わずか左方に認めたので、自船の左舷側を追い越すものと思い、十分な動静監視を行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、更に接近しても右転して衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION