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2000年(平成12年)

平成12年仙審第25号
    件名
漁船第一興祥丸プレジャーボートカゼ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、上野延之、藤江哲三
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第一興祥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:カゼ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
興祥丸・・・船首部に擦過傷
カゼ・・・・左舷船首部外板に亀裂及びシーアンカー用赤、白両ロープの切断、船長が4日間の通院治療を要する右膝部挫創

    原因
興祥丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
カゼ・・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第一興祥丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のカゼを避けなかったことによって発生したが、カゼが、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月15日08時54分
山形県酒田港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一興祥丸 プレジャーボートカゼ
総トン数 19トン
全長 7.13メートル
登録長 19.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 190
出力 47キロワット
3 事実の経過
第一興祥丸(以下「興祥丸」という。)は、小型いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、帰港の目的で、船首0.4メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成11年7月15日08時20分酒田港第1区魚市場岸壁を発し、島根県恵曇漁港に向かった。
A受審人は、発航時から単独の船橋当直に就き、レーダーを6海里レンジとして作動させ、船橋の高さが低いために正船首左右各15度が死角になっていたので、ときどきレーダーを使用したり同室内を左右に移動して前路の見張りに当たり、酒田港南防波堤先端に並航したら新潟県佐渡島北方に向けて転針するつもりで、酒田港第2区の掘り下げ水路沿いに北上した。

08時40分A受審人は、酒田港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から328度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点に至って左方に転針しようとしたとき、左舷正横約100メートルに後方から追い抜いてきた砂利運搬船を認めたので、同船が先航するようになったら左転することとし、針路を323度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、遠隔操舵により進行した。
08時50分A受審人は、南防波堤灯台から323度2.1海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに、遊漁のためにシーアンカーを投入して漂泊しているカゼを視認することができ、その後同船に向けて衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かる状況であったが、依然左舷正横に砂利運搬船が同航していたので、機関を半速力前進に落とし、同運搬船を先航させてから左転しようと、同運搬船の動静に気を取られ、レーダーを使用するなどして死角を補う見張りを十分に行うことなく、前路で漂泊しているカゼの存在と同船への接近に気づかず、同船を避けないまま続航した。

08時54分少し前A受審人は、依然死角を補う見張りを行っていなかったので、船首至近に接近したカゼに気づかず、同船を避けないまま進行中、08時54分南防波堤灯台から323度2.7海里の地点において、興祥丸は、原針路のまま、8.1ノットの対地速力で、その船首がカゼの左舷船首部に後方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮侯は下げ潮の末期であった。
A受審人は、砂利運搬船を見ていてカゼとの衝突に気づかず、その後佐渡島北方に向けて航行中に酒田海上保安部から電話連絡を受け、翌16日鳥取県境港にて船首の塗料を採取され、平成12年2月に鑑定の結果からカゼに衝突したことを知らされた。
また、カゼは、中央操舵室型のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同11年7月15日07時30分酒田港第1区に注ぐ新井田川の上流右岸の定係地を発し、同港北西方沖合約2海里の釣場に向かった。

07時50分B受審人は、前示衝突地点で機関を停止し、直径約7メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を取り付けた直径10ミリメートル(以下「ミリ」という。)の白色合成繊維索(以下「白ロープ」という。)を船首手摺りの左舷側に、また、同アンカー揚収用に直径5ミリの赤色合成繊維索(以下「赤ロープ」という。)を同手摺りの右舷側にそれぞれ結びつけ、同アンカーの目印になる直径300ミリの橙色合成樹脂製浮玉とともに投入し、両ロープをそれぞれ15メートル伸出したのち、船首を238度に向けて漂泊し、釣りを始めた。
08時50分B受審人は、左舷船尾甲板のベンチシートに腰掛けて釣りをしているとき、左舷船尾85度1,000メートルのところに自船に向首した興祥丸を初めて認め、その後衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めたが、自船が漂泊しているときにはいつも航行中の他船がかなり接近してから避けていたので、興祥丸もそのうちに避けていくものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、興祥丸が自船を避けずに接近していることに気づかず、操舵室の操縦席の近くに置いてあった救命胴衣の笛を取り出して吹くなど有効な音響による注意喚起信号を行うことも、同アンカーを切り離したのちに機関を始動して移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとらないまま、同じ船首方位で釣りをしながら漂泊を続けた。

08時54分少し前B受審人は、興祥丸が至近に接近して漸く衝突の危険を感じ、大声を出しながら両手を広げて激しく上下に振り、シーアンカーを入れたまま機関を後進にかけたが間に合わず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、興祥丸は船首部に擦過傷を生じただけであったが、カゼは左舷船首部外板に亀裂及びシーアンカー用赤、白両ロープの切断を生じ、のち修理された。また、B受審人が甲板上に投げ出されて4日間の通院治療を要する右膝部挫創を負った。


(原因)
本件衝突は、酒田港北西方沖合において、北上中の興祥丸が、船首死角を補う見張りが不十分で、前路でシーアンカーを投入して漂泊中のカゼを避けなかったことによって発生したが、カゼが、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、酒田港北西方沖合において、船橋の高さが低いため船首方に死角がある状態で、同港を出航して北上する場合、前路でシーアンカーを投入して漂泊中のカゼを見落とさないよう、レーダーを使用するなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左舷正横に同航する砂利運搬船の動静に気を取られ、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のカゼの存在と同船への接近に気づかず、カゼを避けないまま進行して衝突を招き、興祥丸の船首部外板に擦過傷、カゼの左舷船首部外板に亀裂及びシーアンカーロープの切断をそれぞれ生じさせ、B受審人に右膝部挫創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、酒田港北西方沖合において、遊漁のためにシーアンカーを投入して漂泊中、自船に向首して接近する興祥丸を認めた場合、同船が避航措置をとっているかどうかを判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、いつも航行中の他船がかなり接近してから避けていたので、興祥丸もそのうちに避けていくものと思い、同船に対する動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、興祥丸が自船を避けずに接近していることに気づかず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、間近に接近した際にシーアンカーを切り離したのちに機関を始動して移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて興祥丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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