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2000年(平成12年)

平成12年仙審第14号
    件名
漁船観音丸漁船誠恵丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

藤江哲三、根岸秀幸、上野延之
    理事官
保田稔

    受審人
A 職名:観音丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:誠恵丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
観音丸・・・船首部、左舷側ビルジキール及び船体後部船底に擦過傷
誠恵丸・・・船体後部を大破、浸水、曳航中沈没、のち廃船処分、船長が頭部及び胸部に打撲傷

    原因
観音丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守
誠恵丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守

    主文
本件衝突は、観音丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、誠恵丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月17日06時03分
福島県相馬港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船観音丸 漁船誠恵丸
総トン数 6.6トン 2.49トン
登録長 14.10メートル 8.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 382キロワット
漁船法馬力数 25
3 事実の経過
観音丸は、刺し網漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成11年8月17日03時00分福島県釣師浜漁港を発し、同港東北東沖合約10海里の漁場に向かった。
やがて、A受審人は、漁場に至って刺し網の投網を行ったのち帰航することにし、05時32分相馬港沖防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から062度(真方位、以下同じ。)8.5海里の地点で、針路を釣師浜漁港沖防波堤(以下「沖防波堤」という。)の北端を左舷側に替わすよう250度に定め、機関を回転数毎分1,900の全速力前進にかけ、速力19.0ノットで発進した。

A受審人は、レーダーを作動させ自動操舵により単独で操舵操船に当たって進行し、05時54分北灯台から031度1.9海里の地点に達して沖防波堤までの距離が約3海里になったとき、霧のため急速に視界が悪化して視程が約10メートルに狭められた状況になり、機関の回転数を毎分1,600回転とし、16.0ノットの対地速力に落としたが、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、甲板員を船首の見張りに当て、折から左舷前方約1,000メートルのところを釣師浜漁港に向けて帰航する同業船と無線交信しながら、見張り員を注視して続航した。
05時57分A受審人は、北灯台から008度1.3海里の地点に達したとき、レーダーにより誠恵丸の映像を右舷船首15度1.6海里に探知でき、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、前路に他船があれば見張り員からその旨の合図があるので、直ちに減速、転舵すれば衝突を避けることができるものと思い、レーダーによる見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止することなく進行した。

こうして、A受審人は、見張り員を注視したまま続航中、06時03分わずか前、前路に他船がある旨の合図を見張り員から受けたものの、何をする間もなく、同時03分北灯台から301度1.5海里の地点において、観音丸は、原針路、同速力のまま、その船首が誠恵丸の左舷後部に後方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視程は約10メートルであった。
また、誠恵丸は、はえ縄漁業などに従事するレーダーを備え付けていないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日03時00分福島県相馬港内の松川浦漁港を発し、同港の北方沖合約5海里の漁場に至って操業に従事し、あいなめ、あなご約15キログラムを漁獲したのち帰航することにし、05時40分北灯台から327度2.8海里の地点で、針路を釣師浜漁港沖防波堤を右舷側に約800メートル離して通過するよう172度に定め、機関を4.2ノットの半速力前進にかけて発進した。

漁場発進後、B受審人は、機関室後部にある操舵室で操舵操船に当たり、05時45分北灯台から324度2.5海里の地点に達したとき、霧のため急速に視界が悪化して視程が約10メートルに狭められ、自船がレーダーを備え付けていないこともあって、周囲の状況及び他船との衝突のおそれについて視覚により十分に判断できない状況となったが、接近する他船はいないものと思い、聴覚によるなど、その時の状況に適した手段による見張りを十分に行うことなく、その時の状況に適した距離で停止できるよう安全な速力とすることも、有効な音響による霧中信号を行うこともせず、操舵室前面の窓を開け、前路のみを注視して進行した。
06時01分B受審人は、北灯台から305度1.6海里の地点に達したとき、観音丸が左舷船首87度950メートルに接近し、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、同船が霧中信号を行っていなかったこともあって、このことに気付かないまま続航し、やがて、観音丸が間近に接近してその機関音が聞こえる状況となったが、依然としてその時の状況に適した手段による見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、行きあしを停止することなく進行中、突然衝撃を受け、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、観音丸は船首部、左舷側ビルジキール及び船体後部船底に擦過傷を生じ、誠恵丸は船体後部を大破して浸水し、付近にいた漁船によって釣師浜漁港に向け曳航中沈没し、のち引き揚げられて廃船処分され、B受審人が頭部及び胸部に打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、霧のため視界が著しく制限された福島県相馬港北方沖合において、観音丸が、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、かつ、レーダーによる見張りが不十分で、前路の誠恵丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、レーダーを装備しない誠恵丸が、有効な音響による霧中信号を行わず、安全な速力とせず、その時の状況に適した手段による見張りが不十分で、観音丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界が著しく制限された福島県相馬港北方沖合を定係港に向け航行する場合、前路の誠恵丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に他船があれば見張り員からその旨の合図があるので、直ちに減速、転舵すれば衝突を避けることができるものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、誠恵丸と著しく接近することを避けることができない状況にあることに気付かず、そのまま進行して衝突を招き、観音丸の船首部、左舷側ビルジキール及び船体後部船底に擦過傷を生じさせ、誠恵丸の船体後部を大破して沈没させ、相手船の乗組員に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、霧のため視界が著しく制限された福島県相馬港北方沖合を定係港に向け航行する場合、レーダーを装備していないのだから、他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるよう、聴覚によるなど、その時の状況に適した手段による見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近する他船はいないものと思い、聴覚によるなど、その時の状況に適した手段による見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、観音丸と著しく接近することを避けることができない状況にあることに気付かず、そのまま進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせて誠恵丸を沈没させ、自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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