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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年9月5日04時20分 北海道三石郡三石町三石漁港南西沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第35高千穂丸 漁船第三十一新宝丸 総トン数 19.90トン 19トン 全長 24.77メートル 登録長
14.69メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 558キロワット 漁船法馬力数
130 3 事実の経過 第35高千穂丸(以下「高千穂丸」という。)は、めぬけ類の固定式刺網漁業に従事している中央部船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首1.4メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成9年9月5日02時30分北海道三石郡三石町三石漁港を発し、同港南西方12海里ばかりの漁場に向かった。 ところで、めぬけ類の固定式刺網漁は、標識浮標・長さ約900メートルの瀬縄・捨縄・錨・幅約5メートル長さ約500メートルの刺網から成る刺網漁具を操業前日に海中に敷設し、標識浮標から順次漁具を巻き揚げて、網地にかかっためぬけ類を漁獲するという操業形態をとっていた。 A受審人は、発航時から操舵操船に当たり、03時30分ごろ漁場へ到着ののち、同時50分標識浮標を探し当て、操舵室内の左舷寄りに位置して、マストにトロール以外の漁法により漁ろうに従事していることを表示する法定灯火、対水速力を有することを表示する法定灯火及び前後部の甲板上を照らす作業灯7個をそれぞれ点灯して刺網の揚収作業を開始し、前部左舷側甲板上に装備してある揚網機による甲板員の瀬縄の巻揚げ作業状況を監視しながら、南方を向首してわずかな前進行きあしを持ってリモコン操作で操船に当たった。 04時17分A受審人は、三石港東防波堤灯台から209度(真方位、以下同じ。)12.4海里付近で、右舷船首70度800メートルばかりのところに第三十一新宝丸(以下「新宝丸」という。)の白・紅・緑3灯を視認することができ、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近することが分かる状況であったが、自船は法定の灯火を表示して操業しているから、接近する他船が避航するものと思い、甲板上の作業を注視していて、周囲の見張りが不十分となり、接近する新宝丸に気付かず、警告信号を行うことなく、瀬縄を巻き揚げながら続航した。 A受審人は、04時19分半184度を向首しているとき、右舷船首約70度135メートルのところに新宝丸の灯火を初めて認めたが、同船は自船の船尾方を無難に替わるように見えたことから、新宝丸から目を離して再び甲板作業を注視していたところ、同時20分少し前ふと右舷方を見たとき、同船が間近に迫っていることに気付いて衝突の危険を感じ、機関を全速力前進にかけたが及ばず、04時20分三石港東防波堤灯台から209度12.4海里の地点で、高千穂丸は、原針路のままその右舷船尾に新宝丸の船首が前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。 また、新宝丸は、いか一本釣り漁業に従事し、中央部船橋型のFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同月4日09時30分北海道茅部郡南茅部町臼尻漁港を発し、18時ごろ北海道亀田郡恵山岬東方約10海里沖合の漁場に至り操業を開始した。 操業中、B受審人は、僚船から北海道浦河郡浦河町沖合の漁場での漁況が良いことを聞いたので、移動して同漁場で操業を行うこととし、23時00分恵山岬灯台から077度10.5海里の地点で、針路を074度に定め、機関を全速力前進にかけ8.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により法定の灯火を表示して浦河町沖合の漁場へ向けて発進し、船橋当直を甲板員に任せ、定針後操舵室後部のベッドで休息した。 ところで、B受審人は、お盆休みののち同年8月17日に出漁後、夜間操業をして朝入港・水揚という操業形態を繰り返し、翌9月4日05時ごろ臼尻漁港へ入港して漁獲物の水揚後仮眠をとって、操業していたもので、連続した夜間操業による疲労が蓄積し、睡眠不足の状態となっていた。 翌5日03時00分三石港東防波堤灯台から231度22.3海里の地点で、B受審人は、眠りから覚めて当直中の甲板員に替わって、操舵用椅子に腰掛けて単独の船橋当直に就き、同針路、同速力で航行していたところ、体のだるさを覚え、また、周囲に他船が存在せず海象も良かったことから、同時10分ごろから操舵室中央部の床に横臥してレーダー見張りをしているうち、同時35分ごろから眠気を催したが、当直に就く前3時間ばかり休息をとったことから、眠り込んでしまうことはあるまいと思い、休息中の乗組員を起こして2人で船橋当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、横臥したまま当直を続けたため、いつしか居眠りに陥った。 04時17分B受審人は、三石港東防波堤灯台から210度12.8海里の地点に達したとき、ほぼ正船首800メートルのところに漁ろうに従事中の高千穂丸の灯火を視認することができ、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、居眠りに陥っていたため、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、新宝丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 B受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。 衝突の結果、高千穂丸は、右舷船尾に亀(き)裂等を、新宝丸は、船首部に破口を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、新宝丸が、三石漁港沖合を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漁ろうに従事している高千穂丸の進路を避けなかったことによって発生したが、高千穂丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、三石漁港沖合を東行中、連続した夜間操業による疲労が蓄積し、睡眠不足の状態により、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を起こして2人で船橋当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、当直に就く前3時間ばかり休息をとったことから、眠り込んでしまうことはあるまいと思い、前示の居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、漁ろうに従事している高千穂丸の進路を避けることなく進行して衝突を招き、同船の右舷船尾に亀裂等を、新宝丸の船首部に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、夜間、三石漁港沖合で漁ろうに従事する場合、接近する新宝丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、自船は法定の灯火を表示して操業しているから、接近する他船が避航するものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する新宝丸に気付かず、警告信号を行うことなく漁ろうを続行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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