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2000年(平成12年)

平成11年長審第83号
    件名
漁船えり丸プレジャーボート忠実丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

森田秀彦、亀井龍雄、河本和夫
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:えり丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:忠実丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
えり丸・・・左舷外板に擦過傷
忠実丸・・・右舷船尾波除け板に損傷、船長が、頭部打撲等

    原因
えり丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
忠実丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、忠実丸を追い越すえり丸が、見張り不十分で、忠実丸の進路を避けなかったことによって発生したが、忠実丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月13日08時20分
熊本県牛深港
2 船舶の要目
船種船名 漁船えり丸 プレジャーボート忠実丸
総トン数 0.9トン
全長 6.90メートル 4.76メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 29キロワット 4キロワット
3 事実の経過
えり丸は、素潜り漁業に従事するFRP製和船型漁船で、A受審人が1人で乗り組み、さざえ素潜り漁を行う目的で、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、平成10年8月13日08時10分牛深漁港須口浦鬼塚地区の係留地を発し、下須島南岸の砂月浦の漁場に向かった。
発航後A受審人は、船外機の右舷側に腰を下ろして操船と見張りに当たり、後浜岸壁に沿って須口浦を南下していたところ、前方の防波堤にしぶきが上がっているのを認めたので、天草下島と下須島の間の瀬戸脇瀬戸を航行して漁場に向かうこととし、08時18分牛深港灯台から237度(真方位、以下同じ。)750メートルの地点に達したとき、針路を同瀬戸の最狭部にかかる通天橋の中央部よりやや右側に向首する085度に定め、機関を全速力前進から少し下げた16.5ノットの対地速力で、船首が浮上して船首方向に死角を生じた状態で進行した。

定針したとき、A受審人は、正船首わずか右700メートルのところに瀬戸脇瀬戸を同航する忠実丸を視認でき、その後同船を追い越す態勢となり、衝突のおそれがある状況で接近したが、後浜岸壁の角を回るころ、太陽光線の反射でまぶしかったこともあり、前方をいちべつして他船はいないものと思い、立ち上がるなどして船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、忠実丸に気付かず、減速するなど同船の進路を避けないまま続航した。
A受審人は、通天橋の下を航過したところで、左転を始め、08時20分わずか前予定針路の050度に向けたとき、船首至近に木の枝のようなものを認め、とっさに右舵をとったが、及ばず、08時20分牛深港灯台から129度470メートルの地点において、えり丸の船首が060度となったとき、原速力のまま、その左舷船首が忠実丸の右舷船尾に後方から8度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で、風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、忠実丸は、船体中央部に高さ約1.5メートルの二股の枝の付いた木を立てたFRP製和船型プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、同日08時00分牛深港元下須地区の係留地を発し、瀬戸脇瀬戸を西行したのち、下須島西岸を南下して同島沖合の釣り場に向かったが、同島西岸の春這防波堤を出たところ波浪が高かったので沖合に行くのを取り止め、釣り場を牛深港内の台場沖防波堤付近に変更することとした。
08時13分B受審人は、牛深港灯台から198度1,110メートルの地点で反転し、針路を023度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で、船外機の右舷側に腰を下ろして操船と見張りに当たって進行した。

08時16分半B受審人は、牛深港灯台から192度590メートルの地点で瀬戸脇瀬戸に沿うようゆっくりと右転を始め、同時18分船首が055度を向いたとき、左舷船尾30度700メートルのところに同瀬戸に沿って自船と同航する態勢のえり丸を初めて認めたとき、自船の速力が遅かったので、いずれ追い越される状況にあったが、同瀬戸を抜けて広い水域に出るまでは追い越されることはないものと思い、その後えり丸の動静を十分に監視しなかったことから、同船が自船の進路を避けないまま衝突のおそれが生じた状態で接近していたが、このことに気付かず、注意喚起信号を行うことなく続航した。
B受審人は、通天橋を航過したところで左転し、牛深ハイヤ大橋橋梁灯(R二灯)の付いた橋梁を左舷船首に見て052度を向首して進行中、忠実丸は、原速力のまま前示のとおり衝突した。

その結果、えり丸は、左舷外板に擦過傷を生じ、忠実丸は、右舷船尾波除け板に損傷を生じ、B受審人が、頭部打撲等を負った。

(原因)
本件衝突は、牛深港瀬戸脇瀬戸の狭い水道において、忠実丸を追い越すえり丸が、見張り不十分で、忠実丸の進路を避けなかったことによって発生したが、忠実丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、牛深港瀬戸脇瀬戸の狭い水道を航行する場合、船首が浮上して船首方に死角を生じ、見通しが妨げられる状況であったのであるから、前路の他船を見落とすことのないよう、立ち上がるなど船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後浜岸壁の角を回るころ、前方をいちべつして他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を同航中の忠実丸に気付かず、減速するなど同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、えり丸の右舷船底外板に擦過傷を、忠実丸の右舷船尾波除け板に損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に頭部打撲等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、牛深港瀬戸脇瀬戸の狭い水道において、自船の後方に同航する態勢のえり丸を認めた場合、自船の速力が遅く、いずれ追い越される状況にあったのであるから、えり丸が自船の進路を確実に避けるまでその動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同瀬戸を抜けて広い水域に出るまでは追い越されることはないものと思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、えり丸が接近していることに気付かず、同船に対して注意喚起信号を行わないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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