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2000年(平成12年)

平成11年長審第63号
    件名
漁船竜王丸引船ヨシタカマルNo.8引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

森田秀彦、亀井龍雄、河本和夫
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:竜王丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
竜王丸・・・・・・・・・船首外板に擦過傷、船橋右舷側壁及び右舷ブルワークに亀裂を伴う凹損
ヨシタカマル引船列・・・損傷なし

    原因
ヨシタカマル引船列・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
竜王丸・・・・・・・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、ヨシタカマルNo.8引船列が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、竜王丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月17日04時22分
平戸島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船竜王丸
総トン数 8.5トン
全長 17.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 100
船種船名 引船ヨシタカマルNo.8 旅客船ソング オブ セト
総トン数 56トン 19トン
全長 28.7メートル 17.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 566キロワット 441キロワット
3 事実の経過
竜王丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.65メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、平成10年3月17日04時10分長崎県平戸市宮ノ浦漁港(宮ノ浦地区)を発し、同県宇久島西方約5海里沖合の漁場に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続き、船橋当直に当たり、04時14分尾上島灯台から028度(真方位、以下同じ。)1,700メートルの地点において、針路を小値賀瀬戸東口に向く279度に定め、機関を全速力前進にかけ、17.0ノットの対地速力で、手動操舵によって進行した。

04時20分わずか過ぎA受審人は、尾上島灯台から309度3,100メートルの地点に達したとき、右舷船首15度1,000メートルのところに前路を左方に航過する態勢のヨシタカマルNo.8(以下「ヨシタカマル」という。)の白、紅2灯の灯火を初めて認めたが、同船の灯火が航行中の動力船が表示する航海灯だけで後方を照射するサーチライトもなかったことから、同船は単独で航行しており、避航動作をとらなくても同船の船尾方を無難に航過できると思い、同船の後方に対する見張りを十分に行わず、レーダーも不調で使用していなかったので、同船がその後方に白色点滅灯2個を表示したソング オブ セト(以下「セト」という。)を曳航していることも、また同点滅灯にも気付かないまま続航した。
04時21分少し過ぎA受審人は、ヨシタカマルが自船の船首400メートルのところを無難に左舷方に航過したのを認めたものの、依然、セトの存在に気付かず、その後曳航索と衝突のおそれがある態勢で接近していたが、減速して大きく右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく、同じ針路、同じ速力で進行した。

04時22分わずか前A受審人は、右舷正横少し前至近にセトの船首部の点滅灯1個を初めて認めたが、何をする間もなく、04時22分竜王丸は、尾上島灯台から303度4,000メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首がヨシタカマルの船尾端から140メートルのところの曳航索に後方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
A受審人は、直ちに機関を中立としたところ、ヨシタカマル引船列の行きあしによって、竜王丸の右舷船側がセトの船首に押しつけられた状態になり、転覆の危険を感じて曳航索を切断した。
また、ヨシタカマルは、フィリピン共和国のS有限会社(以下「S社」という。)に売船されて同国の仮国籍証書を受有するFRP製はえ縄漁船で、同国までの回航の目的で、B指定海難関係人、C指定海難関係人ほか2人が乗り組み、同乗者2人を乗せ、船首1.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、臨時の引船として、アルミ合金製の旅客船でフィリピン共和国の同じ船主に売船されて同国の仮国籍証書を受有し、船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水となった無人のセトを、直径60ミリメートル長さ170メートルのナイロン製曳航索でもって、ヨシタカマルの船尾からセトの後端までの長さを187.7メートルの引船列として曳航し、同月16日10時00分山口県萩港を発し、フィリピン共和国ゼネラル サントス港に向かった。

指定海難関係人R株式会社(以下「R社」という。)は、S社との間で、ヨシタカマル及びセト両船の輸出契約をFOBで結び、両船の仮国籍証書をとって輸出許可を取得したのち、萩港において同船主に両船の引渡しを終え、売買取引を完了した。ところで、R社は、S社から両船のフィリピンまでの回航を要請され、自社では回航業務を社業としていなかったが、売買取引のアフターサービスの意味からこの要請を受け入れた。こうして、R社は、日本の回航業者に回航を依頼することになったが、引船列の灯火等の規則については何も分からなかったので回航業務全般を船長と回航業者に任せた。
B指定海難関係人は、三級海技士(航海)の免状を受有し、五級海技士(航海)の免状を受有するC指定海難関係人とともに回航業者から派遣されてヨシタカマルに乗船したが、その際ヨシタカマルには船舶を引いている航行中の動力船が表示すべき法定の灯火設備がないことを知ったにもかかわらず、なんらの措置もとらず、夜間はヨシタカマルには航行中の動力船としての航海灯を点灯し、またセトの窓全てを波浪から保護するためベニヤ板で覆い、同船の船首端から約2.5メートルで水面上の高さ約2.5メートルのところに、及び船尾端から約2.5メートルで水面上の高さ約3メートルのところに各1個の、単一乾電池4個を電源とする白色点滅灯をそれぞれ船首尾線上付近に点灯したのみで、両船に引船列の法定の灯火を表示することなく、船橋当直を自らとC指定海難関係人及び同乗していたセトの船長の3人による4時間単独の3直制として航行の途につき、同日22時烏帽子島灯台沖合で次直者と当直を交代して自室で休息した。
C指定海難関係人は、翌17日02時00分大碆鼻灯台の北方1.5海里の地点で船橋当直に就き、03時51分上阿値賀島島頂から292度2,500メートルの地点に達したとき、針路を194度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.5ノットの曳航速力で自動操舵により進行した。
04時20分わずか過ぎC指定海難関係人は、尾上島灯台から306度4,050メートルの地点に達したとき、左舷船首80度1,000メートルのところに自船引船列に向首して接近する態勢の竜王丸の白、緑2灯を認めうる状況にあったが、船橋後部の海図台の前で船位の確認に気をとられていて、このことに気付かず、左舷方の見張りを十分に行うことなく続航した。

C指定海難関係人は、04時21分少し過ぎ竜王丸が自船の正横付近400メートルのところを無難に船尾方に替わったことにも、その後曳航索に衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かないまま、大きく右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく、原針路、原速力で進行中、前示のとおり衝突した。
C指定海難関係人は、船尾付近に居た乗組員から報告を受けて初めて衝突に気付き、機関を停止したが、船長に報告しないまま事後の措置に当たり、またB指定海難関係人は、衝突後しばらくして手洗いに起き出したとき衝突を知り、事後の措置に当たった。
その結果、竜王丸は、船首外板に擦過傷、船橋右舷側壁及び右舷ブルワークに亀裂を伴う凹損を生じたがのち修理され、ヨシタカマル引船列に損傷はなかった。


(原因)
本件衝突は、夜間、平戸島西方沖合において、航行中のヨシタカマル引船列が、引船列としての法定の灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、竜王丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人等の所為)
A受審人が、夜間、平戸島西方沖合において、漁場に向けて航行中、右舷前方にヨシタカマルの航海灯を視認した場合、同船の後方に対する見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、夜間、ヨシタカマルが引船としての法定の灯火を表示していなかったばかりか、セトにも法定の灯火を表示していなかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
B指定海難関係人が、夜間、ヨシタカマルでセトを曳航して航行する際、ヨシタカマルに船舶を引いている航行中の動力船が表示すべき灯火を掲げなかったばかりか、セトに他の動力船に引かれている航行中の船舶が表示すべき灯火を掲げなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

C指定海難関係人が、夜間、平戸島西岸沖合を航行する際、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
R社の所為は本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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