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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年4月17日13時15分 山口県萩港沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船北晴丸 漁船恒漁丸 総トン数 19.82トン 3.33トン 登録長 18.00メートル 9.88メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 573キロワット 漁船法馬力数
40 3 事実の経過 北晴丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成11年4月17日11時45分山口県仙崎港を発し、同県見島北東方20海里ばかりの漁場に向かった。 発航時から単独で船橋当直についたA受審人は、12時30分潮場ノ鼻灯台から118度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点に達したとき、針路を漁場に向く022度に定め、機関回転数を全速力前進より少し減じて毎分1,400とし、8.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 A受審人は、主に操舵室右舷側後部に備えられている海図台に腰を掛けて同室左舷側前部に設置されているレーダーとビデオプロッターの監視を行いながら当直を続けていたところ、13時09分萩相島灯台から093度1.8海里の地点に達したとき、2海里レンジとしたレーダーで右舷船首64度0.75海里のところに恒漁丸の映像を初めて認め、一瞥(べつ)して同船も沖合に向かっており、速力の遅い自船を追い越して行くものと思い、その後同船が自船の前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが、その動静を監視することなく、後方を向いて海図台に海底地形図を広げて漁場付近の海底の状態を調べ始めた。 こうして、A受審人は、恒漁丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、速やかにその進路を避けることなく続航中、13時15分萩相島灯台から072度2.2海里の地点において、北晴丸は、原針路、原速力のまま、その船首が恒漁丸の左舷中央部外板に後方から52度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。 また、恒漁丸は、汽笛を装備しないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、機関クラッチを修理する目的で、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日05時40分見島本村漁港を発し、08時30分萩港内の前小畑に着けて修理を行い、12時00分同地を発して帰途についた。 ところで、恒漁丸の操舵室は、上甲板上の機関室囲壁船尾側に接して設けられ、前壁、両側壁及び天井によって囲まれているが、操舵を舵柄で行うために後壁は設けられておらず、航行中は、B受審人が操舵室内で前方を向いて立ち、左足で舵柄を操作して舵を取っていた。そして、周囲を見張るため、同室前壁にはガラスをはめ込んだ引き戸による窓が、側壁には合成樹脂製の固定窓がそれぞれ設けられていたが、側壁窓の合成樹脂が経年劣化により白濁しており、操舵室内から側壁窓を通しての見張りが困難で、両舷側方に死角を生じる状態であった。 こうして、B受審人は、12時48分虎ケ埼灯台から290度2.2海里の地点に達したとき,針路を見島の島影を船首方向に見る330度に定め、機関を全速力前進にかけて8.5ノットの対地速力で進行した。 13時09分B受審人は、萩相島灯台から091度2.5海里の地点に達したとき、左舷船首64度0.75海里のところに北晴丸を視認でき、その後その方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、付近には航行船が少なかったので前方を見張っておれば大丈夫と思い、左舷方の死角を補うよう、体を後方にずらせて操舵室側壁の後部から見張りを行うなど、周囲の見張りを十分に行わず、北晴丸に気付かないまま続航した。 13時14分半B受審人は、北晴丸がその方位を変えないまま120メートルばかりに接近したが、依然左舷方の見張りを行わず、このことに気付かないで、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、北晴丸は球状船首に相手船のペイントが付着しただけであったが、恒漁丸は左舷側中央部外板に破口を生じて機関室に浸水し、北晴丸に横抱きにされて萩港に引きつけられ、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、萩港北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北晴丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る恒漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、恒漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、萩港北西方沖合を漁場に向けて航行中、レーダーで右舷正横より少し前方に恒漁丸の映像を初めて認めた場合、同船との衝突のおそれの有無を判断するため、その後の動静を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、一瞥して速力の遅い自船を追い越していくものと思い、操舵室後部の海図台に広げた海底地形図を見ることに専念し、恒漁丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、右方から衝突のおそれがある態勢で接近する恒漁丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、恒漁丸の左舷中央部外板に破口を生じさせ、機関室に浸水させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、萩港北西方沖合を見島に向けて航行する場合、自船操舵室側壁に設けられている合成樹脂製窓が、経年劣化により白濁し、同窓を通しての見張りが困難であったから、前路を右方に横切る他船を見落とすことがないよう、時折体を後方にずらせて操舵室側壁の後部から見張りを行うなど、側方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、付近に航行船が少ないので前方を見張れば大丈夫と思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左方から衝突のおそれがある態勢で接近する北晴丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して同船との衝突を招き、自船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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