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2000年(平成12年)

平成12年広審第30号
    件名
旅客船ホワイトスター2漁船第二邦臣丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

工藤民雄、竹内伸二、内山欽郎
    理事官
上中拓治、小寺俊秋

    受審人
A 職名:ホワイトスター2船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二邦臣丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ホワイトスター・・・左舷船首部に擦過傷
邦臣丸・・・・・・・操舵室を圧壊、左舷中央部外板に亀裂

    原因
邦臣丸引船列・・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
ホワイトスター・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
補佐人村上誠

    主文
本件衝突は、第二邦臣丸引船列が、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ホワイトスター2が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月13日18時45分
広島県阿伏兎瀬戸西方の内海大橋付近
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ホワイトスター2
総トン数 19トン
全長 15.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット
船種船名 漁船第二邦臣丸 ポンツーン
総トン数 1.70トン
全長 7メートル
登録長 8.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 58キロワット
3 事実の経過
ホワイトスター2(以下「ホワイトスター」という。)は、船尾に操舵室を有し、2基2軸の推進機関を備えた軽合金製の旅客船で、香川県丸亀港を基地として、不定期にしまなみ海道や瀬戸大橋などを巡る遊覧運航に従事していたもので、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客14人及びガイド役の社員1人を乗せ、しまなみ海道を観光する目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年6月13日17時20分愛媛県今治港を発し、広島県福山港に向かった。

A受審人は、これまでこの航路を幾度も航行した経験を有し、発航後、甲板員を操舵室中央少し右舷寄りで見張りに就け、自らは同室左舷寄りの舵輪の後ろで見張りと操船に当たり、しまなみ海道の各橋を巡りながら北上したあと、布刈瀬戸を経て広島県沼隈町本土とその対岸の内海町田島との間の狭い水道に向け北東進した。
ところで、阿伏兎瀬戸西方の沼隈町本土とその対岸の田島との間の水道は、最狭部の幅が約520メートルで東西に伸び、その最狭部付近には内海大橋が逆くの字型に南北に架けられ、同大橋ほぼ中央屈曲部付近の橋脚で南北2つの水道に分かれ、南側の水道の可航幅は約180メートル、また北側の水道(以下「北側水道」という。)の可航幅は約150メートルとなっていて、南北両水道側の各橋梁に、可航水域の中央を示す中央標識灯と標識標及び左右両側端を示す左右側端標識灯と標識標がそれぞれ設置されていた。

また、ホワイトスターは、全速力前進で航行すると、船首が浮上して操舵室前方の客室屋根により、舵輪後方の操舵位置からは船首から約600メートルまでが死角になるため、船首方向の見張りがやや困難であったものの、見張りを十分に行っていれば、死角に入る前に船首方向に存在する他船を視認することが可能であった。
18時42分A受審人は、内海大橋西方1,780メートルにあたる、大野ゾワイ灯標(以下「ゾワイ灯標」という。)から344度(真方位、以下同じ。)290メートルの地点に達したとき、北側水道を通航することとし、針路を中央標の内海大橋橋梁標(C2標)と右側端標の同橋橋梁標(R2標)との中間に向く102度に定め、機関を全速力前進にかけ、日没前であったものの早めに航行中の動力船の灯火を表示し、20.0ノットの対地速力で、舵輪後方のいすの背に腰をもたせて中腰となり、手動で操舵に当たって北側水道の右側端に寄せ進行した。

定針したときA受審人は、ほぼ正船首1海里の内海大橋の東側に、ポンツーンを曳航して反航してくる第二邦臣丸(以下「邦臣丸」といい、両者を総称するときは「邦臣丸引船列」という。)を視認することができ、その後邦臣丸引船列と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、これまで夕方この海域でめったに他船と行き会ったことがなかったことから、水道を一見して通航船はないものと思い、前方の見張りを十分に行うことなく、左右などを見ていて、このことに気付かずに高速力のまま続航した。
18時44分少し前A受審人は、邦臣丸引船列が北側水道のほぼ中央部に向け同方位700メートルに接近していたが、依然見張り不十分でこのことに気付かず、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらないでいるうち、間もなく同引船列が船首死角に入って視認できない状況となって進行中、18時45分わずか前、旅客の発した危ないとの叫び声を耳にし、前方に目を移したとき正船首至近に迫った邦臣丸の操舵室後方屋根の白いオーニングを認め、驚いて機関を停止したが及ばず、18時45分ゾワイ灯標から093度1,780メートルの地点において、ホワイトスターは、原針路、原速力のまま、その船首が邦臣丸の左舷中央部に、前方から30度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、付近には微弱な東流があった。
また、邦臣丸は、船体中央部の船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、無人のポンツーンを船尾に引いて引船列を構成し、同日18時00分田島牛ノ首の東方にある矢ノ島南岸沖の、内海大橋橋梁灯(C1灯)から119度1,550メートルの地点を発し、内海大橋西方2海里付近の広島県沼隈町常石の境が浜マリ−ナに向かった。
ところで、ポンツーンは、田島の北東岸で開催された町民の交歓会に使用した発泡スチロール製の黄色の浮きの上に板を並べた幅3メートル深さ1メートルの方形状の、水面上の高さが約50センチメートルのもので、B受審人は、同ポンツーンの左右先端部に結止した直径20ミリメートル長さ6メートルの化学繊維製ロープ各1本のそれぞれの端を結んで、邦臣丸の船尾両舷のたつに外から回し、引船列を示す形象物を掲げないまま曳航していた。

発航後、B受審人は、操舵室右舷側の舵輪後方に立ち見張りと手動操舵に当たり、少し船首を左右に振りながら矢ノ島西岸と牛ノ首との間の水路を北上した。
18時12分半B受審人は、牛ノ首北東方200メートルにあたる、内海大橋橋梁灯(C1灯)から111度1,220メートルの地点に達したとき、北側水道を通航することとし、そのころ反航船を認めなかったうえ、東行船があっても後方にポンツーンを引いているので自船を避けてくれるものと思い、北側水道の右側端に寄せ航行することなく、針路を同水道のほぼ中央に向く290度に定め、機関を回転数毎分1,200にかけ、1.1ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、18時42分内海大橋橋梁灯(C1灯)から111度220メートルの地点に達したとき、左舷船首8度1海里の内海大橋西側に、北側水道に向け反航してくるホワイトスターを初めて認め、同じ針路、速力のまま続航したところ、同船が衝突のおそれがある態勢で急速に接近していることを知ったが、自船の存在に気付いて、そのうち避けるものと思い、速やかに機関を停止するなど同船との衝突を避けるための措置をとらずに続航中、18時45分少し前、ホワイトスターがそのまま近距離に迫ってくるので、衝突の危険を感じ、急いで右舵をとったのち、右舷側から海中に飛び込んだ直後、邦臣丸は、312度を向いたとき、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、ホワイトスターは、左舷船首部に擦過傷を生じ、邦臣丸は、操舵室を圧壊したほか、左舷中央部外板に亀裂を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、広島県阿伏兎瀬戸西方の、同県沼隈郡本土とその対岸の田島との間の内海大橋付近において、邦臣丸引船列が、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ホワイトスターが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、ポンツーンを曳航して内海大橋下の狭い水道を西行する場合、東行船と安全に航過できるよう、同水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。ところが、同人は、そのころ反航船を認めなかったうえ、東行船があっても後方に被曳物を引いている自船を避けてくれるものと思い、同水道の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、同水道の右側端に寄って反航してきたホワイトスターとの衝突を招き、邦臣丸の操舵室を圧壊させたほか、左舷中央部外板に亀裂を生じさせ、またホワイトスターの左舷船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、内海大橋下の狭い水道を右側端に寄って東行する場合、同水道の左側寄りを反航してくる邦臣丸引船列を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで夕方この海域でめったに他船と行き会ったことがなかったことから、水道を一見して通航船はないものと思い、左右などを見ていて、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する邦臣丸引船列を見落とし、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同引船列との衝突を招き、前示のように両船に損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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