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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年12月16日18時58分 瀬戸内海 備讃瀬戸東航路 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第二平安丸 貨物船第十一旭丸 総トン数 697トン 375トン 全長 69.98メートル 64.81メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 1,176キロワット
735キロワット 3 事実の経過 第二平安丸(以下「平安丸」という。)は、主に九州沿岸のセメント工場から関西、九州及び四国方面にばら積セメントを運搬する船尾船橋型の貨物船で、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、セメント524トンを積載し、船首2.1メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、平成10年12月16日11時20分愛媛県北条港を発し、兵庫県姫路港に向かった。 A受審人は、船橋当直を単独4時間交替の3直制で行うこととし、出航後自ら船橋当直に就き、来島海峡を経て備後灘を東行し、15時45分六島灯台西南西方約7海里の地点で、B受審人と交替することとし、同人の当直中、備讃瀬戸南航路及び備讃瀬戸東航路を東行し、柏島南方で航路を出て井島水道に向かう予定であったが、船舶輻輳時に自ら操船指揮をとることができるよう、航行船舶の輻輳状況について船長に報告するよう指示することなく、危ないときには早目に微速力に減速し船長を起こすように告げて降橋した。 16時47分ごろB受審人は、備讃瀬戸南航路に入り、その後同航路及び備讃瀬戸東航路を東行し、柏島南方の備讃瀬戸東航路中央第3号灯浮標(以下備讃瀬戸東航路各灯浮標の名称中「備讃瀬戸東航路」を省略する。)付近から西行レーンを横切って井島水道に向かうため予め航路中央に近寄って航行することとし、18時34分半男木島灯台から257度(真方位、以下同じ。)6.1海里の地点で中央第2号灯浮標を左舷側10メートルに航過したとき、針路を航路に沿う077度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。 B受審人は、船橋ほぼ中央にある舵輪後方に立って前路の見張りにあたるとともに、右舷側レーダーを1.5ないし3海里レンジで使用し、目視とレーダーとによって来航する西行船を監視していたところ、男木島北方に7隻ばかりの西行船が連続して来航し転針予定地点付近で航行船舶が輻輳する状況であったが、このことを船長に報告して昇橋を求めないまま、西行船群の中に船間距離の広いところを探し、左転の時機を考えながら続航した。 18時49分B受審人は、左舷船首42度1,070メートルの航路北側境界線付近に第十一旭丸(以下「旭丸」という。)の船尾灯を視認することができたが、航路内の西行船群の監視に気を奪われ、左方の見張りを十分行わなかったので、旭丸の存在に気付かなかった。 その後B受審人は、旭丸が航路中央の左側を斜航する態勢で航路をこれに沿わないで航行し、その方位変化がほとんどなく衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然左方の見張りを十分行わず、18時55分半中央第3号灯浮標を左舷船首15度400メートルばかりに見るようになったとき、旭丸が避航動作をとらないまま200メートルに接近したものの、このことに気付かず、警告信号を行うことも、減速するなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま、折から接近した西行船とその後方の西行船との間が広かったので自動操舵のまま針路設定用のつまみを少し左に回して左転を始めた。 B受審人は、その後も自動操舵のまま小刻みに左転を続け、18時57分少し前中央第3号灯浮標を右舷側至近に航過し、同時57分半ほぼ井島水道に向首したときふと左舷側を見たところ至近に迫った旭丸の白、白、緑3灯を初めて認め、衝突の危険を感じ、相手船の船尾側を航過するつもりで機関を半速力前進に減じ、間もなく機関を中立とするとともに、手動操舵に切り替えて右舵20度をとって回頭中、18時58分男木島灯台から260度2.2海里の地点において、平安丸は、045度を向首したとき、その左舷船首が旭丸の右舷船首に後方から15度の角度で衝突した。 A受審人は、自室でテレビを見ていたとき、機関音の変化に気付いて減速したことを知り、外を見たところ左舷側至近に旭丸の船体を認めたので、驚いて昇橋する途中衝撃があり、昇橋して同船と衝突したことを知って事後の措置にあたった。 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には約1ノットの西流があった。 また、旭丸は、専ら鋼材を輸送する船尾船橋型貨物船で、C、D両受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.9メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、同日17時00分岡山県水島港を発し、大阪港に向かった。 出航操船のあとC受審人は、大阪到着予定が深夜になることから、22時までD受審人に船橋当直を行わせ、その後大阪入港まで自ら当直に入ることとし、下津井瀬戸を経て竪場島南方から小槌島北方又は大槌島北方を東行して宇高東航路を横切り、中央第3号灯浮標付近で備讃瀬戸東航路に入るよう指示し、どちらの進路をとるか同人の判断に任せ、同人の当直中航路中央線を横切って航路中央から右の部分に入航する予定であったが、船舶が輻輳するときには自ら操船指揮をとることができるよう、航行船舶の輻輳状況を船長に報告するよう指示することなく、視界が狭められたときや漁船が密集しているときには船内電話で知らせるよう告げたのみで、備讃瀬戸通航経験のある同人に任せておけば大丈夫と思い、17時20分下水島北方沖合で同人に船橋当直を命じて降橋した。 D受審人は、下津井瀬戸を通航したのち、大槌島北方を経て宇高東航路を横切り柏島南方で備讃瀬戸東航路に入ることとし、18時33分ごろ大槌島北方を東行中、同航路内に多数の西行船ほか平安丸を含む数隻の東行船を認め、航行船舶が輻輳する状況であったが、そのことを船長に報告して昇橋を求めないまま、同時44分男木島灯台から268度4.0海里の地点に達したとき、針路を100度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、中央第3号灯浮標を正船首少し左に見て11.0ノットの速力で進行した。 18時49分D受審人は、男木島灯台から263度3.1海里の地点で航路北側の境界に達し、西行船群をかわすため、可変ピッチプロペラの翼角を10度とし7.0ノットの速力に減速したとき、右舷船尾65度1,070メートルに、航路をこれに沿って航行中の平安丸の白、白、紅3灯を認めた。 その後D受審人は、航路の中央から左の部分を斜航しながら東行し、平安丸の方位がほとんど変わらず衝突のおそれのある態勢で同船と接近したが、船橋右舷側の窓から同船をいちべつしただけで無難にかわると思い、同船に対する動静監視を十分行わず、さらに減速するなどして、同船の進路を避けることなく続航した。 18時55分半D受審人は、中央第3号灯浮標が左舷船首10度300メートルばかりとなったとき、手動操舵に切り替えて左舵をとり、間もなく針路を065度に転じ、次の針路目標である中央第4号灯浮標を正船首少し左に見て航路中央線の左側を進行中、同時58分少し前ふと右舷側に目を転じたところ、平安丸を至近に認めて衝突の危険を感じ、急いでプロペラ翼角を0度として左舵一杯をとったが、旭丸は、060度を向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 自室でテレビを見ていたC受審人は、機関音の変化に異状を感じ、急いで昇橋したところ平安丸との衝突を知り、事後の措置にあたった。 衝突の結果、平安丸は左舷船首部に、旭丸は右舷船首部にそれぞれ凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、備讃瀬戸東航路において、航路をこれに沿わないで航行している旭丸が、動静監視不十分で、航路をこれに沿って航行している平安丸の進路を避けなかったことによって発生したが、平安丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 旭丸の運航が適切でなかったのは、備讃瀬戸東航路の途中から航路中央線を横切って同航路に入るにあたり、船長が、船橋当直者に対し、航行船舶の輻輳状況について報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、航行船舶の輻輳状況について船長に報告せず、平安丸の動静監視を十分行わなかったこととによるものである。 平安丸の運航が適切でなかったのは、備讃瀬戸東航路の途中から航路中央線を横切って航路外に出るにあたり、船長が、船橋当直者に対し、航行船舶の輻輳状況について報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、航行船舶の輻輳状況について船長に報告せず、左方の見張りを十分行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) C受審人は、夜間、備讃瀬戸東部を東行中、備讃瀬戸東航路の途中から同航路に入航する場合、航行船舶が輻輳するときには自ら操船指揮をとることができるよう、船橋当直者に対し、航行船舶の輻輳状況について報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、視界が狭められたときや漁船が密集するときには知らせるよう告げたのみで、備讃瀬戸通航経験のある船橋当直者に任せておけば大丈夫と思い、航行船舶の輻輳状況について報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自ら操船指揮をとることができず、船橋当直者が航路を東行中の平安丸との衝突のおそれに気付かないまま進行して同船との衝突を招き、同船の左舷船首部及び旭丸の右舷船首部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 D受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路において、航路の中央から左の部分を斜航中、航路をこれに沿って東行中の平安丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分行うべき注意義務があった。しかし同人は、いちべつしただけで無難にかわると思い、前路の西行船群に気を奪われ、動静監視を十分行わなかった職務上の過失により、平安丸の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路を東行し、航路の途中から航路外に出て井島水道に向かう場合、航行船舶が輻輳するときには自ら操船指揮をとることができるよう、船橋当直者に対し、航行船舶の輻輳状況について報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、危いときには早目に減速して船長を起こすよう指示したのみで、航行船舶の輻輳状況について報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自ら操船指揮をとることができず、船橋当直者が旭丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、航行船舶が輻輳する備讃瀬戸東航路を東行中、航路をこれに沿わないで東行する旭丸を見落とさないよう、左方の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路の西行船に気を奪われ、左方の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する旭丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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