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2000年(平成12年)

平成11年長審第72号
    件名
瀬渡船第十一昭丸プレジャーボートアルメリア衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年6月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

亀井龍雄、平野浩三、河本和夫
    理事官
喜多保、黒田敏幸

    受審人
A 職名:第十一昭丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:アルメリア船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
昭丸・・・・・・船首部に擦過傷
アルメリア・・・右舷外板及び操舵室を大破、のち廃船、船長が腰部、大腿部に打撲傷等、同乗者が腰部、下腿部に打撲傷等、頸椎を捻挫

    原因
昭丸・・・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
アルメリア・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第十一昭丸が、見張り不十分で、錨泊中のアルメリアを避けなかったことによって発生したが、アルメリアが、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月24日22時00分
熊本県樋島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船第十一昭丸 プレジャーボートアルメリア
総トン数 4.4トン
登録長 13.00メートル 7.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 308キロワット 77キロワット
3 事実の経過
第十一昭丸(以下、「昭丸」という。)は、FRP製瀬渡船で、A受審人が単独で乗り組み、瀬渡し客3人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成11年7月24日21時35分熊本県樋島南西部にある下桶川漁港を発し、同島北東沖合の城島に向かった。
A受審人は、樋島西岸沿いに北上して時計回りに航行し、21時50分城島に到着して船首を同島北東端の岩礁に押し付け、瀬渡客全員を降ろしたのち、同時56分同岩場を離れて帰途につき、同時58分雨竜埼灯台から179度(真方位、以下同じ。)4,000メートルの地点において針路を樋島北部の山下鼻北端やや沖合に向く291度に定め、11.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。

A受審人は、前方の天草上島東岸にある多数の人家の灯火や走行中の車のヘッドライト等を視野に入れながら進行し、21時59分雨竜埼灯台から183度3,900メートルの地点に達したとき、正船首340メートルに錨泊中のアルメリアの白灯1個を視認できる状況であったが、往路に付近を東航したとき他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かなかった。
21時59分半A受審人は、アルメリアとの距離が170メートルに接近したが、依然として同船の存在に気付かず、右転するなどして同船を避けることなく、同針路、同速力のまま進行し、22時00分雨竜埼灯台から188度3,800メートルの地点において、昭丸の船首部が、アルメリアの右舷船首部に前方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期で視界は良好であった。

また、アルメリアは、キャビン付FRP製モーターボートで、B受審人が単独で乗り組み、友人1人を乗せ、釣りなどのレジャーの目的で、船首0.40メートル船尾0.73メートルの喫水をもって、同日18時00分熊本県大矢野町にある大矢野マリーナを発し、樋島付近の釣り場に向かった。
B受審人は、天草上島東岸沿いに南下し、18時30分ごろ樋島北方沖合に至り、漂泊しながらきす釣りを行ったのち、20時00分前示衝突地点付近の水深12メートルのところに船首から投錨して錨索を約20メートル延出し、操縦室の屋根の上に設置された水面上2メートルの高さの法定白色全周灯1個を点灯して錨泊を開始した。
錨泊後B受審人は、東方対岸の熊本県日奈久で行われている花火大会の打ち上げ花火を見物したり、食事をしたりして過ごし、やがてキャビンに置いてあった釣具の整理にかかり、21時59分船首が096度を向いていたとき、右舷船首15度340メートルに昭丸の白、紅、緑3灯を視認でき、同船が自船に向首接近する状況であったが、法定の灯火を表示しているから、航行中の船が錨泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かなかった。

21時59分半B受審人は、昭丸に避航の様子が見えないまま170メートルに接近したが、釣具の整理を続けていて依然として同船に気付かず、注意喚起信号を行うことなく錨泊中、22時00分わずか前機関音を聞いて至近に迫った昭丸に気付いたが、なにをする間もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、昭丸は船首部に擦過傷を生じ、アルメリアは右舷外板及び操舵室を大破し、のち廃船とされ、B受審人が腰部、大腿部に打撲傷等を負い、同乗者が腰部、下腿部に打撲傷等を負ったうえ頸椎を捻挫した。


(原因)
本件衝突は、夜間、熊本県樋島北方沖合において、昭丸が、釣客の瀬渡しを終えたのち、同県下樋川漁港に向かって帰航中、見張り不十分で、前路で錨泊中のアルメリアを避けなかったことによって発生したが、アルメリアが、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、釣客の瀬渡しを終えたのち、樋島北方沖合を西航して帰航する場合、前方には、天草上島東岸の人家の灯火や走行中の車の灯火等が多数あったから、前路で錨泊中のアルメリアの白灯を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、往路に付近を通ったとき他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、アルメリアに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、昭丸の船首部船底に擦過傷を生じさせ、アルメリアの船体を大破のうえ廃船とさせ、同船の乗員2人に打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

B受審人は、夜間、樋島北方沖合で錨泊する場合、自船に接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、法定の灯火を表示しているから、航行中の船が錨泊中の自船を避けるものと思い、釣具の整理を行っていて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、昭丸に気付かず、注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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