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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月2日22時25分 対馬海峡 2 船舶の要目 船種船名
漁船第七海幸丸 総トン数 14トン 登録長 16.16メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
160 船種船名 貨物船ペトリナ 総トン数 11,551トン 全長 146.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力
5,149キロワット 3 事実の経過 第七海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成10年9月2日14時00分山口県特牛(こっとい)港を発し、福岡県沖ノ島北方沖合5海里の漁場に向かった。 A受審人は、18時00分ごろ漁場に到着し、多数の漁船とともに操業を開始したものの、漁模様が悪く、いか45キログラムを獲たところで予定を早めて操業を打ち切り、自宅のある長崎県櫛漁港に帰ることとし、22時17分沖ノ島灯台から348度(真方位、以下同じ。)7.3海里の地点を発進するとともに、針路を275度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。 ところで、海幸丸は、24ボルト30ワットの傘なし白色作業灯が操舵室外壁前面の甲板上高さ1メートル20センチメートルのところに2個、同側面上部のひさしの下に各舷1個ずつ設置され、また、同室前方の両舷縁に直径30センチメートルのドラムを有するいか釣機がそれぞれ2台ずつ備えられていた。A受審人は、夜間、操業を終えて帰港するとき、前示作業灯を点灯して付着したいか墨のふき取りなど同室周辺の清掃を甲板員に行わせ、その際、作業灯の明かりと、いか釣機のドラムがその明かりを反射するため、前方から側方にかけての見張りが妨げられることから、平素、レーダーを活用するなどして周囲の見張りを厳重に行っていた。 定針したときA受審人は、前路に衝突のおそれがある操業中のいか釣り漁船がいないことを確認したあと、航行中の動力船の灯火に加え、前示の白色作業灯を点灯して甲板員に操舵室周辺の清掃を行わせ、いか墨の付着が少なかったことから、いつもおよそ30分間を要するところ、10分間たらずで作業を終えることができるので短時間であれば大丈夫と思い、作動していたレーダーを活用するなどして周囲の見張りを厳重に行わなかった。 22時20分A受審人は、沖ノ島灯台から342度7.5海里の地点に達したとき、左舷船首26度1.8海里に前路を右方に横切る態勢のペトリナの白、白、緑3灯を視認でき、その後、その方位が変わらず接近し、同船と衝突のおそれがあることが分かる状況であったが、依然レーダーを活用して周囲の見張りを厳重に行っていなかったのでこのことに気付かず、避航の気配がないまま接近してくる同船に対して警告信号を行うことも、さらに間近に接近したとき、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく、同じ針路、速力で続航した。 A受審人は、22時25分少し前短音2回を聞いて前方をよく見たところ、船首至近にペトリナのひときわ大きな船体を初めて視認し、急いで機関を全速力後進にかけたが及ばず、22時25分沖ノ島灯台から339度7.7海里の地点において、海幸丸は、原針路のまま、5.0ノットの残速力で、その右舷船首が、ペトリナの右舷後部に前方から44度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。 また、ペトリナは、船尾船橋型貨物船で、船長B、三等航海士Cほか25人が乗り組み、亜鉛鉱など6,750トンを載せ、船首6.10メートル船尾8.05メートルの喫水をもって、8月30日23時30分(現地時間)台湾の高雄港を発し、秋田県秋田船川港に向かった。 C三等航海士は、越えて9月2日20時00分壱岐島北西方沖合11海里ばかりの地点で、航行中の動力船の灯火が点灯していることを確認して操舵手とともに船橋当直に就き、予定の針路線に沿うよう適宜針路を調整しながら対馬海峡東水道を北上し、22時00分沖ノ島灯台から296度8.1海里の地点に達したとき、針路を051度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.8ノットの対地速力で進行した。 定針したときC三等航海士は、前方に集魚灯を点灯した多数の漁船を認め、それらを双眼鏡で監視していたところ、22時20分沖ノ島灯台から330.5度7.7海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首18度1.8海里のところに海幸丸の白、紅2灯及び白色作業灯を初めて視認し、その後同船の方位に変化がないまま接近するので操舵手を舵輪に就かせて手動操舵に切り替えさせたものの、小型漁船である海幸丸がいずれ自船を避けるものと期待し、速やかに右転するなど同船の進路を避けないまま、同じ針路、速力で続航した。 C三等航海士は、22時25分少し前右舷船首至近に迫った海幸丸に避航の気配が見えなかったので衝突の危険を感じ、短音2回を吹鳴するとともに左舵一杯を令したが効なく、ペトリナは、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 C三等航海士は、直ちに原針路に戻し、右舷ウイングに出て後方を見たところ、灯火を点灯して浮いている海幸丸を認め、国際VHFで同船を呼んだが、応答がなかったので衝突がなかったものと判断して航海を続け、翌3日00時00分船橋当直を交替した。B船長は、05時30分島根県沖合を航行中、海上保安庁の巡視船から連絡を受けた一等航海士Dの報告で初めて事故を知り、事後の措置に当たった。 衝突の結果、海幸丸は右舷船首部外板に亀裂を生じたうえ、かんぬき及び錨台などに損傷を生じ、ペトリナは右舷後部外板に擦過傷を生じたのみで、海幸丸はのち修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、沖ノ島北方の対馬海峡において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北上中のペトリナが、前路を左方に横切る海幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中の海幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、沖ノ島北方の対馬海峡において、操舵室周囲の作業灯を点灯したまま長崎県櫛漁港に向けて西行する場合、同灯の明かりで前方から側方にかけての見張りが妨げられていたのであるから、前路を右方に横切る態勢のぺトリナを見落とすことがないよう、レーダーを活用するなどして周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、いつもより早く作業を終えることができるので短時間であれば大丈夫と思い、レーダーを活用するなどして周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するペトリナに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき機関を後進にかけて行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく、同じ針路、速力のまま進行して同船との衝突を招き、海幸丸の右舷船首部外板に亀裂を生じさせたうえ、かんぬき及び錨台などに損傷を、ペトリナの右舷後部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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