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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年12月14日14時20分 山口県見島西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一清豊丸 漁船忠生丸 総トン数 75トン 11トン 全長 34.20メートル 登録長 14.99メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 735キロワット 漁船法馬力数
160 3 事実の経過 第一清豊丸(以下「清豊丸」という。)は、二艘(そう)底引き網漁業に従事する船首船橋楼型鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首3.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成10年12月12日01時00分山口県下関漁港を発し、日本海の見島北方漁場に至り、僚船とともに操業に従事し、翌々14日11時45分見島北灯台から002度(真方位、以下同じ。)19.6海里の地点において、漁獲物約10トンを獲たところで操業を打ち切り、下関漁港への帰途に就いた。 ところで、A受審人は、操業している間は、他の乗組員が休む曳網中においても漁労長と交替で操船に従事するなど、十分な休息がとれないので、往路と復路の、陸岸から離れた海域を航行する際、無資格の甲板長や甲板員を2時間交替の単独船橋当直に当たらせ、自らと漁労長は操舵室後部の寝台で休むことにしていた。 A受審人は、発進時の操船を漁労長に委ねて甲板上で漁獲物の整理作業に当たり、漁労長は、機関を航海全速力とし、甲板長を手動で操舵に当たらせ、羅針儀で南南西方に向けて航行するよう指示し、13時過ぎまで在橋したのち昼食を取るため降橋した。 一方、A受審人は、漁獲物の整理作業を終えたのち昼食を取り、13時ごろ昇橋したところ、右舷前方からの風が強く、波しぶきが操舵室窓に降りかかって周囲の見張りが妨げられる状況であったが、漁労長がまだ在橋しており、同人から当直者に対して見張りについての指示がなされているものと思い、直接当直者に対して見張りを厳重に行うよう指示したうえ、次の当直者にもこのことを申し送りさせるなど、見張りに対する指示を十分に行うことなく、寝台で横になって休息した。 B指定海難関係人は、14時00分見島北灯台から252度2.6海里の地点に達したとき、昇橋して甲板長と当直を交替し、前面窓ガラス及び右舷側窓ガラスに波しぶきがかかって見張りが妨げられる状態であったので、前面窓ガラスに設置されていた2台の回転窓を駆動させ、引き続き手動操舵により針路が189度となる羅針路の南南西に船首を向け、機関を航海全速力にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。 14時13分少し過ぎB指定海難関係人は、見島北灯台から225度4.0海里の地点に達したとき、右舷船首68度1海里のところに忠生丸を視認でき、その後同船が自船の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、右舷前方から来る波が大きく、回転窓を通して波の状態を見ながら、船首を波にうまく乗せるよう操舵することに気を奪われ、時折回転窓に顔を近づけたり、右舷側の扉を開けたりするなどして周囲の見張りを厳重に行わなかったので、忠生丸の存在に気付かなかった。 こうして、清豊丸は、B指定海難関係人からA受審人に対して忠生丸接近の報告がなされず、速やかに機関を使用するなど、同船の進路を避ける措置がとれないまま、原針路、原速力で進行中、14時20分見島北灯台から218度4.8海里の地点において、その右舷中央部に忠生丸の左舷船首が後方から40度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力6の南西風が吹き、視界は良好で、高さ3メートルの波があった。 また、忠生丸は、FRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、引き縄漁業に従事する目的で、船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同月14日05時30分山口県見島本村漁港を発し、07時30分ごろ同島北西方の漁場に至って操業を開始した。 C受審人は、正午前から天候が悪化して操業を続けることが困難となったので、よこわ約320キログラムを獲たところで操業を打ち切り、12時30分見島北灯台から296度18.8海里の地点を発し、針路を母港のある山口県萩大島に向かう132度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。 発進後C受審人は、荒天のため自動操舵が困難な状況であったので、操舵室左舷側に置いたいすに右舷側を向いて腰掛け、左手で操舵輪を握って手動で操舵に当たり、折から波しぶきで操舵室窓ガラスが濡れていたうえ、同ガラスの内側も曇って周囲の見張りが妨げられていたので、操舵室前面の窓中央部より少し右舷側に設置されていた回転窓を駆動させ、その窓から波の状態を確認しながら操舵に当たるとともに、周囲の航行船の状況を把握するため、操舵輪右舷側の6海里レンジとしたレーダーを監視しながら続航した。 14時07分C受審人は、見島北灯台から243度5.1海里の地点で左舷前方2海里のところに清豊丸のレーダー映像を初めて探知し、同時13分少し過ぎ同灯台から232度4.9海里の地点に達したとき、同映像が左舷船首55度1海里に接近するのを認めた。 ところが、C受審人は、そのころから清豊丸の映像が海面反射の中に隠れるようになったが、左舷側から接近する同船の方で自船を避けるものと思い、レーダーを調整して海面反射を除去するなり、立ち上がって回転窓に顔を寄せるなりしてその後の清豊丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船の方位が明確に変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近し、14時18分左舷船首55度550メートルばかりとなったことに気付かず、清豊丸に対して警告信号を行うことなく、さらに接近しても、機関を使用するなど衝突を避けるための協力動作を取ることなく続航中、14時20分少し前左舷前方至近に相手船を視認し、あわてて右舵一杯をとったが及ばず、船首が149度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、清豊丸は右舷中央部外板に小破口を生じ、忠生丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、山口県見島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、清豊丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る忠生丸の進路を避けなかったことによって発生したが、忠生丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 清豊丸の運航が適切でなかったのは、船長の当直者に対する見張りについての指示が十分でなかったことと、当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、山口県見島西方沖合を下関漁港に向けて航行中、無資格の者に単独の船橋当直を任せる場合、強い風浪による波しぶきで操舵室窓ガラスが濡れて見張りが妨げられる状態であったから、回転窓を活用するなどして周囲の見張りを厳重に行うよう、各当直者に指示しておくべき注意義務があった。ところが、同人は、発進時の操船指揮を漁労長がとったので、適切な指示がなされているものと思い、各当直者に見張りについての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、無資格の当直者による見張りが十分に行われず、右舷前方から衝突のおそれがある態勢で接近する忠生丸の進路を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、清豊丸の右舷中央部外板に小破口を伴う凹損を生じさせ、忠生丸の船首部を圧壊させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、風浪による波しぶきで操舵室の窓ガラスが濡れるなどして見張りが妨げられる状況のもと、山口県見島西方沖合を単独で船橋当直に当たって航行中、レーダーにより探知した清豊丸の映像が、間もなく海面反射の中に隠れるのを認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、レーダーを調整して海面反射を除去するなり回転窓に顔を寄せるなりして引き続き同船の動静を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、清豊丸のレーダー映像が海面反射に隠れたとき、自船を右舷側に見る同船の方が自船の進路を避けるものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、左舷方から衝突のおそれがある態勢で接近する清豊丸に気付かないで、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作もとらないまま 進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、波しぶきにより船橋前部の窓ガラスが濡れて見張りを妨げられる状況となった際、回転窓から前方のみを注視して周囲の見張りを厳重に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、その後単独船橋当直中の見張りを厳重に行っている点に徴し、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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