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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月14日05時30分 福岡県博多港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボート微茄寿 全長 7.39メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
84キロワット 3 事実の経過 微茄寿は、ほぼ船体中央部に操舵室を有し、船外機1基を備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.40メートル船尾0.35メートルの喫水をもって、平成10年11月14日05時15分福岡県博多港多々良川河口の係留地を発し、同港西方にある宝島付近の釣り場に向かった。 ところで、博多港東航路及びその付近では、同年6月から11年1月までの予定で浚渫工事が行われており、当時、ポンプ式浚渫船の若築丸が、博多港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から344度(真方位、以下同じ。)1.57海里の地点に配置され、同船の船尾右舷側から北東方の埋立造成地まで土砂移送用の鋼製排砂管が敷設されており、同船から浮上零号部と称する海底管との接続部までの約1,000メートルの間は、海面に浮かぶ海上フローター管(以下「フロートパイプ」という。)が使用されていた。 フロートパイプは、1本が直径76センチメートル長さ6メートルの各排砂管が互いにゴムスリーブで連結され、これを海面上に浮かすために、直径1.4メートル長さ5.5メートルの鋼製で円筒形のフローターが各排砂管に2個ずつ取り付けられたもので、同パイプ上には、ゼニライトL−2型と称する4秒1閃光の白色標識灯が、77メートル毎に海面上約1.5メートルの高さに設置されていた。また、この浚渫工事及び関連の標識灯などの水路情報については、海上保安部のほかマリーナや漁業協同組合など関係諸団体にも周知されていた。 A受審人は、微茄寿を購入してから福岡湾内で7回ばかり航海の経験があったものの、博多港の航路標識や浚渫などの水路状況についてよく知らなかったが、昼間に何回か航海したことがあったので夜間でも無難に航行できるものと思い、所属のマリーナに問い合わせて浚渫工事などについての水路調査を十分に行うことなく、同港東航路付近で浚渫工事が行われていることや同工事用のフロートパイプが敷設されていることを知らないで発航した。 A受審人は、操舵室の天井から顔を出して操舵操船に当たり、箱崎防波堤北端を左舷方に170メートルばかり離して航過したころ、機関を回転数毎分3,500にかけ、15.0ノットの対地速力として西行し、05時27分少し前東防波堤灯台から013度1.74海里の地点に達したとき、左舷前方に見えた能古島付近の灯浮標の灯火の方向から見当をつけて針路を258度に定め、浚渫工事区域へ向かうようになったことに気付かないまま、引き続き同速力で手動操舵により進行した。 05時29分少し前A受審人は、博多港東航路第5号灯浮標を右舷側90メートルに離して航過したとき、正船首690メートルのところに多数の投光器に照らされた若築丸を視認したが、これを停泊中の貨物船と思い、同時29分半わずか過ぎ若築丸に200メートルばかりに近づいたとき、同船を替わすため、小角度の右舵をとって右転を開始したところ、同船船尾から北東方向に延びているフロートパイプに向かう状況となったものの、このことに気付かないまま続航中、同時30分わずか前正船首至近にフロートパイプを視認し、右舵一杯としたが効なく、微茄寿は、05時30分東防波堤灯台から346度1.58海里の地点において、若築丸の船尾端から約40メートル後方のフローターに、原速力のまま、315度を向いた船首がほぼ直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 衝突の結果、微茄寿は、船首部外板に破口及び発電機に濡損を生じたが、のち修理され、フロートパイプには損傷が無く、A受審人が左肩及び肋骨の骨折で約3カ月の入院治療を要する重傷を負った。
(原因) 本件フロートパイプ衝突は、夜間、博多港多々良川河口の係留地から同港西方にある宝島付近の釣り場に向け航行するにあたり、水路調査が不十分で、浚渫工事用のフロートパイプに向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、博多港多々良川河口の係留地から同港西方にある宝島付近の釣り場に向けて航行する場合、浚渫工事区域の方向へ進行することのないよう、所属のマリーナに問い合わせて浚渫工事などについての水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、昼間に何回か航海したことがあったので夜間でも無難に航行できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、浚渫工事区域に向け航行していることに気付かず、停泊中の浚渫船を貨物船と思い、これを替わそうとしてフロートパイプに向かって進行して衝突を招き、微茄寿の船首部外板に破口などを生じさせ、自らも左肩等を骨折するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |