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2000年(平成12年)

平成11年門審第36号
    件名
漁船第十八扇丸漁船こがね丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年6月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

佐和明、供田仁男、米原健一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第十八扇丸船長 海技免状:六級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:こがね丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
扇丸・・・・・船首部に相手船の船体塗料が付着したのみ
こがね丸・・・船尾外板が折損、船尾オーニングスタンションが倒壊

    原因
扇丸・・・・・船橋無人、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
こがね丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十八扇丸が、船橋を無人とし、漂泊中のこがね丸を避けなかったことによって発生したが、こがね丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月7日23時50分
対馬海峡東水道西方
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八扇丸 漁船こがね丸
総トン数 156トン 4.9トン
全長 39.68メートル 13.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 345キロワット
漁船法馬力数 80
3 事実の経過
第十八扇丸(以下「扇丸」という。)は、長崎県対馬の三根漁港を基地として活魚を運搬する鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、活魚倉にあじ4トンを載せ、船首2.5メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成10年8月7日18時00分同漁港を発し、同県佐世保港に向かった。
A受審人は、船橋当直を、自らを含めてB指定海難関係人、甲板員、及び一等機関士の4人による単独2時間交替制とし、他の3人の当直者が甲板部の海技免状を受有していなかったので、自らの当直時間帯以外にも必要なときには適宜昇橋して操船の指揮に当たることにしていた。

こうして、A受審人は、発航操船に引き続き単独で船橋当直に就いて対馬西岸を南下し、20時30分対馬南端の豆酘(つつ)埼灯台を左舷側に並航したとき、20時から昇橋していた次直の甲板員に当直を任せ、降橋して自室で休んだ。
降橋する際、A受審人は、漁船などが輻輳(ふくそう)する対馬海峡東水道西方を無資格の者が続いて船橋当直を行うことになるが、漁船群に接近しているときに船橋を無人にする者はいないものと思い、次直の甲板員に、やむなく船橋を離れなければならないときには速やかに知らせるように、また、このことを他の船橋当直者に順次申し送りするようになど、船橋を離れる際の船長への報告について十分に指示することなく、GPSプロッターに表示した170度(真方位、以下同じ。)の針路線に乗せて適宜針路を修正しながら航行するようにとの指示しか行わなかった。

22時00分B指定海難関係人は、豆酘埼灯台から176度13.5海里の地点に達したとき、昇橋して甲板員と当直を交替し、針路を引き続き170度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。
やがて、B指定海難関係人は、前方から右方にかけての水平線に広がる数十隻の漁船群の集魚灯の光芒を認め、そのままの針路で続航するうち、23時40分大碆鼻灯台から320度15.3海里の地点に差し掛かったころ、数隻の漁船の灯火が前方約1.5海里に接近し、これらが漂泊していか釣り漁を行っていることを認めた。
間もなくB指定海難関係人は、尿意を催してきたので、用を足すために船橋を離れることにしたが、A受審人に船橋を離れることを知らせないまま、23時46分大碆鼻灯台から317.5度14.6海里の地点において、左舷船首10度1,100メートルの、漁船群東端で集魚灯を点じて漂泊しているこがね丸と、その東側で集団から離れて操業している2隻の漁船との間隔が開いており、その方向に向かうためコンパスで方位を確認しないまま自動操舵の指針を約10度左に転じ、船首方向の様子を見ていたところ、回頭惰力で10度以上左回頭し、こがね丸を正船首少し右舷側に見る状態となったので、無難に替わるものと考え、船橋を無人にして上甲板船尾部に赴いた。

扇丸は、一時的にこがね丸を正船首少し右舷側に見る態勢となったものの、間もなく針路が160度に整定され、同船に向首して接近する状況となったが、船橋が無人で、衝突を避けるための措置がとられないまま続航し、23時50分大碆鼻灯台から317度14.0海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、こがね丸の船尾に後方から約3度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、視界は良好であった。
B指定海難関係人は、船橋に戻ったころ、こがね丸が右舷側至近を後方に替わっていくのを認めたものの、衝撃などを感じなかったことからそのまま当直を続け、24時ごろ次直の一等機関士と交替し、A受審人は、翌8日03時ごろ海上保安部からの船舶電話で本件発生を知り、事後の措置に当たった。
また、こがね丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、8月7日13時00分伊万里湾東部の佐賀県高串漁港を発し、15時ごろ対馬海峡東水道西方の漁場に至り、パラシュート型シーアンカーを投じ、索具を50メートルばかり延出して漂泊し、日没までの間を漁具の整備や食事にあてた。

17時40分ごろC受審人は、日没後で暗くなってきたので、主機を動かして発電機を始動し、船橋前部に3キロワットの集魚灯7個を、船橋後部に同灯2個をそれぞれ点灯し、漁船群の東端付近において、疑似針5個を付けた釣り糸の先端に130号の錘を付けたものを、各舷2本ずつ海面下約60メートルまで下げ、これらを時折手で上下させて誘いをかけながら漁を開始した。
ところで、C受審人は、釣り上げたいかを生かしたまま水揚げするため、船橋前部に設けられている生け簀(す)の海水温度を20度前後に保つよう、時折生け簀前部の、上甲板下にある氷室から氷を取り出し、生け簀に投入していた。
23時40分C受審人は、前示衝突地点付近において船首を163度に向けて操業中、船尾方向わずか右舷側1.5海里のところに南下する扇丸が存在していたものの、生け簀に氷を入れるため、氷室に腰から下を入れてシャベルで氷を甲板上に上げる作業を始めたので、これに気付かなかった。

23時46分C受審人は、右舷船尾3度1,100メートルの地点で扇丸が針路を左に転じ、その後白、紅、緑3灯を視認でき、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、強力な集魚灯を点じて漂泊する自船を、航行中の他船の方が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを厳重に行わず、船橋構造物で死角になっていた扇丸の灯火に気付かなかった。
23時49分C受審人は、扇丸が避航の気配を見せないまま300メートルばかりに迫ったが、依然見張り不十分でこのことに気付かず、速やかに操舵室に赴いて機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることなく、作業に専念していたところ、船首を163度に向けた状態のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、扇丸は船首部に相手船の船体塗料が付着したのみであったが、こがね丸は船尾外板が折損したほか、船尾オーニングスタンションが倒壊し、自力航行して高串漁港に戻り、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、対馬海峡東水道西方において、扇丸が,船橋を無人とし、前路で漂泊していか釣り漁を行っているこがね丸を避けなかったことによって発生したが、こがね丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
扇丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して船橋を離れる際の報告についての指示を十分に行わなかったことと、船橋当直者が船橋を離れる際に、船長に対する報告を行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、対馬海峡東水道西方を南下中、無資格の者に単独の船橋当直を任せる場合、漁船等の輻輳する海域であったから、所用でやむなく船橋を離れる際には速やかに知らせるよう、指示しておくべき注意義務があった。ところが、同人は、漁船群に接近しているときに、当直者が船橋を無人にすることはあるまいと思い、船橋を離れる際の報告について十分な指示を行わなかった職務上の過失により、船橋当直者が船長に報告しないまま船橋を無人にし、衝突のおそれがある態勢のこがね丸を避けることができないまま進行して衝突を招き、こがね丸の船尾外板等を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、対馬海峡東水道西方において、集魚灯を点灯し、漂泊していか一本釣り漁を行う場合、漁船等の輻輳する海域であったから、他船が避航の気配がないまま間近に接近したときは、速やかに衝突を避けるための措置をとることができるよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、夜間、強力な集魚灯を点灯し、漂泊して操業しているので、航行中の他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で間近に接近した扇丸に気付かず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置がとれずに漂泊を続けて同船との衝突を招き、自船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。

以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、前路に多数のいか釣り漁船の集魚灯を認めてこれに接近中、所用で船橋を離れようとする際、このことを船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、船橋を無人としたことについて強く反省している点に徴し、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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