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2000年(平成12年)

平成11年広審第102号
    件名
油送船第五霧島丸引船第八天常丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年6月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、工藤民雄、内山欽郎
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:第五霧島丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第八天常丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
霧島丸・・・・・・右舷船首外板等に亀裂を伴う凹損
常石15号・・・・右舷後部等に亀裂を伴う凹損

    原因
天常丸引船列・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
霧島丸・・・・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八天常丸引船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第五霧島丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第五霧島丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月31日20時32分
安芸灘東部
2 船舶の要目
船種船名 油送船第五霧島丸
総トン数 699トン
全長 75.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
船種船名 引船第八天常丸 台船常石15号
総トン数 127トン
全長 30.4メートル 60.0メートル
幅 22.0メートル
深さ 3.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
3 事実の経過
第五霧島丸(以下「霧島丸」という。)は、岡山県水島港で積載した重油などを本州北西岸各港に輸送する船尾船橋型の油タンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、A重油等2,000キロリットルを積載し、船首4.0メートル船尾5.3メートルの喫水をもって、平成10年7月31日15時45分水島港を発し、秋田県秋田船川港に向かった。

A受審人は、備後灘を西行したのち、来島海峡東口から船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示して中水道を同海峡西口に向け航行し、20時22分来島梶取鼻灯台から026度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を安芸灘南航路の推薦航路に沿う223度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南西流に乗じて11.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
20時27分A受審人は、来島梶取鼻灯台から001度1.7海里の地点に達したとき、左舷船首9度1.5海里のところに、前路を右方に横切る態勢の第八天常丸(以下「天常丸」という。)の表示する白、白、白、緑4灯を初認するとともに、同船の後方に引かれた台船常石15号の存在を双眼鏡で認めて引船列であることを知り、その後、同引船列と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、一見して天常丸の方位が右に変化しているように見えたことから大丈夫と思い、天常丸引船列に対する動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず続航した。

A受審人は、その後、天常丸引船列が避航の気配のないまま接近する状況にあったが、同引船列に対して避航を促すための警告信号を行わず、20時31分来島梶取鼻灯台から336度1.2海里に達したとき、天常丸引船列が、依然、方位変化のないまま600メートルに接近したものの、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、同時32分少し前、船首至近に迫った常石15号を認め、驚いて、左舵一杯としたが及ばず、霧島丸は、20時32分来島梶取鼻灯台から327度1.2海里の地点において、原針路、原速力のまま右舷船首部が、常石15号の右舷側後部に前方から23度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、衝突地点付近には約1.0ノットの南西流があった。
また、天常丸は、鋼製引船で、B受審人ほか4人が乗り組み、船首2.0メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、全長60.0メートル、全幅22.0メートルで架橋建設用鋼製ブロック6基約125トンを積載して、喫水が船首0.5メートル船尾0.6メートルとなった無人の鋼製常石15号を曳航し、同日11時30分大分県大分港を発し、広島県千年港に向かった。

発航時、B受審人は、曳航索として、常石15号の甲板上の船首部両舷の係船柱に直径26ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ22メートルのワイヤロープの両端をそれぞれとって直径90ミリ長さ33メートルの化繊ロープを連結してY字形とし、さらにその先端を天常丸の曳航フックに連結して天常丸の船尾から常石15号の船尾端までの長さが115メートルの引船列とした。
B受審人は、船橋当直を二等航海士、一等航海士及び自身の3人による単独の4時間輪番制として行い、伊予灘及び釣島水道を北東進し、19時40分安芸灘南航路第3号灯浮標の南西方0.6海里付近のところで一等航海士から当直を引き継ぎ、天常丸に曳航中の船舶が表示しなければならない所定の灯火を点灯し、常石15号には、甲板上両舷側に沿って取り付けた自動点滅式標識灯各舷4個をそれぞれ点灯して、安芸灘南航路の推薦航路に沿って進行した。

B受審人は、安芸灘南航路第4号灯浮標を左舷方300メートルに航過したのち、20時23分来島梶取鼻灯台から270度1,800メートルの地点に達したとき、大下瀬戸を通航する予定で、針路を小大下島の中央部に向ける020度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南西流に抗して7.0ノットの速力で進行した。
20時27分B受審人は、来島梶取鼻灯台から297度1.0海里の地点に達したとき、右舷船首14度1.5海里に前路を左方に横切る態勢の霧島丸の白、白、紅3灯を初認し、その後方位の変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、一瞥しただけで同船の前路を無難に航過できるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、早期に右転するなどして同船の進路を避けないまま続航中、20時32分天常丸引船列は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

B受審人は、衝撃を感じなかったことから衝突したことに気付かないまま進行中、21時30分ごろ海上保安部から本件発生を知らされて、事後の措置に当たった。
衝突の結果、霧島丸は右舷船首外板等に及び常石15号は右舷後部にそれぞれ亀裂を伴う凹損を生じ、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、安芸灘北東方海域において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北東進中の天常丸引船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る霧島丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南西進中の霧島丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、安芸灘北東方海域を常石15号をえい航し大下瀬戸に向け北東進中、右舷船首方に霧島丸の白、白、紅3灯を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで相手船の前路を無難に航過できると思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、霧島丸の右舷船首部外板等に亀裂を伴う凹損を、常石15号の右舷側後部に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

A受審人は、夜間、安芸灘南航路の推薦航路を南西進中、左舷前方に天常丸引船列の白、白、白、緑4灯を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同引船列に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見して天常丸の方位が右に変化しているように見えたことから大丈夫と思い、天常丸引船列に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、天常丸引船列と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況にあることに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して、天常丸引船列との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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