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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年2月12日02時00分 大阪港大阪区 2 船舶の要目 船種船名
貨物船あさひ 総トン数 199トン 全長 57.28メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
588キロワット 3 事実の経過 あさひは、主に東京、瀬戸内海諸港間において国内塩の輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、袋入り国内塩188トンを載せ、船首2.5メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成11年2月10日15時25分京浜港東京区を発し、大阪港大阪区に向かった。 これより先、R株式会社ほか2社は、同10年12月8日から、大阪港大阪区第8区において、ボーリングやぐら及びロータリー式ボーリング機械を装備したスパッド台船(以下「ボーリング施設」という。)3基を用いて、S市港湾局発注による大阪港新島護岸築造工事に伴う土質ボーリング調査を順次実施していた。 S市港湾局は、土質調査を開始するにあたり、パンフレットを作成し、関係各機関、団体及びT株式会社などの船会社にこれを配布してその周知を図るとともに、ボーリングやぐら上に1メートル四方の赤い標識旗を掲げ、海面上約8.5メートルの同やぐら頂部付近に白色点滅式簡易標識灯(以下「標識灯」という。)及びプラットホーム上にレーダー反射器を備えてその存在を示し、さらに接近する船舶に対する警戒業務をU株式会社に委託し、警戒船を常時配備してその任務に当たらせていた。 R株式会社は、同11年1月22日から、当該海域において土質調査を開始し、同年2月4日から同月14日までの間、大阪灯台から257度(真方位、以下同じ。)1,680メートルの地点にボーリング施設(以下「Aボーリング施設」という。)を、同地点から南西方及び北東方のそれぞれ約200メートル離れた地点にボーリング施設各1基を設置し、昼間のみ作業員を乗り込ませて同調査を行っていた。 ところで、ボーリング施設は、幅約2.3メートル高さ約1.4メートルの鋼製箱型浮体であるフロータケースをロ字形に配置した上に一辺が約9メートルの作業台を備えたプラットホームを有し、その四隅に直径約30センチメートル、最大脚長24メートルのスパッドと呼ばれる支柱を備えたスパッド台船(YK−85H型)と称する総重量24.5トンの海上作業用台船上にボーリング機械などを装備し、調査地点においてスパッドの脚を伸ばして海底に固定したのち、プラットホームを海面上約3メートルの高さまで巻き上げていた。 また、ボーリング施設に掲げられた標識灯は、蓄電池を電源として橋脚灯などに用いられる株式会社ゼニライトブイ製のZL−200Pと称する12ボルト10ワットの電球を使用するもので、モールス符号Uの白灯を8秒毎に発し、光達距離が7海里の性能を有していた。そして、R株式会社は、標識灯の維持管理として、日常の点灯確認のほか定期的に電圧、外観点検及び動作確認を行っており、平成11年2月6日に実施した諸点検において、11.6ボルトの電圧を確認し、その他においても異状を認めていなかった。 A受審人は、同月12日01時20分当直中の一等航海士から大阪港外に達した旨の報告を受け、直ちに昇橋したところ、大阪港大阪区第8区付近に多数の錨泊船を認め、比較的錨泊船の少ない大阪灯台から252度1,800メートル付近に錨を入れる予定としたものの、前示パンフレットなどを入手していなかったので、投錨予定地点(以下「錨地」という。)付近に標識灯を掲げたボーリング施設が設置され、その南東側約50メートルのところに警戒船が配備されていることを知らなかった。こうして、同受審人は、同時30分大阪港大和川南防波堤北灯台から257度4.2海里の地点で、一等航海士から引き継いで単独で船橋当直に就き、針路を043度に定め、機関を全速力前進にかけて10.8ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 01時40分A受審人は、錨地まで2.4海里ばかりに接近したところで、投錨準備を令し、9.0ノットに減速するとともに手動操舵に切り替えて続航し、同時47分少し前大阪灯台から235度4,260メートルの地点において、正船首1.4海里の錨地付近に白、紅2灯及び緑色回転灯を掲げた漂泊中の前示警戒船を視認したものの、待機中の水先船であろうと考え、その北側200メートルばかりの地点を新たな錨地とし、同船の右舷側から回り込むつもりで、針路を047度に転じて進行した。 A受審人は、01時55分少し前大阪灯台から243度2,060メートルの地点に達したとき、左舷船首27度600メートルのところにAボーリング施設の標識灯を認め得る状況であったが、付近に錨泊船の明かりを認めなかったことから、前路に航行の妨げとなるものは存在しないものと思い、双眼鏡を用いるなどして見張りを十分に行わなかったので、同ボーリング施設の存在に気付かず、投錨に備えて機関を停止して続航した。 01時57分少し前A受審人は、大阪灯台から247度1,700メートルにあたる、Aボーリング施設の南東方300メートルばかりの地点に至っても、依然として同ボーリング施設の標識灯を視認せず、これを避けることなく、新たな錨地に向けて左舵一杯とし、02時00分少し前船首が風上に向き、約2ノットの惰力速力となったとき、船首至近距離に点滅する白灯1個を認め、全速力後進としたが及ばず、02時00分大阪灯台から257度1,680メートルの地点において、あさひは、280度に向首して、その船首が同ボーリング施設のプラットホームにほぼ直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力5の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で視界は良好であった。 衝突の結果、あさひは、船首部外板に軽微な凹損を生じたが、修理されないまま運航し、また、Aボーリング施設は、フロータケースに凹損、スパッド脚に曲損及びボーリング機械に濡損を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件海上ボーリング施設衝突は、夜間、大阪港港界付近の錨地に向けて北上中、見張り不十分で、同施設を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、大阪港港界付近の錨地に向けて北上中、錨地付近に設置された海上ボーリング施設の標識灯を視認することができる状況となった場合、同標識灯を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、錨地付近に錨泊船の明かりを認めなかったことから、前路に航行の妨げとなるものは存在しないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海上ボーリング施設の標識灯に気付かず、同施設を避けないまま進行して衝突を招き、あさひの船首部外板に凹損、海上ボーリング施設のフロータケースに凹損、スパッド脚に曲損及びボーリング機械に濡損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |