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2000年(平成12年)

平成11年神審第98号
    件名
旅客船第十八かすみ丸漁船吉寿丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年6月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西田克史、阿部能正、黒岩貢
    理事官
野村昌志

    受審人
A 職名:第十八かすみ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:吉寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
かすみ丸・・・左舷側手すりを曲損、同側防舷材等に損傷
吉寿丸・・・・左舷船首部かんぬきに折損等

    原因
吉寿丸・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、吉寿丸が、見張り不十分で、停止中の第十八かすみ丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月6日16時15分
兵庫県香住港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第十八かすみ丸 漁船吉寿丸
総トン数 19トン 8.63トン
全長 16.50メートル
登録長 14.18メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 330キロワット 404キロワット
3 事実の経過
第十八かすみ丸(以下「かすみ丸」という。)は、兵庫県香住港沖合周辺の遊覧に就航する、旅客定員85人のFRP製旅客船で、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客12人を乗せ、船首尾とも0.8メートルの喫水をもって、平成9年9月6日15時00分同港港奥に位置する東浜泊地東側の係留岸壁を発し、同港西方の沿岸沿いを遊覧したのち、反転して帰途に就いた。
A受審人は、船体前部に設けられた操縦席に腰を掛けて操船にあたり、香住港港界に差し掛かったところで機関を全速力前進から徐々に減じ、16時08分同港西防波堤先端を右舷側近くに付け回したところで極微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で同防波堤沿いに南下し、香住港東浜北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から北東方に約100メートル延びる消波堤の先端近くに至り、同灯台とその南方の防波堤先端との間の、東浜泊地に向けて右転を始め、同時13分北防波堤灯台から048度(真方位、以下同じ。)120メートルの地点で船首が222度を向いたとき、右舷船首5度340メートルに、同泊地から出航中の吉寿丸を初認した。

そこで、A受審人は、吉寿丸が十分離れて替わるように、直ちに機関を中立にするとともに右舵を取りながら惰力で消波堤に寄せ、16時14分半北防波堤灯台から053度60メートルの地点で行き脚が止まり、消波堤を右舷正横約15メートル離してこれと平行し、船首を212度に向けた状態で同船の通過を待った。
そして、A受審人は、自船の左舷側を20メートル離して無難に航過する態勢で接近する吉寿丸を見守っていたところ、16時15分少し前左舷船首25度30メートルのところから、同船が急に左転して自船に向けてきたので衝突の危険を感じ、急いで汽笛を2回鳴らして注意を喚起したが効なく、16時15分前示停止地点において、かすみ丸は、212度に向首したまま、その左舷船首部に、吉寿丸の左舷船首が前方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。

また、吉寿丸は、いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日16時10分香住港港奥に位置する東浜泊地西側の係留岸壁を発し、同港北北西約15海里の漁場に向かった。
離岸するとき、B受審人は、操舵室の後ろで操船に就き、同室後壁に備えられた舵輪を使用し、機関を後進にかけて岸壁を離れたのち、前進に切り替えたころに周囲を見渡したところ他船を見かけず、間もなく操舵室に入り、同室に置かれた台の上に立って引き続き操船にあたり、16時13分北防波堤灯台から226度220メートルの地点で、針路を同灯台とその南方の防波堤先端との中間に向く052度に定め、機関を極微速力前進にかけ、4.7ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
ところで、吉寿丸は、船体後部寄りに操舵室を有し、幅80センチメートル(以下「センチ」という。)の同室前面はガラス窓になっており、操舵室の船首方には機関室囲壁があって、ガラス窓から船首方約30センチ前方で、船首尾線から約30センチ左舷寄りの同囲壁上には、直径約40センチの煙突が直立して設置され、同頂部がB受審人の眼高より約20センチ高いものであった。また、舷側沿いには、直径約35センチのリール2個を有するいか釣り機が7台適当な間隔で甲板上に据え付けられており、うち2台が操舵室より前方の左舷側に配置され、リール上部が眼高よりもやや高いこともあって、正船首わずか左から左舷船首60度までの範囲に死角を生じ、操舵室から左舷前方の見通しが悪い状況であった。そのため、B受審人は、平素、左右に体を動かすなどして死角を補う見張りを行っていた。
定針したとき、B受審人は、左舷船首5度340メートルに、かすみ丸を視認でき、その後同船が消波堤に寄せて停止し、このまま続航すれば同船を左舷側に20メートル離して無難に航過する態勢であったが、定針前に他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、左右に体を動かすなどして左舷前方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、かすみ丸の存在に気付かなかった。
こうして、B受審人は、16時15分少し前北防波堤灯台から084度45メートルの地点に達し、かすみ丸が左舷船首45度30メートルとなったとき、左舷正横の消波堤に注目しながらその先端近くに向けるつもりで針路を007度に転じ、同船が左舷前方の死角から外れてこれに向首するようになったことも、かすみ丸の汽笛にも気付かないまま、同船を避けずに進行中、吉寿丸は、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。

衝突の結果、かすみ丸は、左舷側手すりを曲損し、同側防舷材などに損傷を生じ、吉寿丸は、左舷船首部かんぬきに折損などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、吉寿丸が、兵庫県香住港港奥から出航中、見張り不十分で、停止中のかすみ丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、兵庫県香住港港奥から操業のため出航する場合、煙突やいか釣り機により死角を生じて左舷前方の見通しが悪い状況であったから、入航途中のかすみ丸が消波堤に寄せて停止したのを見落とさないよう、左右に体を動かすなどして左舷前方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針前に他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、左舷前方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷側に無難に航過する態勢にあったかすみ丸に気付かず、同船に向けてその至近で転針し、これを避けずに進行して衝突を招き、かすみ丸の左舷側手すりに曲損及び同側防舷材などに損傷並びに吉寿丸の左舷船首部かんぬきに折損などをそれぞれ生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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