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2000年(平成12年)

平成12年横審第8号
    件名
貨物船第五十八辰巳丸貨物船ポス ブリッジ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、勝又三郎、平井透
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:第五十八辰巳丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
辰巳丸・・・船首部外板を圧壊
ポ号・・・右舷船尾部外板を圧壊

    原因
ポ号・・・港則法の航法(航法)不遵守(主因)
辰巳丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、航路外から航路に入るポス ブリッジが、航路内を航行中の第五十八辰巳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第五十八辰巳丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月15日11時45分
名古屋港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五十八辰巳丸 貨物船ポス ブリッジ
総トン数 1,599トン 8,306トン
全長 91.44メートル 143.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,765キロワット 6,656キロワット
3 事実の経過
第五十八辰巳丸(以下「辰巳丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか10人が乗り組み、苛性ソーダ2,330立方メートルを積み、船首5.28メートル船尾6.51メートルの喫水をもって、平成11年4月13日14時50分鹿島港を発し、名古屋港に向かった。
翌々15日10時00分A受審人は、伊勢湾第5号灯浮標の北方0.9海里のところで昇橋し、名古屋港海上交通センターに入港予定時刻、予定バースの潮凪ふ頭28号岸壁に向かう旨などを通報し、同センターから「西航路から入港せよ。」との指図を受け、同時40分伊勢湾第6号灯浮標を左舷側に通過したとき、入港配置を令し、機関長を機関操作に、甲板手1人を手動操舵にそれぞれ就け、所定の進路信号を掲げて西航路に入り、11時30分名古屋港西航路第8号灯浮標(以下、名古屋港各航路各号灯浮標の名称については「名古屋港」を省略する。)の北側60メートルにあたる、名古屋港海上交通センター・金城船舶通航信号所(以下「金城信号所」という。)から242度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点において、針路を078度に定め、機関を半速力前進の6.0ノットにかけ、西航路の右舷灯浮標列をほぼ60メートル隔てて進行した。
11時37分A受審人は、金城信号所から233度1.35海里の地点に達したとき、左舷船首41度にあたる、中部電力西名古屋火力発電所の林立するタンク越しに、金城ふ頭に沿って出港してくるポス ブリッジ(以下「ポ号」という。)及び操船支援に当たっているタグボートを認め、ポ号が東航路を航行する出港船であることを知った。
11時41分A受審人は、西航路第12号灯浮標の手前70メートルにあたる、金城信号所から223度1,800メートルの地点に至り、左舷船首41度1,250メートルのところにポ号を認め、同船がそのまま進行して東航路に入れば、衝突のおそれがある状況となるが、自船は航路を航行中であるから、航路外から航路に入ろうとするポ号が当然自船の進路を避けるものと思い、北航路に向けて同針路、同速力で続航したところ、同時42分ポ号に避航の動作が見られず、そのまま入航してくるのを認めたものの、長音1回を注意喚起のため吹鳴したのみで、警告信号を行わずに同船を見守るうち、両船の距離はますます接近したが、行きあしを止めずに続航中、同時44分半左舷船首180メートルのところに接近したポ号が左転したのを知り、自船も左舵一杯、全速力後進を令したが、及ばず、11時45分東航路内の金城信号所から202度1,250メートルの地点において、辰巳丸は、船首が038度を向き、4.0ノットとなった速力で、その船首がポ号の右舷側船尾部に、前方から68度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
また、ポ号は、コンテナ専用船で、船長Bほか18人が乗り組み、コンテナ314個約3,500トンを積み、船首3.80メートル船尾6.37メートルの喫水をもって、同日11時30分名古屋港金城ふ頭79号バースを発し、大韓民国馬山港に向かった。
B船長は、タグボートの支援を得て、右舷係留から離岸して右回頭し、11時35分船首が173度を向いたところで機関を微速力前進、半速力前進、全速力前進と続いて操作し、5.0ノットの速力で進行し、同時39分金城信号所から292度500メートルの地点で、東航路第12号灯浮標を航進目標として針路を179度に定めた。

11時41分B船長は、金城信号所から231度600メートルの地点に至り、速力が8.2ノットになって東航路北境界線の手前200メートルに達したとき、右舷船首38度1,250メートルのところに、西航路を東航している辰巳丸を認め、このまま自船が入航すれば辰巳丸と衝突のおそれがある状況となるが、東航路に入る自船を避けてくれるものと思い、航路内を航行中の辰巳丸の進路を避けることなく、汽笛を吹鳴して注意を喚起するとともに港内微速力に調整するため機関を停止し、同時42分6.0ノットの速力で東航路に入ったところ、同船と衝突のおそれを感じ、VHFで呼び出したものの応答を得られないまま続航中、ますます接近するので、同時44分少し前機関を半速力前進として左舵一杯をとったが、及ばず、船首が150度を向き、6.0ノットのまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、辰巳丸は船首部外板を、ポ号は右舷船尾部外板をそれぞれ圧壊したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、名古屋港において、金城ふ頭から出港し、航路外から東航路に入るポ号が、西航路から東航路を横断して北航路に向けて航路内を航行中の辰巳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、辰巳丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、名古屋港において、名古屋港潮凪28号岸壁に向かうにあたり、西航路から東航路を横断して北航路に向けて航路内を航行中、金城ふ頭から出港し、東航路に向かうポ号が減速するなど自船を避航しないで同航路に入り、航路内で衝突のおそれが生じた場合、機関を後進にかけて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船が航路を航行中であるから、ポ号が自船の進路を避けるものと思い、行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行してポ号との衝突を招き、辰巳丸の船首部外板及びポ号の右舷船尾部外板をそれぞれ圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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