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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年12月17日17時35分 京浜港東京区 1 船舶の要目 船種船名
油送船第六富士宮丸 引船宝寿丸 総トン数 199.29トン 17.68トン 全長 36.48メートル 登録長
13.26メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 257キロワット
110キロワット 3 事実の経過 第六富士宮丸(以下「富士宮丸」という。)は、主に東京湾及び荒川流域を航行してガソリン、灯油及び軽油の輸送に従事し、船尾に操舵室を有する鋼製平甲板型タンカーで、A受審人ほか2人が乗り組み、荒川上流にある荷揚地向けの軽油370キロリットルを載せ、船首2.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成10年12月17日16時05分千葉港千葉第4区の極東石油工業株式会社の出荷桟橋を発し、夜間待機場所である多摩川河口付近にある国内輸送タンカー海運組合多摩川係船場に向かった。 A受審人は、航行中の動力船の掲げる灯火を点灯し、機関長を見張りに、甲板員を操舵にそれぞれ就けて船橋当直に当たり、羽田空港南端付近に向首して進行し、16時45分京葉シーバース灯から007度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点で、操舵を甲板員と交代して針路を277度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で続航し、17時16分東京灯標から149度2.4海里の地点に達したとき、左舷船首16度3海里ばかりのところに双眼鏡で多摩川口灯浮標の灯光を認め、針路をほぼ同灯光に向首する259度に転じて進行した。 17時33分少し前A受審人は、川崎南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から055度2.1海里の地点で、左舷船首31度1,000メートルに前路を右方に横切る態勢で接近してくる宝寿丸の白、緑2灯を初認したが、一見して同船の船首方を無難に航過できると思い、動静監視を十分に行うことなく、その後同船の方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、エアホーンによる警告信号を吹鳴しないまま、衝突を避けるための協力動作もとらないで続航中、同時34分半左舷船首方至近に迫った宝寿丸を認め、機関を減速として右舵一杯としたが及ばず、17時35分南防波堤灯台から051度1.8海里の地点において、富士宮丸は、309度を向いたその船首が約7ノットの速力で、宝寿丸の右舷側中央部に後方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 また、宝寿丸は、鋼製引船兼交通船で、B受審人が1人で乗り組み、台船曳(えい)航の作業を終え、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日16時45分京浜港川崎区池上運河日本鋼管製鉄所の岸壁を発し、同港東京区立会川河口付近にある係船地に向かった。 B受審人は、発航時に航行中の動力船の掲げる灯火を点灯して操船に当たり、池上運河及び京浜運河に沿って進行したのち、川崎航路を経て、17時28分南防波堤灯台から082度1.1海里の地点で、針路を羽田空港東端の250メートルばかり沖に向かう019度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.9ノットの対地速力で、操舵室内に立って手動操舵により続航した。 B受審人は、折からの北西風による左舷側からのしぶきが操舵室前面の窓にかかるため、同窓の中央にある回転窓を作動させて操舵操船に当たり、17時33分少し前南防波堤灯台から058度1.5海里の地点で、右舷船首29度1,000メートルに富士宮丸の白、紅2灯を視認することができる状況にあり、その後同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、しぶきにより前方が見にくくなっていたことから、回転窓を通して船首方を見ることにのみ集中し、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、大きく右転するなど同船の進路を避けないまま進行中、同時35分わずか前ふと右舷方を見たところ、右舷側至近に迫った富士宮丸の船首部を認め、右舵一杯としたが及ばず、宝寿丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、富士宮丸は、左舷船首外板に擦過傷を生じ、宝寿丸は、右舷側中央部外板に亀(き)裂を伴う凹損を生じたが、のち修理され、B受審人は、操舵室床に置いてあった石油ストーブが倒れ、その上に置いてあったやかんの湯により、約3週間の通院を要する左足熱傷を負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、京浜港東京区多摩川河口沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北上中の宝寿丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る富士宮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西航中の富士宮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、単独で操舵と見張りに当たり、京浜港川崎区から北上して同港東京区の多摩川河口沖合を航行する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、折からの北西風による左舷側からのしぶきが操舵室前面の窓にかかるため、同窓の中央にある回転窓を通して船首方を見ることにのみ集中し、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷方から接近する富士宮丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、同船の左舷船首外板に擦過傷を、宝寿丸の右舷側中央部外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせ、同人が左足熱傷を負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人が、夜間、京浜港東京区多摩川河口沖合において、同川河口付近の係船地に向けて西航中、前路を右方に横切る態勢の宝寿丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、一見して宝寿丸の船首方を無難に航過できると思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する宝寿丸に気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人に熱傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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