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2000年(平成12年)

平成11年横審第117号
    件名
貨物船ひさご丸漁船広丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年6月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、西村敏和、向山裕則
    理事官
葉山忠雄

    受審人
A 職名:ひさご丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:広丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ひさご丸・・・左舷前部外板に凹損
広丸・・・・船首部の圧壊並びに左舷側中央部外板及び甲板の圧損等

    原因
ひさご丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険、衝突回避措置)不遵守(主因)
広丸・・・・居眠り運航防止措置不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、ひさご丸が、見張り不十分で、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、広丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月15日03時50分
千葉県太東埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ひさご丸 漁船広丸
総トン数 297トン 6.50トン
全長 52.37メートル
登録長 11.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 308キロワット
3 事実の経過
ひさご丸は、主として東日本沿岸諸港間における苛性ソーダの運搬に従事する船尾船橋型ケミカルタンカーで、船長C、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成10年11月14日11時00分宮城県石巻港を発し、京浜港に向かった。
C船長は、船橋当直を6時間交替の単独2直制とし、17時から当直に就き、日没となって航行中の動力船の灯火を表示し、23時ごろ鹿島港の北東約15海里の海域に至って、A受審人と船橋当直を交替する際、航海上の諸事項を引き継いだ上、狭視界となったり、千葉県銚子漁港沖合で多数の漁船に遭遇することとなったときには報告するよう指示して降橋した。

翌15日01時30分A受審人は、犬吠埼灯台から118度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点において、千葉県勝浦漁港沖合に向けて針路を218度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.9ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
03時47分A受審人は、太東埼灯台から072度10.0海里の地点に達したとき、前路に漁船6隻がほぼひとかたまりとなって存在し、それらの西端にあたる右舷船首10度1海里ばかりのところに、紅灯を見せて航行している漁船(以下「第三船」という。)を認め、そのわずか左方の右舷船首8度1.2海里のところに広丸の白、緑2灯を視認でき、右舷を対して無難に航過する態勢であったが、第三船に気を奪われ、レーダーや双眼鏡を活用するなどして見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
03時47分半A受審人は、太東埼灯台から072.5度9.9海里の地点において、第三船を避航するため、手動操舵に切り替え、右舵5度としてゆっくり右転を始め、同時48分半針路を248度に転じ、同船と互いに左舷を対して航過する態勢となったとき、左舷船首18度0.6海里のところに接近した広丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせる状況となったが、第三船を替わすことに専念し、広丸が第三船のほぼ背後に位置していたこともあって、依然として広丸の存在に気付かず、大幅に右転するなどして衝突を避けるための措置をとることなく続航した。

A受審人は、第三船を注視して原針路に戻す時機を見計らっていたところ、03時49分半同船が左舷正横約60メートルを航過したので、左舵5度としてゆっくり左転を始め、約10度回頭したとき、左舷前方至近に迫った広丸の船体を初めて認め、衝突の危険を感じて右舵一杯としたが及ばす、03時50分太東埼灯台から073度9.5海里の地点において、ひさご丸は259度に向首したとき、原速力のまま、その左舷前部に広丸の左舷船首部が前方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、視界は良好であった。
C船長は、自室にて就寝していたところ、衝撃で目覚め、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
また、広丸は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、かじきまぐろはえ縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同月15日02時00分千葉県小湊漁港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して犬吠埼東方の漁場に向かった。

ところで、B受審人は、外房かじきまぐろはえ縄船団に属し、前々日の13日には休漁したが、前日14日02時ごろから出漁して操業ののち、23時30分ごろ帰港し、約1時間の仮眠をとっただけで僚船8隻と共に再び出漁したことから、出航時から睡眠不足と疲労を感じていた。
B受審人は、勝浦漁港沖合に至るまで、漁業無線によって僚船と操業時の位置取りなどの打合せを行い、その後も引き続き僚船と交信を続け、船橋内左舷側の高床に座ってGPSプロッター及びレーダーを見ながら陸岸を2から3海里離して進行し、02時47分太東埼灯台から180度8.7海里の地点において、針路を039度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
その後、B受審人は、僚船との交信を終え、03時46分太東埼灯台から076度8.9海里に達したとき、レーダーで右舷船首5.5度1.6海里のところに、ひさご丸の映像を初めて認め、南下する貨物船であるがもう少し接近してから様子を見るつもりで続航していたところ、睡眠不足と疲労気味であったので、眠気を催すようになったが、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、立ち上がって操船に当たったり、外気に触れるなどして眠気を払拭し、居眠り運航の防止措置をとらなかったので、まもなく居眠りに陥った。

03時47分B受審人は、ひさご丸が右舷船首7度1.2海里のところになり、互いに右舷を対して無難に航過する態勢であったが、前方近くを航行中の第三船やひさご丸の接近に気付かないまま居眠りを続け、同時48分半ひさご丸が第三船を避けるため右転したことにより、新たな衝突のおそれがある状況が生じるようになったが、このことに気付かず、警告信号を行わず、右転するなどして衝突を避けるための措置をとることなく続航中、同時50分わずか前はっと目覚めて至近に迫ったひさご丸を視認し、衝突の危険を感じて右舵一杯としたが及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ひさご丸は、左舷前部外板に凹損を生じ、広丸は、船首部の圧壊並びに左舷側中央部外板及び甲板の圧損等を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、千葉県太東埼東方沖合において、南下中のひさご丸が、見張り不十分で、前路に認めた第三船を避航する際、無難に航過する態勢にあった広丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、北上中の広丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、千葉県太東埼東方沖合を南下中、前路で紅灯を見せて航行している第三船を避航しようとする場合、同船付近を北上する広丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、紅灯を見せて航行している第三船付近には他船はいないと思い、第三船を避航することばかりに気を奪われ、レーダーや双眼鏡を活用するなどして見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船を避航したものの、無難に航過する態勢の広丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、ひさご丸の左舷前部外板に凹損を生じ、広丸の船首部の圧壊並びに左舷側中央部外板及び甲板の圧損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、夜間、連日の操業により睡眠不足と疲労の蓄積した状態で、千葉県太東埼東方沖合を北上中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、外気に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、レーダーにひさご丸の映像を認めておりながら、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、もう少し接近してから様子を見るつもりにしていたところ、まもなく居眠りに陥り、その後同船が右転したことによって新たな衝突のおそれがある状況が生じるようになったが、このことに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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