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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年6月4日21時30分 北海道網走港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十六万泰丸 総トン数 29トン 全長 25.90メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
367キロワット 3 事実の経過 第五十六万泰丸(以下「万泰丸」という。)は、延縄漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、延縄1連を載せ、平成11年6月2日17時30分北海道網走港網走川河口右岸の物揚げ場岸壁を発し、同日23時ごろ能取岬の北方約50海里ばかりの漁場に至り、前日に標識浮標により東西方向に数回折り返して設置しておいた全長27海里ばかりの延縄の揚縄作業を開始した。 A受審人は、船橋当直に引き続いて操業指揮に当たり、揚縄及び投縄作業を交互に繰り返し、きちじ約300キログラムを獲たのち同月4日16時25分延縄1連の投縄作業を終え、船首0.70メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、同時30分漁場を発進し、帰途についた。 ところでA受審人は、2昼夜にわたる操業中、1日に4時間ばかりの休息をとっただけで操業指揮をとり、漁場往復航海も無線電話で同業船の漁況を聴きながら単独船橋当直に就いており、12時間ばかりの網走港停泊中には病弱な妻の介護などで十分休息がとれないまま出漁していたうえ、このころきちじの盛漁期で、連続して出漁していたこともあって、疲労が蓄積し、睡眠不足の状態になっていた。 発進後A受審人は、単独船橋当直に就いて能取岬に向け南下し、20時25分能取岬灯台から040度(真方位、以下同じ。)8.4海里の地点に達したとき、針路を網走港北防波堤東端の東方約100メートルのところから約100メートル東方にかけて築造された沖防波堤にほぼ向首する195度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、定針後間もなく操舵室前面右舷側のいすに腰を掛けて前方の見張りに当たっていたところ、前路に他船の灯火を認めなかった安心感もあって蓄積した疲労と睡眠不足から眠気を催してきた。しかしながら同人は、入港配置まであと1時間ばかりであるから、それまでは居眠りすることはあるまいと思い、操舵室後部の船員室で休息している船長を起こして当直を交替するなどの居眠り運航防止措置をとらないままいすに腰を掛けて前路を見張っているうち、いつしか深い眠りに陥った。 その後万泰丸は、網走港北防波堤東端の東方の沖防波堤に向首進行したが、居眠り運航により転針が行われず、21時30分網走港北防波堤灯台から088度190メートルの地点において、その左舷船首が原針路、全速力のまま網走港北防波堤東方の沖防波堤の東端付近に後方から75度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。 衝突の結果、万泰丸は、船首部ブルワーク及び外板を圧壊し、船首材及び前部マストを曲損し、沖防波堤のコンクリートを欠損した。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、北海道能取岬北方漁場から網走港網走川河口岸壁向けオホーツク海を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、網走港北防波堤東方の沖防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、北海道能取岬北方漁場から網走港網走川河口岸壁向けオホーツク海を南下中、2昼夜連続した延縄漁業の操業指揮と漁場往復航海の単独当直で蓄積した疲労と睡眠不足により眠気を催した場合、速やかに休息中の船長を起こして当直を交替するなどの居眠り運航防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、入港配置まであと1時間ばかりであるから、それまでは居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、網走港北防波堤東方の沖防波堤に向首したまま進行して衝突を招き、万泰丸の船首部ブルワーク及び外板を圧壊させ、船首材及び前部マストを曲損させ、沖防波堤のコンクリートを欠損させるに至った。 |