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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月9日11時10分 九州北岸倉良瀬戸 2 船舶の要目 船種船名
貨物船甲子丸 漁船第2大島丸 総トン数 174トン 4.84トン 全長 49.96メートル 登録長
10.97メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 514キロワット 漁船法馬力数
70 3 事実の経過 甲子丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鋼材573トンを載せ、船首2.7メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年7月9日00時00分大分県大分港を発し、熊本県長洲港に向かった。 A受審人は、10時45分ごろ倉良瀬灯台の東方1,200メートルのところで昇橋し、前直者の機関長と交替して単独の船橋当直に就き、倉良瀬戸を南下して、11時04分半わずか過ぎ筑前大島港避難港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から095度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を224度に定め、機関を回転数毎分300とし、折からの潮流を受けて2度ばかり右方に圧流されながら、7.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 A受審人は、舵輪後方のいすに腰掛けて見張りに当たり、11時05分少し前左舷船首51度1.0海里のところに、前路を右方に横切る態勢の第2大島丸(以下「大島丸」という。)を視認でき、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、平素漁船が多数操業している海域に漁船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、接近する大島丸に気付かないまま続航した。 11時08分A受審人は、大島丸が同方位700メートルに接近したものの、昼食の仕度ができたことを知らせに昇橋した機関長と雑談していて、依然として見張り不十分でこのことに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき行きあしを停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行中、同時10分わずか前左舷船首至近に迫った大島丸を初めて視認し、機関を中立にしたが効なく、11時10分北防波堤灯台から126度1,730メートルの地点において、甲子丸は、原針路、原速力のまま、その船首が大島丸の右舷側後部に後方から85度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近海域には約1.0ノットの北北東流があった。 また、大島丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、船長Cと同人の妻のB指定海難関係人の2人が乗り組み、船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日09時25分福岡県大島漁港を発し、同時50分同県神湊漁港に入港して所用を済ませたのち、10時51分同港を発航して帰途に就いた。 C船長は、1人で操舵操船に当たり、10時59分少し前北防波堤灯台から132度2.6海里の地点に達したとき、折からの潮流を勘案して針路を309度に定め、機関回転数を全速力前進より少し落とし、6度ばかり右方に圧流されながら大島漁港外防波堤入口に向け、9.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 C船長は、11時05分少し前北防波堤灯台から130.5度1.7海里の地点に達したとき、右舷船首44度1.0海里のところに、前路を左方に横切る態勢の甲子丸を視認でき、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、右転するなどして甲子丸の進路を避けないまま続航中、大島丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 一方、B指定海難関係人は、出航後、左舷側前部甲板上に積んでいた食料品等に波のしぶきがかからないよう、右舷側に移してビニールカバーをかけ、同甲板上のビールケースに腰を掛けてたばこを一服したのち、左舷方を見ていたところ、突然、船体に強い衝撃を受けて海中に投げ出され、甲子丸と衝突したことを知った。 衝突の結果、甲子丸は、球状船首部に擦過傷を生じ、大島丸は、右舷側後部に破口及び操舵室の圧壊を生じて転覆し、甲子丸により大島漁港へ曳航され、のち廃船処理された。また、B指定海難関係人は、四肢及び前頭部等に打撲傷を負い、C船長(昭和8年9月3日生、二級小型船舶操縦士免状(5トン限定)受有)は、転覆した船体につかまって漂流中、救助されて病院に収容されたが溺水により死亡した。
(原因) 本件衝突は、倉良瀬戸において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、大島丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る甲子丸の進路を避けなかったことによって発生したが、甲子丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為) A受審人は、倉良瀬戸を単独で船橋当直に当たって航行する場合、左舷方から接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素漁船が多数操業している海域に漁船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する大島丸に気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、甲子丸の球状船首部に擦過傷を生じさせ、大島丸の右舷側後部外板に破口などを生じさせて転覆させ、B指定海難関係人に四肢等の打撲傷を負わせ、C船長を溺死させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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