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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月6日06時07分 鳥取県鳥取港外 2 船舶の要目 船種船名
引船第23高神丸 台船144号 総トン数 19.84トン 載荷重量280トン 登録長 11.99メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 441キロワット 船種船名 漁船大福丸 総トン数 4.84トン 登録長
11.23メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
50 3 事実の経過 第23高神丸(以下「高神丸」という。)は、船体のほぼ中央部に操舵室を有する鋼製の引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首1.20メートル船尾2.15メートルの喫水をもって、その船尾方に全長22.00メートル、幅10.00メートル、深さ2.10メートルで船首尾とも0.33メートルの喫水となった、空倉で無人の台船144号(以下「台船」という。)を曳航し、平成9年12月6日05時50分鳥取県鳥取港を発し、同港の東北東方約7.5海里にある同県田後港に向かった。 高神丸の主な運航目的は、田後港港内で浚渫した土砂を台船に載せ、同港港外の投棄海域に投棄する作業に従事するものであり、本航海は台船の係留地である鳥取港から同台船の回航にあたっていたもので、その曳航模様は、操舵室後方に設備された曳航フックに長さ9メートル直径50ミリメートルのクレモナロープのアイを連結し、その他端を台船船首部ビットに係止したそれぞれの長さが、13メートル直径50ミリメートルの2本のクレモナロープにつないで逆Y字状の曳航索とし、高神丸の船尾から台船の後端までの距離が40メートルの引船列を形成していた。 高神丸は、発航後引船の表示する成規の灯火を表示していたものの、台船には、舷灯及び船尾灯の設備がなかったことから、操舵室の上部中央に100ボルト1キロワットの探照灯1個を台船の甲板上に向け照射し、操舵室の後端両舷に100ボルト500ワット及び24ボルト300ワットの探照灯をそれぞれ台船の船首部と曳航索に向けて照射し、これによる台船の存在は周囲から十分識別し得る状態となっていた。 こうして高神丸引船列は、薄明の下、06時00分鳥取港第1防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から152度(真方位、以下同じ。)270メートルの、第1及び第2防波堤の間を航過したとき、針路を070度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけて5.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。 このときA受審人は、2海里レンジに設定したレーダー画面上の外縁付近で船首輝線の左方3度ばかりのところに大福丸の映像を探知し、これとほぼ同時に同船の表示するマスト灯1個を初めて視認した。 06時04分A受審人は、東灯台から090度800メートルの地点に達したとき、左舷船首5度1,700メートルのところに大福丸の表示する成規の灯火と船体を視認するようになり、その後同船の動静を監視していたところ同船と左舷側を対して約60メートルの航過距離を保って無難に航過する態勢となって接近するのを認めた。 06時06分半A受審人は、東灯台から083度1,180メートルの地点に達し、大福丸を左舷船首18度290メートルに見る状況となったとき、突然、同船が左転したのを認めて驚き、台船との衝突のおそれを感じて右舵一杯としたが及ばず、06時07分船首が120度を向首したとき、東灯台から082度1,300メートルの地点で、ほぼ原針路のままの台船の左舷船首部に大福丸の船首が、前方から24度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、薄明開始時刻は05時27分で常用日出時刻は06時57分であった。 また、大福丸は、船尾部に操舵室を有するFRP製の漁船で、B受審人が1人で乗り組み、鳥取港の東北東方約3海里の漁場で小型底びき網漁を行い、ひらめ等約40キログラムを漁獲し、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日05時59分東灯台から070度2.3海里ばかりの地点を発し、鳥取港に向け帰途についた。 発航時B受審人は、マスト灯、両色灯及び船尾灯を点灯し、その後操舵輪の後方に設けたさし板の上に腰かけた姿勢となって操舵にあたり、06時04分東灯台から073度1.3海里の地点に達したとき、針路を第1及び第2防波堤のほぼ中央に向首する246度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの速力で進行した。 このときB受審人は、船首わずか左1,700メートルのところに高神丸の表示する白灯2個及び紅灯を初めて視認し、これが引船列の表示する灯火であったがこのことを認識せず、その後、同船の動静を監視していたところ同船と左舷側を対して無難に航過する態勢となって接近するのを認めた。 06時06分B受審人は、高神丸の灯火を左舷船首6度580メートルに認めたとき、平素からこの海域では、前示防波堤入口の東側に位置する千代川の水流の影響で北側に圧流されることから、これを修正するため徐々に左転して進路を南側の陸岸沿いに向けて西行することとした。 06時06分半B受審人は、東灯台から078度1,240メートルの地点に達し、高神丸を左舷船首14度290メートルに認めたとき、同船の船尾方に向けて左転することとし、針路を226度に転じたが、このとき、高神丸の灯火にのみ気を奪われて、転針方向の見張りを十分に行うことなく転針して、高神丸の後方に曳航する台船に気付かず、その前路に向けて進行し、06時07分同針路、同速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、台船は左舷船首部に擦過傷を生じ、大福丸は船首部を圧壊して転覆し、のち廃船となった。
(原因) 本件衝突は、薄明時、鳥取港東方沖合において、東行する高神丸引船列と西行する大福丸が無難に替わる態勢で接近中、大福丸が、転針方向の見張り不十分で、高神丸の後方に向けて転針し、同船が曳航する台船の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、薄明時、鳥取港東方沖合において同防波堤入口に向け西進中、左舷船首方に東行する高神丸の灯火を認め、同船の船尾方を替わして左転する場合、同船の船尾方に曳航する台船を見落とすことのないよう、転針方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、高神丸の灯火にのみ気を奪われて、転針方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、台船の前路に進出して同船との衝突を招き、同船の左舷船首部に擦過傷を、大福丸の船首部を圧壊させ転覆させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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