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2000年(平成12年)

平成11年広審第93号
    件名
旅客船プリンセスのうみ漁船新栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年5月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

竹内伸二、釜谷奬一、中谷啓二
    理事官
上中拓治、小寺俊秋

    受審人
A 職名:プリンセスのうみ船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:新栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
のうみ号・・・損傷なし
新栄丸・・・・天幕展張用の支柱が曲損、天幕が破損、船長が頭部及び左肩に打撲傷

    原因
のうみ号・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
新栄丸・・・・見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、プリンセスのうみが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る新栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月21日17時06分
広島県佐伯郡中田港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船プリンセスのうみ 漁船新栄丸
総トン数 366トン 2.49トン
全長 45.30メートル
登録長 7.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット
漁船法馬力数 35
3 事実の経過
プリンセスのうみ(以下「のうみ号」という。)は、広島県佐伯郡中田港と同県広島港間の定期航路に就航する船首船橋型の旅客フェリーで、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客7人及び二輪車2台を載せ、船首2.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成10年7月21日17時00分中田港中町桟橋を発し、同港高田桟橋経由で広島港に向かった。
定刻に出航したA受審人は、その後部下を客室掃除などの業務に従事させ、自ら単独で操舵操船にあたり、17時01分安芸中田港小方北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から153度(真方位、以下同じ。)1,450メートルの地点で、針路を高田桟橋東方約200メートルに向く338度に定め、機関を半速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、能美町高田、中町地先のカキ養殖漁場(免許番号区第100号)内に設置されたカキ筏群の約200メートル西方を、これら筏群にほぼ沿って北上した。

A受審人は、港内に気になる他船を認めず、船橋のほぼ中央に立って手動で操舵しながら周囲の見張りにあたるうち、17時03分半右舷船首46度850メートルのところに、筏群の北側を西行する新栄丸を視認することができる状況の下、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、同時04分同方位680メートルに同船を初認したが、同船に対する動静監視を十分行わなかったので、衝突のおそれがあることに気付かず、もう少し接近してから、同船が直進して高田に向かう船か転針して中町もしくは津久茂瀬戸方面に向かう船かを確かめて必要な措置をとればよいと思い、減速するなどしてその進路を避けることなく続航した。
17時05分少し過ぎA受審人は、新栄丸が間近に迫ったのを見て、同船が高田の漁船で直進することを知り、増速して同船の前方を通過するつもりで機関を全速力前進にかけ、右舷側のサイドミラーを見て同船が船尾をかわったと思い、高田桟橋に向かうため機関を中立にしたとき、17時06分北防波堤灯台から090度150メートルの地点において、のうみ号は、原針路のまま11.0ノットの対地速力で進行中、新栄丸船首部が、着岸のため降下していたのうみ号の船尾側ランプウェイに、後方から78度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、新栄丸は、1本釣り漁業に従事する漁船で、音響信号設備がなく、甲板上約1.3メートルの高さに天幕が張られ、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日15時ごろ中田港高田の係留場所を発し、沖合のカキ筏に向かった。
B受審人は、15時半ごろから免許番号区第100号のカキ養殖漁場内に設置されたカキ筏群の西側から4列目付近で、ときどき場所を変えて魚釣りに従事したのち、17時00分北防波堤灯台東南東方1,000メートルばかりの地点を発進し、その後右舷側を向いて機関室後方に置いたいすに腰掛け、左手で操舵ハンドルを持って操舵にあたり、散在する筏群の中を北上して帰途に就いた。
17時03分半B受審人は、北防波堤灯台から082度760メートルの地点で、筏群の北端をかわったとき、針路を260度に定め、機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で、高田地区の南北両防波堤の間に向首して進行した。

このときB受審人は、左舷船首56度850メートルに北上中ののうみ号を視認することができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、前路の防波堤や造船所付近をいちべつしただけで北上する他船はいないと思い、高田桟橋北方のカキ筏で誰か釣りをしていないかと右方ばかり見て、左方の見張りを十分行わなかったので、接近する同船に気付かなかった。
B受審人は、のうみ号が避航する様子のないまま間近に接近したが、依然左方に対する見張りが不十分でこのことに気付かず、大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで原針路、原速力のまま続航中、17時06分わずか前至近に迫った同船を認めたがどうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、のうみ号は損傷がなく、新栄丸は天幕展張用の支柱が曲損するとともに天幕が破れ、またB受審人が、倒れた同支柱によって頭部及び左肩に打撲傷を負った。


(原因)
本件衝突は、中田港において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北上するのうみ号が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る新栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行する新栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、中田港において、中町桟橋を出航して高田桟橋に向け北上中、カキ筏群北方に前路を左方に横切る態勢で西行する新栄丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を確かめるよう、その動静監視を十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し接近してから新栄丸が直進して高田に向かう船か転針して中町もしくは津久茂瀬戸方面に向かう船かを確かめて必要な措置をとればよいと思い、同船に対する動静監視を十分行わなかった職務上の過失により、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、同船の天幕及び支柱に損傷を生じさせるとともに、B受審人の頭部などに打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、中田港において、カキ筏群北方から高田地区に向け航行する場合、中町桟橋から北上するのうみ号を見落とさないよう、左方の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路をいちべつしただけで、北上する他船はいないと思い、誰か釣りをしていないかと右方のカキ筏ばかり見て、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、間近に接近した同船に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行してのうみ号との衝突を招き、自船に前示の損傷を生じさせるとともに、自らの頭部などに打撲傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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