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2000年(平成12年)

平成11年広審第81号
    件名
貨物船栄和丸プレジャーボート平成丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年5月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、釜谷奬一、中谷啓二
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:栄和丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
栄和丸・・・船首部外板に擦過傷
平成丸・・・左舷後部を大破、転覆、廃船処分、船長が全治2週間の鼻翼切傷等

    原因
栄和丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、栄和丸が、見張り不十分で、前路に漂流中の平成丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月8日17時50分
瀬戸内海 伊予灘北部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船栄和丸 プレジャーボート平成丸
総トン数 199.97メートル
登録長 42.0メートル 6.68メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット 14キロワット
3 事実の経過
栄和丸は、瀬戸内海各港間において苛性ソーダの運搬に従事する船尾船橋型の危険物タンカーで、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年9月8日09時50分岡山県味野港を発し、山口県宇部港に向かった。
A受審人は、安芸灘からクダコ水道を通航したのち南西進して沖家室島長瀬灯標(以下「長瀬灯標」という。)を航過し、17時40分長瀬灯標から210度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点に達したとき、針路を平郡水道第3号灯浮標のわずか北側に向ける263度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて10.4ノットの対地速力で進行した。

17時46分A受審人は、ほぼ正船首1,200メートルのところに漂流中の平成丸を視認し得る状況になり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく、操舵室後部の海図台で船尾方向を向き、積込み量の検討を始め、同船に気付かず続航した。
17時49分A受審人は、平成丸とほぼ正船首300メートルに接近したものの、積込み量の検討に気を奪われ、依然、見張り不十分で、このことに気付かず、漂流中の同船を避けないで進行中、栄和丸は、17時50分長瀬灯標から255度1.9海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が平成丸の左舷後部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、視界は良好で、衝突地点付近には0.5ノットの北西流があった。

A受審人は、衝撃を感じなかったことから衝突に気付かず、そのまま続航し、山口県祝島沖を航行中、海上保安部からの連絡で衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
また、平成丸は、船尾部に操舵室を有する有効な音響による信号設備を備えないFRP製プレジャーボートで、船長Bが1人で乗り組み、義兄1人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同日11時30分山口県森野漁港を発し、沖家室島南方沖合のセンガイ瀬周辺の釣り場に向かった。
B船長は、12時15分釣り場に至り、機関を中立とした状態で魚釣りを行ったのち、15時30分長瀬灯標から215度1.3海里の地点において、遊漁を終え帰航の途に就くこととし、機関を前進に入れ、スロットルレバーを上げたとき、急に機関が停止し、その原因をつかめないまま漂流を開始した。

B船長は、折からの風潮流により、船首を南方に向け北西方に0.5ノットの速力で漂流中、近くを航行する他船に救助を求めていたところ、17時35分長瀬灯標から253度1.8海里の地点に達したとき、ほぼ左舷正横約2.3海里に栄和丸を初認し、同時40分同船が左舷船首083度1.7海里のところに近づき、その後自船に向首していることを認めたので同乗者とともに甲板上で白色の下着を振り合図しながら救助を求めた。
B船長は、17時46分前示衝突地点付近において、栄和丸が1,200メートルとなり、その後避航する様子もなく自船に向首したまま、衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったことから、危険を感じて、操舵室の天井に上り改めて同船に向かって避航を促すべく、同様の合図を続けた。
栄和丸は、なおも避航の気配なく接近し、平成丸が173度に向首して漂流中、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、栄和丸は船首部外板に擦過傷を生じ、平成丸は左舷後部を大破して間もなく転覆し、B船長ら2人は付近航行中の船に救助され、船体は岸壁に引きつけられたのち、廃船処分され、B船長は全治2週間の鼻翼切傷等を負った。

(原因)
本件衝突は、沖家室島南方沖合において、西行中の栄和丸が、見張り不十分で、前路に漂流している平成丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、沖家室島南方沖合を航行する場合、前路に漂流する平成丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、平成丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、栄和丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ、平成丸の左舷後部を大破して転覆させ、B船長に全治2週間の鼻翼切傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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