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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月10日17時26分 高知県須崎港 2 船舶の要目 船種船名
遊漁船勢泰丸 プレジャーボート彦丸 総トン数 4.85トン 全長 15.14メートル 登録長 4.07メートル 機関の種類
ディーゼル機関 電気点火機関 出力 382キロワット
7キロワット 3 事実の経過 勢泰丸は、船体中央部の少し後方に操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が単独で乗り組み、知人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成10年11月10日13時10分高知県須崎港港奥の係留地を発し、矢田部埼東方2海里付近の釣り場に向かった。 A受審人は、13時35分目的の釣り場に至り、投錨のうえ釣りを開始し、17時00分あじ70匹ばかりの釣果を得て錨を揚げ、操舵室右舷側の操縦席に腰を掛けて操船に当たり、帰途に就いた。 17時15分少し過ぎA受審人は、一子碆灯標から270度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を004度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で所定の灯火を表示して手動操舵により進行した。 17時25分A受審人は、山崎鼻灯台から229度450メートルの須崎港内を北上中、日没から16分経過していたものの、まだかなり明るく、左舷船首16度200メートルに港奥に向けて北東進する彦丸を視認できる状況で、同船の船尾方を50メートル隔てて無難に航過する態勢であったが、右舷正横やや前方の山崎鼻近くで強い集魚灯を点灯している漁船がいて、これに注目していたことから、見張りが不十分となり、彦丸に気付かずに続航した。 A受審人は、17時25分半山崎鼻灯台から272度320メートルの地点に達したとき、12.0ノットの半速力に減速し、港奥に向けて針路を056度に転じたところ、右舷船首33度50メートルに自船より低速の彦丸が存在し、その後その方位があまり変わらずに後方から接近する態勢となり、新たな衝突のおそれを生じさせたが、依然前示の漁船に気をとられていたので、これに気付かず、速やかに機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらなかった。 こうして、A受審人は、彦丸を視認しないで進行するうち、17時26分山崎鼻灯台から306度200メートルの地点において、勢泰丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が彦丸の右舷船尾に後方から10度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期に属し、視界が良く、日没は17時09分であった。 A受審人は、船体に衝撃を感じて直ちに機関を停止し、彦丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。 また、彦丸は、船外機付のFRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、同10日14時30分須崎港港奥の係留地を発し、途中、同港西岸の市街地側に寄せて氷及びえさを積み込み、角谷岬付近の釣り場に向かった。 B受審人は、15時00分目的の釣り場に至り、漂泊したまま、あじに次いで日没ごろからいか釣りを行い、17時15分少しばかりの釣果を得て釣りを切り上げ、同時23分山崎鼻灯台から227.5度930メートルの地点を発進して帰途に就くと同時に、針路を030度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。 発進時、B受審人は、日没を過ぎていたが、所定の灯火を表示することなく、船尾に腰を掛けて船外機のハンドルを操作しながら操船に当たり、17時25分山崎鼻灯台から255度400メートルの地点で、港奥に向け針路を046度に転じたところ、右舷船尾58度200メートルに勢泰丸が存在し、その前路を無難に航過する態勢で続航した。 17時25分半少し前、B受審人は、後方を振り返ったとき、正船尾50メートルに高速で北上する勢泰丸を初めて視認したが、そのうちに同船が港奥に向けて北東方に転針しても、自船の左舷側を航過していくものと思い、その動静監視を行うことなく、船首少し右に見えるウカ碆に注目しながら進行した。 こうして、B受審人は、17時25分半勢泰丸が左舷船尾43度50メートルのところで056度に転針したため、その後その方位があまり変わらず、左舷後方から接近する態勢となり、新たな衝突のおそれが生じたが、このことに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航するうち、彦丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、勢泰丸は左舷船首に擦過傷を生じたのみであったが、彦丸は、右舷船尾に亀裂を生じたほか船外機が海没し、B受審人は、船外に投げ出され、7週間の入院加療を要する右腓骨骨折、左腰部打撲及び左仙腸関節捻挫を負った。
(原因) 本件衝突は、日没後間もない薄明時、須崎港において、勢泰丸が、見張り不十分で、前路を無難に航過した彦丸の船尾に向けて転針し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、彦丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、日没後間もない薄明時、須崎港を北上する場合、先航する彦丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側の山崎鼻付近にいる漁船に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を無難に航過した彦丸に気付かず、その船尾に向けて転針し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、自船の左舷船首に擦過傷を生じさせ、彦丸の右舷船尾に亀裂を生じさせたほか、船外機を海没させるとともに、同船船長に右腓骨骨折、左腰部打撲及び左仙腸関節捻挫を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、日没後間もない薄明時、須崎港を港奥に向けて進行中、船尾方に高速で北上する勢泰丸を認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちに勢泰丸が港奥に向けて北東方に転針しても、自船の左舷側を航過していくものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、勢泰丸が自船に向けて転針したことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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