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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月30日06時23分 石川県金沢港港外 2 船舶の要目 船種船名
油送船東新丸 総トン数 699トン 全長 76.52メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,323キロワット 船種船名 漁船第十八昭宝丸 総トン数 19.99トン 全長 16.90メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力
102キロワット 3 事実の経過 東新丸は、船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか6人が乗り組み、A重油2,000キロリットルを積載し、船首4.0メートル船尾5.1メートルの喫水をもって、平成9年5月26日17時35分京浜港を発し、関門海峡を経由して石川県金沢港に向かい、同月30日02時35分同港港外の、金沢港西防波堤灯台から270度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点で、07時30分揚荷開始までの間待機することとし、右舷錨を投じて錨鎖3節を延出して錨泊した。 そして、A受審人は、法定灯火を表示し、海上平穏で視界も良かったので当直を維持しないで、早朝からの荷役作業に備えて乗組員を休養させて自らも休息し、その後、日出時に灯火を消して錨泊している船舶が表示する形象物を前部マストに掲げ、引き続き錨泊していたところ、06時23分前示錨泊地点において、東新丸は、025度に向首していたとき、その左舷中央部に、第十八昭宝丸(以下「昭宝丸」という。)の船首が後方から45度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力1の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。 A受審人は、自室のベッドで仮眠していたとき衝撃を感じ、直ちに昇橋して昭宝丸と衝突したことを知り、事後の措置にあたった。 また、昭宝丸は、船体中央部に操舵室を有する鋼製小型遊漁兼用船で、B受審人ほか1人が乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同月29日13時00分この時期基地としていた金沢港を発し、17時ごろ福井港北西方約13海里の漁場に至って操業を始め、いか約1,250キログラムを獲たところで終夜の操業を終え、翌30日03時00分漁場を発進して帰途に就いた。 ところで、昭宝丸の船首部にはいか釣り機が設置され、ネットなどの漁具が置かれているので、操舵室から船首方の見通しが幾分妨げられるうえ、全速力で航走すると船首部が浮上し、正船首方向の左右各舷約15度の範囲に死角を生じる状況であった。そこで、平素B受審人は、操舵室右舷側に設置された椅子や付近に置かれた箱の上に立ち上がり、天井に設けられた見張り用の開口部から顔を出すなどして死角を補う見張りを行っていた。 漁場を発進したB受審人は、1人で船橋当直にあたり、機関を全速力にかけて基地に向けて東行し、06時08分金沢港西防波堤灯台から254度2.5海里の地点に達したとき、針路をレーダーにより金沢港の西防波堤先端付近に向く070度に定めて自動操舵とし、機関を引き続き全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で進行した。 定針したとき、B受審人は、レーダーで西防波堤先端辺りに数隻の船舶の映像を認めたが、帰航の途中で自船を次々と追い越して行った僚船のほかには前路に他船はいないものと思って気にとめず、操舵室の椅子に腰掛けて雑誌を読みながら続航した。 06時15分半B受審人は、金沢港西防波堤灯台から256.5度1.5海里の地点に達したとき、正船首1海里のところに所定の形象物を掲げて錨泊している東新丸が存在し、その後、衝突のおそれがある態勢で同船に接近しているのを認めることができる状況にあった。しかし、同人は、依然、前路に他船はいないものと思い、椅子に腰掛けたまま雑誌に熱中し、天井の開口部から顔を出すなどの船首方の死角を補う見張りを行わなかったので、そのことに気付かず、東新丸を避けないまま進行中、突然船首部に衝撃を感じ、昭宝丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、東新丸は、左舷中央部外板に凹損並びにハンドレール及び空気管に曲損を生じたが、のち修理され、昭宝丸は、右舷船首ブルワークを擦過しただけであった。
(原因) 本件衝突は、石川県金沢港の港外において、航行中の昭宝丸が、見張り不十分で、前路に所定の形象物を掲げて錨泊している東新丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、1人で船橋当直に就いて漁場から石川県金沢港に向けて帰航中、同港港界付近に近づいた場合、船首浮上によって操舵室からでは船首方に死角を生じる状況であったから、前路に所定の形象物を掲げて錨泊している東新丸を見落とすことがないよう、操舵室天井に設けられた見張り用の開口部から顔を出すなどの死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、操舵室の椅子に腰掛けたまま雑誌に熱中し、死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の東新丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、同船の左舷中央部外板に凹損などを生じさせ、自船の右舷船首ブルワークを擦過させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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