日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年横審第57号
    件名
貨物船第二大藏丸貨物船第十八典勝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、半間俊士
    理事官
小金沢重充

    受審人
A 職名:第二大藏丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第二大藏丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:第十八典勝丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
大藏丸・・・右舷側前部の外板と右舷側後部コーミングに凹損、ハッチ巻取りシャフトの移動と軸受が破損、ハッチ架台、右舷側前部ハンドレール及びブルワークに曲損
典勝丸・・・左舷側船首部と左舷側後部外板に凹損

    原因
大藏丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
典勝丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二大藏丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第十八典勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第十八典勝丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月29日15時15分
大王埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二大藏丸 貨物船第十八典勝丸
総トン数 499トン 499トン
全長 73.40メートル 63.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 882キロワット 1,103キロワット
3 事実の経過
第二大藏丸(以下「大藏丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、砕砂1,100トンを載せ、船首2.70メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成10年4月28日10時25分大分県津久見港を発し、京浜港東京区に向かった。
ところで、A受審人は船橋当直を自分が05時30分から11時30分と17時30分から23時30分まで、B受審人が11時30分から17時30分と23時30分から05時30分までの6時間ごとの単独2当直体制とし、平素から当直の交代に際しB受審人に対して狭水道、視界の悪いときは自分に知らせるように、用便など必要があれば必ず呼ぶようにと指示していた。

翌29日11時30分B受審人は、三木埼灯台から098度(真方位、以下同じ。)14.4海里の地点で、昇橋してA受審人から当直を引き継ぎ、14時00分大王埼灯台から143度6.2海里の地点に達したとき、御前埼沖合3海里に向くよう針路を072度に定め、10.4ノットの対地速力として自動操舵によって進行した。
15時05分B受審人は、大王埼灯台から096度14.5海里の地点に達したとき、右舷船首49度2.8海里のところに北上する第十八典勝丸(以下「典勝丸」という。)を初認し、その動静を十分に監視しないまま、同船は自船の船尾を替わるものと思い込み、このころ便意を催したので、A受審人に報告しないまま、上甲板上の便所に行くため船橋を離れた。
15時08分B受審人は、典勝丸を右舷船首46度2.0海里に視認することができ、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、用便のため船橋を無人として同船に対する動静監視を行うことができなかったのでそのことに気付かず、大幅に右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。

一方、A受審人は、昼食を終えてから右舷側上甲板の錆打ちを行い、それを終えたところに1回目の錆止塗料を塗り、身体も汚れたこともあってシャワーを浴びて休息をとったのち再び右舷上甲板上に出て2回目の錆止塗装を始め、15時11分半右舷船首46度1.0海里のところに典勝丸を初認し、その後その動静を見守っていたところ、自船に避航の気配を感じられなかったことから、衝突の危険を感じ、船橋に向かって大声で船が接近してくるぞと叫んだが、船橋からは何の応答もなかったため、同時14分階段を駆け上がって昇橋したところ、当直中のB受審人の姿が見えなかったので、直ちに手動操舵に切り替え、機関を中立とし、相手船の吹鳴する短一声を聞きながら、左舵一杯をとったが及ばず、また、B受審人は15時15分少し前用便を済ませて船橋に戻ったもののどうすることもできず、15時15分大王埼灯台から093度16.2海里の地点において、船首が040度を向いたとき、大藏丸の右舷船首部に、典勝丸の左舷船首部が後方から20度の角度で衝突し、左転を続けていた大藏丸の右舷船尾部が再び典勝丸の左舷船尾部に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、典勝丸は、専ら三重県鳥羽港から大王埼南東方55海里沖合の海域にし尿を運搬投棄する船尾船橋型の鋼製貨物船で、C受審人ほか4人が乗り組み、し尿1,100キロリットルを投棄する目的で、船首3.60メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同月29日05時50分鳥羽港を発し、当該海域に向かった。
ところで、本船では航海当直をC受審人と船長の2人で全航程の半分ずつに振り分け、往路2時間半、復路2時間半を交代で当たっていた。
11時11分C受審人は、当該海域に到着してし尿の投棄にかかり、同時55分ごろ投棄を終えたので海水バラスト250トンを積み込み、両作業が終了したところで船長が操船指揮に当たり、12時11分船首1.00メートル船尾3.20メートルの喫水に調整し、鳥羽港に向かう帰途に就き、13時30分GPSプロッターで船位を測定し、針路を319度に定め、13.1ノットの対地速力として自動操舵によって進行した。

14時30分C受審人は、大王埼灯台から111度23.8海里の地点に達したとき、昇橋して船長と当直を交代し、その後舵輪の左横にある椅子に腰掛けて見張りにあたっていたところ、15時05分大王埼灯台から100度17.2海里の地点に達したとき、左舷船首20度2.8海里のところに大藏丸を初認し、同船が東方に向かっているので横切りの関係になっていることを知り、このまま進行すれば接近して危険な状況になりそうだったので、針路を20度右転して339度とし、これで衝突のおそれは解消したものと思って続航した。
C受審人は、転針後も椅子に腰掛けたまま当直を続け、15時08分大藏丸を左舷船首38度2.0海里に見るようになり、その後方位の変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近していたが、このことに気付かず、警告信号を行わずに進行した。
15時11分半C受審人は、大藏丸が左舷船首38度1.0海里に接近したとき、自船の左舷前面の窓枠と左舷側面の窓枠との間の死角に入り見えなくなったが、20度右転したので大藏丸は自船の船尾を替わって行くものと思い、椅子から立ち上がるなどして大藏丸の動静を監視しなかったので衝突のおそれが生じていることに気付かず、依然警告信号を行わないまま、更に間近に接近しても協力動作もとることなく進行し、同時15分少し前そろそろ同船が自船の後方を替わったものと思い、椅子のところで腰を上げ前方に身を乗り出し、左舷前面の窓から左舷方を見渡したところ、至近に同船の船首部を見て驚き、直ちに短一声を鳴らしたのち、手動操舵に切り替え右舵一杯とするとともに機関の翼角を0度として右転中、船首が020度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大藏丸は右舷側前部の外板と右舷側後部コーミングに凹損、ハッチ巻取りシャフトの移動と軸受が破損、ハッチ架台、右舷側前部ハンドレール及びブルワークに曲損を生じ、典勝丸は左舷側船首部と左舷側後部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、大王埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、大藏丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る典勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、典勝丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
大藏丸の運航が適切でなかったのは、船橋当直者が船橋を離れる際、船長に報告しないで船橋を無人にしたことによるものである。


(受審人の所為)
B受審人は、大王埼東方沖合において、前路を左方に横切る態勢の典勝丸を初認したのち、用便を催した場合、上甲板上で塗装作業をしていた船長に報告して船橋当直を交代すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同船は自船の後方を替わって行くものと思い、船長に報告しないまま船橋を離れ、船橋を無人として動静監視のできる船長と同当直を交代しなかった職務上の過失により、典勝丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、大藏丸の右舷側前部と後部の外板等に凹損、ハッチ架台曲損、同巻取りシャフト移動、右舷側前部ハンドレール及びブルワークを曲損させ、典勝丸の左舷側船首部と後部の外板を凹損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

C受審人は、大王埼東方沖合において、鳥羽港に向けて北上中、左舷船首方向に東方に向けて航行する大藏丸を初認した場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを確かめるため、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、針路を20度右転したのであるから衝突のおそれは解消し、同船は自船の後方を替わるものと思い、大藏丸の動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION