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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月28日06時35分 千葉港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船冨士岩丸 貨物船王翔丸 総トン数 744トン 499トン 全長 84.00メートル 75.54メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 1,471キロワット
735キロワット 3 事実の経過 冨士岩丸は、バウスラスタを装備した、船尾船橋型砂利運搬船兼貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、砕石2,000トンを積載し、船首3.85メートル船尾4.85メートルの喫水をもって、平成10年9月26日17時30分大分県津久見港を発し、千葉港に向かった。 A受審人は、翌々28日千葉港に至り、03時50分同港の検疫錨地北側にあたる千葉灯標から332度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で投錨して着桟のための時間調整を行い、05時50分抜錨を始め、同時55分抜錨を終えたところで自ら操舵操船にあたり、機関を半速力前進にかけて8.2ノットの速力とし、千葉航路に入って同航路に沿い、同港中央ふ頭の北西岸にある三菱マテリアル桟橋に向けて進行した。 ところで、A受審人は、しばしば三菱マテリアル桟橋に着桟しており、着桟作業の手順は、同桟橋の沖合50メートルばかりのところに低速で接近して右舷錨を投錨し、錨鎖を2節まで延出しながら、同錨の把駐力、バウスラスタ、機関及び舵を使用して右回頭を行い、一船幅分の15メートルばかり桟橋から離したところで半速力後進をかけて船体を停止し、桟橋と平行の230度に向首して出船状態で着桟する要領で行っていた。 A受審人は、06時20分千葉港新港泊地に至り、同港中央ふ頭にあるポートタワーから284度600メートルの地点で、機関を後進にかけて前進速力を落とし、その後適宜機関を使用して2.0ノットの速力で、着桟桟橋に対し、ほぼ17度の進入角度となる067度の針路で進入した。 06時30分A受審人は、三菱マテリアル桟橋の約50メートル沖合に達し、船首が同桟橋の南西端に並ぶ、ポートタワーから003度380メートルの地点で右舷錨を投じ、いつもの作業手順で右回頭を行い、同時34分前進行きあしが残った状態で185度に向首したとき、船首が同桟橋から30メートルばかり離れていたので、前進行きあしをつけたまま接近することとしたが、慣れた場所での着桟作業であったので、一船幅離れたところで機関を半速力後進とすれば大丈夫と思い、着桟時の速力の把握を十分に行わなかったので、前進行きあしがつき過ぎていることに気付かず、機関を微速力前進にかけた後、同時34分少し過ぎ船首が同桟橋の南西端と並んだとき、船体を停止させるため機関を半速力後進にかけたものの、時機を失して前進行きあしの減殺が不十分なまま同桟橋へ接近した。 06時34分半A受審人は、船体の停止するのを待っていたところ、船首配置の者からの知らせで初めて前進行きあしがつき過ぎていることを知り、後進がかからなかったものと考え、慌てて機関操作レバーを停止と後進の位置に数回切り替えたのち、機関を半速力後進としたが及ばず、同桟橋の50メートル南西側に隣接する神崎物流センター岸壁に着岸中の王翔丸に向首する状況となり、06時35分神崎物流センター岸壁の北端付近にあたる、ポートタワーから004度300メートルの地点において、185度に向首した冨士岩丸の右舷船首が、1.0ノットの速力で、王翔丸の右舷船尾部に後方から45度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 また、王翔丸は、船尾船橋型貨物船で、船長Bほか5人が乗り組み、紙製品1,450トンを積載し、船首3.70メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、同年9月26日18時55分徳島県富岡港を発し、千葉港に向かった。 B船長は、翌々28日千葉港に至り、03時15分同港の錨地で投錨して着岸のための時間調整を行い、05時40分抜錨して神崎物流センター岸壁に向かい、06時25分同岸壁に230度を向首して着岸し、同時30分に開始した荷役作業に従事中、右舷船尾方から接近する冨士岩丸に気付かないまま突然衝撃を受け、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、冨士岩丸は、右舷船首部外板に凹損を生じ、王翔丸は、右舷船尾部のフェアリーダなど艤(ぎ)装品の損傷、及び衝突の衝撃で左舷船尾部が岸壁と接触して左舷船尾部外板に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、冨士岩丸が、千葉港中央ふ頭において着桟操船中、着桟時の速力の把握が不十分で、隣接する岸壁に着岸中の王翔丸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、千葉港中央ふ頭の桟橋に着桟操船中、右回頭をした後、前進行きあしを残したまま桟橋に接近する場合、着桟時の速力の把握を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、慣れた場所での着桟作業であったので、一船幅離れたところで機関を半速力後進とすれば大丈夫と思い、着桟時の速力の把握を十分に行わなかった職務上の過失により、機関を微速力前進にかけた後、船体を停止させるための機関を後進にかける時機を失し、前進行きあしがつき過ぎていることに気付かないまま進行して王翔丸との衝突を招き、冨士岩丸の右舷船首部外板に凹損を生じさせ、王翔丸の右舷船尾部のフェアリーダ等艤装品の損傷、及び衝突の衝撃で左舷船尾部が岸壁と接触して左舷船尾部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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