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(事実) 1
事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月8日08時06分 房総半島野島埼東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第二鵬生丸 貨物船カシオペア エース 総トン数 19.96トン 41,197トン 全長 180.00メートル 登録長
16.23メートル 173.73メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 433キロワット
10,863キロワット 3
事実の経過 第二鵬生丸は、第1種小型まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.90メートルの等喫水をもって、平成9年11月26日15時00分千葉県銚子漁港を発し、伊豆諸島八丈島東方約170海里の漁場に向かった。 A受審人は、翌27日06時00分ごろ八丈島灯台から073度(真方位、以下同じ。)164海里にあたる、北緯33度50分東経143度00分の地点に到着してまぐろはえ縄漁を始め、同地点から八丈島南東方約200海里の海域にかけて、1日1回の割合で操業し、12月7日03時30分ごろまぐろ約7トンを漁獲して操業を終え、同灯台から132度191海里にあたる、北緯30度55分東経142度37分の地点を発進し、水揚げのため銚子漁港に向かった。 A受審人は、長男のB定海難関係人が四級海技士(機関)の免許を有し、甲種甲板部航海当直部員として認定を受けていたので、機関長職を執らせるとともに、漁場との往復航海においては、船橋当直部員が行うことのできる職務全般を委ねて船橋当直に従事させ、漁場から銚子漁港へ向かう本航海の船橋当直を、自らは4時から5時までの1時間とし、B指定海難関係人を含めて乗組員5人は単独の2時間交替制として、漁場発進に引き続いて船橋当直に就き、レーダーを作動させ、機関を毎分1,500回転の全速力前進にかけ、8.0ノットの速力とし、GPSプロッタに銚子漁港の沖合にあたる犬吠埼灯台の東方2.5海里の地点を目的地として入力し、同地点に向かう針路線上を航行するよう設定して、同プロッタと連動させた自動操舵により進行した。 ところで、A受審人は、船橋内に当直中の注意事項を記載した張り紙を掲示したり、口頭で注意するなどして、日ごろから各船橋当直者に対し、見張りを十分に行うように指示しており、また、航海中は船橋右舷後部の寝台で休息をとる合間に、レーダーやGPSプロッタにより航海状況を確認し、必要に応じて船橋当直者に指示を出すなどしていた。 翌8日07時00分B指定海難関係人は、野島埼灯台から097度61.4海里にあたる、北緯34度46.0分東経141度07.4分の地点において、前直の甲板員と交替して船橋当直に就き、針路を350度に定め、機関を全速力前進にかけ、左舷船尾方から風潮流の影響を受けて9.0ノットとなった対地速力で続航し、船橋の窓越しに周囲を一見して通航船や操業漁船を認めなかったことから、もう少し陸岸に近付くまでは接近する他船はいないものと思い、船橋左舷側にある座椅子に腰をかけ、左舷側の扉に背をもたせ、右舷側を向いた姿勢で見張りに当たった。 このころA受審人は、寝台から起き上がってレーダーで周囲に操業漁船や通航船がいないことを確認し、視界も良かったことから、B指定海難関係人が座椅子に腰をかけ、右舷側を向いた姿勢で当直しているのを見掛けたものの、日ごろから同人に対し見張りを十分に行うように指示しているので、適宜船橋内を移動するなどして、周囲の見張りを十分に行うよう改めて指示するまでもないと思い、同指示を徹底することなく、漁場発進時から作動していたレーダーを停止し、再び寝台で休息をとった。 08時00分B指定海難関係人は、野島埼灯台から089度59.3海里にあたる、北緯34度54.9分東経141度05.5分の地点において、左舷船首63度1.9海里のところに、前路を右方に横切る態勢のカシオペア エース(以下「カ号」という。)を視認でき、その後方位に明確な変化がなく、衝突するおそれがある態勢で接近する状況であったが、座椅子に腰をかけて右舷側を向いた姿勢のまま船橋当直を続け、左舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かずに進行した。 08時03分B指定海難関係人は、野島埼灯台から088度59.2海里にあたる、北緯34度55.3分東経141度05.4分の地点に達し、カ号が同方位1,750メートルのところに接近したが、依然としてカ号に気付かず、警告信号を行わず、間近に接近して衝突を避けるための協力動作もとらずに続航した。 こうして、B指定海難関係人は、左舷方の見張りを十分に行わずに漫然と船橋当直を続け、08時06分少し前、船首至近にカ号の右舷船首部を認め、大声を出してA受審人を起こすとともに、機関を全速力後進にかけ、操舵装置の遠隔管制器のつまみを回して左舵一杯をとったが、同管制器の操舵切り換えスイッチが自動操舵となったままで左舵がとられず、08時06分野島埼灯台から088度59.2海里にあたる、北緯34度55.75分東経141度05.30分の地点において、第二鵬生丸は、原針路のまま、機関が後進にかかって速力が約4ノットとなったとき、その船首が、カ号の右舷中央部に前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力4の南南西風が吹き、視界は良好であった。 A受審人は、船橋右舷後部の寝台で休息していたところ、B指定海難関係人の大声を聞いて船橋に飛び出したが、直後に衝突し、事後の措置に当たった。 また、カ号は、専ら四日市港又は千葉港と北米西海岸との間の定期航路に就航する船首船橋型の自動車専用船で、船長C、一等航海士D、二等航海士E及び三等航海士Fほか中国人20人及びミャンマー人2人が乗り組み、自動車3,665台を搭載し、船首8.26メートル船尾8.41メートルの喫水をもって、同月7日16時20分四日市港を発し、カナダバンクーバー港に向かった。 C船長は、船橋当直をD一等航海士が4時から8時、E二等航海士が0時から4時及びF三等航海士が8時から12時までの4時間交替の3直制とし、各直に操舵手1人を就けて1直2人体制を採り、伊勢湾から遠州灘にかけて霧のため視界制限状態であったことから、発航時から在橋して遠州灘を東航し、御前埼沖合を通過した翌8日00時過ぎになって視界が回復したので、船橋当直をE二等航海士に委ねて降橋し、同航海士は、伊豆半島石廊埼及び伊豆大島の南方を東航して、03時54分野島埼灯台から213度15.7海里の地点において、D一等航海士と船橋当直を交替した。 D一等航海士は、前直から引き続いて機関を毎分89回転の航海全速力前進にかけ、16.0ノットの速力で房総半島南方を東航し、04時50分野島埼灯台から145度10.4海里の地点において、針路を087度に定め、折から風潮流の影響を受けて8度左方に圧流され、079度の実航針路及び16.8ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。 07時50分D一等航海士は、野島埼灯台から089度54.8海里にあたる、北緯34度54.9分東経141度00.0分の地点において、12海里レンジとしたレーダーにより、右舷船首20度10.0海里のところに右舷を対して通過する態勢の大型船を探知し、更に双眼鏡で右舷船首20度5.0海里のところの第二鵬生丸を初めて視認したものの、遠距離のため動静の確認までには至らず、同時55分次直のF三等航海士に対し、右舷船首方に反航中の大型船と動静不詳の第二鵬生丸の2隻が存在することを引き継いで船橋当直を交替した。 船橋当直に就いたF三等航海士は、船橋前面中央部付近に立ち、操舵手を見張りに就け、引継ぎのあった第二鵬生丸を双眼鏡で探したが、同船を視認できず、07時56分船橋左舷側の自動衝突予防援助機能のある12海里レンジとしたレーダーにより、反航中の大型船とは右舷を対して通過する態勢であることが確認でき、同時に右舷船首20度3.1海里のところに第二鵬生丸の映像が探知できたので、再び船橋前面中央部に戻って双眼鏡で確認したところ、08時00分野島埼灯台から088度57.5海里にあたる、北緯34度55.4分東経141度03.3分の地点において、反航中の大型船がコンテナ船であることと、右舷船首20度1.9海里のところに第二鵬生丸が船首を少し左右に振りながら前路を左方に横切る態勢で接近していることとが確認できた。 間もなくF三等航海士は、肉眼でも第二鵬生丸を視認できるようになり、同船が方位に明確な変化がないまま、衝突するおそれがある態勢で接近したが、同船の進路を避けるために右転すると、コンテナ船に接近することになり、減速するには時間的に余裕がないと判断し、08時03分野島埼灯台から088度58.3海里にあたる、北緯34度55.6分東経141度04.3分の地点において、第二鵬生丸が同方位1,750メートルのところに接近したとき、同船の船首方を替わそうとして、操舵手を手動操舵に就けて針路を徐々に左方に転じるとともに、同船に対して注意を喚起するため、VHF無線電話により船名不詳のまま呼び出したが、同船から応答がなく、このころコンテナ船とは右舷を対して約4海里隔てて無難に通過する態勢となって、右転して避航するのに十分な水域があったものの、依然として第二鵬生丸の進路を避けずに続航した。 こうして、F三等航海士は、針路を080度に転じて進行中、08時05分少し過ぎ、野島埼灯台から088度59.0海里にあたる、北緯34度55.7分東経141度05.0分の地点において、VHF無線電話による呼び出しを断念し、右舷船首27度450メートルに迫った第二鵬生丸に対して汽笛で短音5回を吹鳴し、更に接近するに及んで右舵一杯をとったが、効なく、カ号は、右回頭中の船首が100度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、第二鵬生丸は、船首部を凹損し、カ号は、右舷中央部に擦過傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原
因) 本件衝突は、房総半島野島埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り、衝突するおそれがある態勢で接近中、東航するカシオペア
エースが、前路を左方に横切る第二鵬生丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する第二鵬生丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 第二鵬生丸の運航が適切でなかったのは、船長が航海当直部員の認定を受けた船橋当直者に対して見張りを十分に行うよう指示を徹底していなかったことと、船橋当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、房総半島野島埼東方沖合において、操業を終えて水揚げのため銚子漁港に向け北上中、航海当直部員の認定を受けた船橋当直者が、船橋左舷側で座椅子に腰をかけ、右舷側を向いた姿勢で船橋当直に従事しているのを見掛けた場合、適宜船橋内を移動するなどして、周囲の見張りを十分に行うよう指示を徹底すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、日ごろから船橋当直者に対して見張りを十分に行うよう指示しているので、改めて指示するまでもないと思い、同指示を徹底しなかった職務上の過失により、船橋当直者が船橋左舷側で座椅子に腰をかけ、右舷側を向いた姿勢のまま船橋当直を続け、左舷方から衝突するおそれがある態勢で接近するカシオペア
エースに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に凹損を、カシオペア
エースの右舷中央部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、船橋当直に従事する際、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、海難審判法第4条第3項の規定による勧告をしないが、船長の指示に従い、見張りを十分に行って安全運航に努めなければならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
拡大図
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