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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年4月23日09時50分 青森県鰺ケ沢港 2 船舶の要目 船種船名
漁業試験船東奥丸 総トン数 140トン 全長 39.15メートル 機関の種類 デイ―ゼル機関 出力
882キロワット 3 事実の経過 東奥丸は、可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を装備した中央船橋型の鋼製漁業試験船で、A及びB両受審人ほか10人が乗り組み、いか類資源調査の目的で、船首1.60メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成11年4月15日09時45分青森県鰺ケ沢港北突堤の定係岸壁を発し、翌16日18時00分島根県隠岐諸島の北東方約80海里の地点に到着して調査を開始し、その後本州西岸沿いに北上しながら調査を続け、越えて22日21時00分弾埼灯台から329度(真方位、以下同じ。)19海里の調査地点を発進し、帰途に就いた。 東奥丸は、船橋の中央に配置された操舵スタンドとその右舷側の主機関等の遠隔操縦盤とが一体となった幅1.50メートル奥行0.57メートルの操作盤を備え、操作盤面上には操舵スタンドから右舷側約1メートルのところに翼角指示器とCPP翼角制御ダイヤル(以下「CPPダイヤル」という。)及び主機回転計と主機回転制御ダイヤルとがそれぞれ上下に配置されていた。 ところで、鯵ケ沢港は、北東方を海に面し、同港北側の陸岸から東方に長さ約500メートルの北防波堤が延び、同防波堤東端には鰺ケ沢港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)が設置され、同灯台から225度180メートルの地点には鰺ケ沢港第2東防波堤灯台(以下「第2東防波堤灯台」という。)があって同灯台から第2東防波堤が南東方へ陸岸まで延び、北防波堤灯台から243度310メートルの地点には鰺ケ沢港東防波堤灯台があって同灯台から南方へ陸岸まで東防波堤が延び、北防波堤灯台から251度360メートルの地点から269度方向に陸岸まで延びる長さ約120メートルの北突堤があって、同突堤の南側東端付近が東奥丸の定係岸壁となっていた。 また、A受審人は、平素入航する際、定係岸壁の南方港奥の水深が浅いので、東方から舵効の得られる速力で第2東防波堤灯台を左舷側近くに替わす態勢で進行し、北突堤東端から東方約130メートルのところで右舵一杯とし、船首と北防波堤との距離が約10メートルになるまで右回頭しながら接近し、その後舵とCPPとを併用して後退し、同岸壁に出船左舷付けしていた。 A受審人は、翌23日09時10分昇橋し、間もなく昇橋してきたB受審人を船長補佐に当たらせて操船の指揮を執り、同時30分乗組員を入港部署配置に就けB受審人を操舵とCPPの操作に当たらせて徐々に減速し、同時47分北防波堤灯台から090度50メートルの地点で、針路を第2東防波堤灯台に向首する235度に定め、主機の回転数を毎分800及びCPPの翼角(以下「翼角」という。)を5度として4.0ノットの対地速力で進行した。 09時48分A受審人は、北防波堤灯台から216度90メートルの地点に達したとき、針路を247度に転じ、同時48分半第2東防波堤灯台を左舷側約20メートルに通過したとき、翼角を0度として惰力で続航し、同時49分少し過ぎ北防波堤灯台から235度240メートルの地点に達したとき、左舷側ウイングに出て右舵一杯、翼角前進3度の号令を発した。 B受審人は、船長の号令を受けて右舵一杯とし、右手を伸ばしてCPPダイヤルを前進側に回したが、そのころ北突堤東方至近に漁船2隻を認めてその動静を監視することに気を奪われ、翼角を指示どおり適切に制御することなく、CPPダイヤルを前進側約7度に操作したことに気付かず、翼角指示器を見るなどして翼角を確認して船長に報告しないまま、操舵スタンドの右側に立って同漁船の見張りを続けた。 A受審人は、B受審人から整定した翼角の報告がなかったが、同人が翼角を確認しながら制御しているので大丈夫と思い、B受審人に対し翼角を確認して報告するよう指示することなく、翼角が前進側約7度に操作されたことに気付かないで回頭中、09時50分少し前、船首が北防波堤まで約10メートルの距離となったとき、過大な行きあしで同防波堤に接近していることに気付き、大声で翼角0度、続いて全速力後進を命じたが及ばず、09時50分北防波堤灯台から260度220メートルの地点において、東奥丸は、029度を向いた船首が北防波堤に約5ノットの速力で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 衝突の結果、東奥丸のバルバスバウに凹損、左舷側前部外板に擦過傷及び左舷側後部外板に凹損を生じ、北防波堤及び同防波堤のゴム製階段に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件防波堤衝突は、青森県鰺ケ沢港において、北突堤東端の定係岸壁へ着岸操船中、可変ピッチプロペラを前進側に操作した際、翼角の制御が不適切で、過大な行きあしのまま北防波堤に向けて進行したことによって発生したものである。 翼角の制御が適切でなかったのは、船長が航海士に対し、翼角を確認して報告するよう指示しなかったことと、航海士が翼角の制御を適切に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、青森県鰺ケ沢港において、北突堤東端の定係岸壁へ着岸操船中、航海士に可変ピッチプロペラの操作号令を発したのち翼角が整定した旨の報告がなかった場合、同プロペラが適切に操作されたかどうかを確認できるよう、航海士に翼角を確認して報告するよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、航海士が翼角を確認しながら制御しているので大丈夫と思い、翼角を確認して報告するよう指示しなかった職務上の過失により、可変ピッチプロペラが大きく前進側に操作されたことに気付かず、過大な前進行きあしのまま北防波堤に向け進行して同防波堤との衝突を招き、東奥丸のバルバスバウに凹損、左舷側前部外板に擦過傷及び左舷側後部外板に凹損並びに北防波堤及び同防波堤のゴム製階段に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、青森県鰺ケ沢港において、船長を補佐して北突堤東端の定係岸壁へ着岸操船中、船長の号令を受けて可変ピッチプロペラを操作する場合、翼角を指示どおり適切に制御すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、北突堤東方至近に漁船2隻を認めてその動静を監視することに気を奪われ、翼角を指示どおり適切に制御しなかった職務上の過失により、過大な前進行きあしのまま北防波堤に向け進行して同防波堤との衝突を招き、自船及び北防波堤に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |