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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年6月17日14時30分 山形県飛島北北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十一長栄丸 漁船第八龍仁丸 総トン数 17トン 3.7トン 全長 21.50メートル 11.70メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 478キロワット 漁船法馬力数 70 3
事実の経過 第五十一長栄丸(以下「長栄丸」という。)は、操舵室が中央にあるFRP製のいか釣り漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、帰港の目的で、船首0.90メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、平成10年6月17日11時40分山形県酒田港を発し、北海道寿都港に向かった。 ところで、A受審人は、同年2月中旬寿都港を出港し、山口県仙崎港沖合まで南下して操業を始め、スルメイカの北上回遊によって形成される漁場を追いながら日本海を北上中、6月14日朝石川県金沢港に入港して水揚げを終え、翌15日02時ごろ同港を出港し、翌16日朝新潟県岩船港沖合での夜間操業を終えて岩船港に入港し、同日午後同港を出港し、翌17日朝山形県酒田港沖合での操業を終えて酒田港に入港し、同日10時ごろ水揚げを終了した。同人は、この1週間ばかり漁模様が悪く、寿都港を出港してから数箇月が経っていることもあって同港に帰港することとし、連日出入港及び漁場移動時の船橋当直と操業中の作業とを繰り返していたので、疲労が蓄積した体調になっていたが、数箇月ぶりに自宅に戻ることで気持ちが高ぶり、水揚げ後に疲労を回復させるための連続した長時間の休息を取らないまま、同港を発航した。 11時55分A受審人は、酒田港南防波堤北端を左方に見て船首を山形県飛島に向け、その後酒田沖波浪観測塔を右方に2海里離して北上し、12時44分飛島灯台から146度(真方位、以下同じ。)10.2海里の地点に達したとき、針路をGPSプロッターに表示された秋田県入道埼沖合の200メートル等深線に向く357度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの北北西方向きの海潮流により左方に2度圧流されながら、11.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。 A受審人は、定針時に、衝突予防援助装置(以下「ARPA」という。)の他船接近警報を、他船が2海里に接近したときに鳴り始め、海面反射の誤作動を防ぐため1.5海里に接近したときに停止するように設定し、その後操舵室右舷後方にあるベッドに腰をかけ、右舷側壁に寄り掛かって前路の見張りに当たって続航した。 14時00分A受審人は、飛島灯台から035度7.6海里の地点に差し掛かったとき、海上が平穏で視界も良かったことや、蓄積した疲労もあって眠気を催したが、ARPAの他船接近警報を設定してあるから、同警報が鳴ったら対処すればよいと思い、他の乗組員を昇橋させて2人で見張りに当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、同じ姿勢で進行するうち、いつしか居眠りに陥った。 14時19分A受審人は、飛島灯台から023度10.6海里の地点に達したとき、正船首2.0海里に第八龍仁丸(以下「龍仁丸」という。)を視認することができる状況となってARPAの他船接近警報が鳴り出し、その後漂泊中の同船の方位に明確な変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りに陥っていてこのことに気づかず、龍仁丸を避けないまま進行中、14時30分飛島灯台から018度12.6海里の地点において、長栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、龍仁丸の右舷中央部に後方から85度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時にあたり、衝突地点付近には0.9ノットの北北西流があった。 また、龍仁丸は、はえなわ漁業に従事し、ゴム球をつまんで音響を発するラッパを装備した船尾船橋型のFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あかむつ漁の目的で、船首0.30メートル船尾0.95メートルの喫水をもって、同年6月16日23時00分秋田県天王漁港を発し、飛島北北東方約11海里のシラ瀬と称する底はえなわ漁場に向かった。 B受審人は、翌17日02時ごろシラ瀬に到着して投縄を始め、08時30分揚縄を終えたが、漁獲量が少なかったので、同日夕方及び翌日朝方に更に操業を行うつもりで同瀬で漂泊することとし、12時30分飛島灯台から024度11.4海里の地点で、船首を東方に向け、機関をアイドリング状態として漂泊を開始した。 漂泊開始後、B受審人は、シラ瀬付近及びその東方を貨物船やカーフェリーなどが通航するのを知っていたが、航行中の他船が漂泊中の自船を認めれば避けてくれるものと思い、ときどきレーダー監視に当たるなど、周囲の見張りを十分に行うことなく、身体を休めるためにラジオ放送を聴きながら操舵室の床に横になり、折からの海潮流により334度方向に約0.9ノットの速力で圧流されながら、漂泊を続けた。 14時19分B受審人は、飛島灯台から019度12.5海里の地点に達したとき、ほぼ右舷正横2.0海里のところに、自船に向首接近する長栄丸を認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気づかず、装備していたラッパを使用するなど有効な音響による注意喚起信号を行うことも、さらに間近に接近した際に機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置もとらないまま、漂泊を続けて船首が082度を向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、長栄丸は左舷船首部防舷材が脱落し、龍仁丸は右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、のちそれぞれ修理された。
(原因) 本件衝突は、山形県飛島北北東方沖合において、北海道寿都港に帰港のため北上中の長栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の龍仁丸を避けなかったことによって発生したが、漂泊中の龍仁丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、山形県飛島北北東方沖合において、単独の船橋当直に就いて北上中、眠気を催した場合、連日の出入港、操業及び漁場移動で疲労が蓄積している状態であったから、居眠り運航にならないよう、他の乗組員を昇橋させて2人で見張りに当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、ARPAの他船接近警報を設定してあるから、同警報が鳴ったら対処すればよいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、操舵室右舷後方にあるベッドに腰を掛け、右舷側壁に寄り掛かって見張りに当たっているうちに居眠りに陥り、前路で漂泊中の龍仁丸に気づかず、同船を避けないまま進行して龍仁丸との衝突を招き、長栄丸の左舷船首部防舷材の脱落及び龍仁丸の右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、山形県飛島北北東方沖合において、夕刻の操業開始まで漂泊する場合、接近する長栄丸を見落とさないよう、ときどきレーダー監視に当たるなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、航行中の他船が漂泊中の自船を認めれば避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する長栄丸に気づかず、ゴム球をつまんで音響を発するラッパを使用するなどして有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に間近に接近した際に機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊を続けて長栄丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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