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2000年(平成12年)

平成11年門審第84号
    件名
漁船第十一とし丸漁船第三恵漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年4月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、阿部能正
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第十一とし丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第三恵漁丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
C 職名:第三恵漁丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
とし丸・・・右舷船首部のかんぬきを折損
恵漁丸・・・右舷側中央部外板に破口及びコンプレッサーの補機等に損傷、甲板員が、1週間の加療を要する頚椎及び腰椎捻挫、潜水者が、17日間の入院加療を要する急性減圧症

    原因
とし丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
恵漁丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第十一とし丸が、見張り不十分で、操縦性能制限船である第三恵漁丸を避けなかったことによって発生したが、第三恵漁丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月28日08時05分
対馬上島見世埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一とし丸 漁船第三恵漁丸
総トン数 4.68トン 1.7トン
全長 8.56メートル
登録長 10.68メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80 25
3 事実の経過
第十一とし丸(以下「とし丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、主機関を整備する目的で、船首0.22メートル船尾2.74メートルの喫水をもって、平成10年8月28日08時00分長崎県塩浜漁港を発し、同県佐賀漁港に向かった。
A受審人は、防波堤を通過したのち、機関を回転数毎分2,200にかけて20.0ノットの対地速力とし、08時03分半わずか過ぎ対馬長崎鼻灯台(以下「長崎鼻灯台」という。)から190度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点に達したとき、針路を077度に定め、引き続き同速力で手動操舵により進行した。

08時04分A受審人は、ほぼ正船首620メートルのところに第三恵漁丸(以下「恵漁丸」という。)を視認でき、同船が国際信号書に定めるA旗(以下「A旗」という。)を表す信号板を掲げていたことから、同船が操縦性能制限船で、潜水夫による作業に従事していることを認め得る状況にあった。しかし、同受審人は、そのころ転針予定地点に差し掛かっていたことから、右舷方の大鼠島などの転針目標を見ることに気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかったので、恵漁丸の存在にも、その後、ほとんど停留している同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かないまま続航した。
A受審人は、恵漁丸を避けずに進行中、08時05分長崎鼻灯台から176度1.7海里の地点において、とし丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が恵漁丸の右舷中央部に前方から71度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、恵漁丸は、潜水器漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人、C受審人及び同受審人の弟の3人が乗り組み、さざえなどの貝類を採捕する目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日07時45分塩浜漁港を発し、見世埼東方沖合700メートルばかりの漁場に向かった。
ところで、恵漁丸は、長崎県漁業調整規則により、同県知事から潜水器漁業の許可を受け、操業期間及び操業区域を指定され、マスク式と称する潜水器具を使用して同漁業を行っていた。同船での潜水器漁業は、甲板上に備えた空気供給用コンプレッサーと顔面マスクとをエアホースで連結し、同マスクを介して潜水者に空気が供給され、黒色のウエットスーツと水中靴を着用した潜水者が、顔面マスクを装着してエアホースを背中に回してウェートベルトで腰に留め、用具を使用して貝類を採捕するものであった。そして、同漁業中は、同規則により、操縦性能制限船であって潜水夫による作業に従事していることを表示するA旗を、舷縁上1.5メートル以上の高さに掲げるよう義務づけられていた。

B受審人は、07時59分操業区域内の前示漁場に到着して機関を中立回転として停留し、A旗を表す大きな信号板を甲板上からの高さ2.7メートルになる操舵室の上に掲げて操業の準備に取りかかり、08時00分C受審人の弟を潜水者として海中に潜らせ、C受審人を操舵室に配置し、自らは左舷前部甲板で周囲の見張りに当たるとともにコンプレッサーなどの監視を行い、潜水者が吐き出す気泡と合図によりエアホースや命綱を操作し、潜水者を潜らせたまま漁獲物を引き上げる方法で潜水器漁業を開始した。
B受審人は、08時04分前示衝突地点付近で船首が186度に向いていたとき、右舷船首71度620メートルのところに、とし丸が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であった。しかし、同受審人は、潜水者を支援する作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、とし丸の存在とその接近に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま潜水器漁業を続行した。

08時04分半わずか過ぎB受審人は、右舷正横方からの機関音に気付いて自船に向首接近するとし丸を初認し、衝突の危険を感じて同船に対し大声を出したものの、操舵室にいるC受審人に何らの指示ができないまま、恵漁丸は、前示のとおり衝突した。
一方、C受審人は、潜水器漁業を開始したときからB受審人の指示に従って操船し、操舵室でいすに腰掛け、潜水者の出す気泡を注視して、気泡が常に左舷前部の舷側付近になるよう、潜水者の安全確保のため、潮流を船尾から受けるようにして操船に当たっていたところ、自船の機関音でB受審人の叫び声に気付かないでいるうち、突然、衝撃を受け、とし丸と衝突したことを知った。
衝突の結果、とし丸は、右舷船首部のかんぬきを折損し、恵漁丸は、右舷側中央部外板に破口及びコンプレッサーの補機等に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人は、衝撃により海中に転落したものの怪我はなく、C受審人は、1週間の加療を要する頚椎及び腰椎捻挫を負い、潜水者は、エアホースが切断されたことにより空気が途絶えて急浮上し、17日間の入院加療を要する急性減圧症を負った。


(原因)
本件衝突は、対馬上島見世埼東方沖合において、東行中のとし丸が、見張り不十分で、操縦性能制限船である潜水器漁業に従事中の恵漁丸を避けなかったことによって発生したが、恵漁丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、対馬上島見世埼東方沖合を佐賀漁港に向け東行する場合、前路でA旗を掲げて停留している他船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方の転針目標を見ることに気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、恵漁丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、とし丸の右舷船首部のかんぬきに折損を、恵漁丸の右舷側中央部外板に破口及びコンプレッサーの補機等に損傷を生じさせ、C受審人に頚椎捻挫等を、潜水者に急性減圧症を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、対馬上島見世埼東方沖合において停留し、潜水器漁業を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潜水者を支援する作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するとし丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま操業を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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