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2000年(平成12年)

平成11年広審第73号
    件名
引船第三十一向運丸被引台船MK102プレジャーボートはま丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年4月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、杉崎忠志、織戸孝治
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第三十一向運丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:はま丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
向運丸引船列の台船・・・船首部破損
はま丸・・・・・・・・・左舷船首部外板破損、船尾帆用マストが傾く等の損傷

    原因
はま丸・・・・・・・・・狭い水道の航法(右側航行)不遵守、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
向運丸引船列・・・・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、はま丸が、狭い水道において、右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第三十一向運丸被引台船MK102が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月17日15時30分
広島県青木瀬戸北部
2 船舶の要目
船種船名 引船第三十一向運丸 台船MK102
総トン数 17トン 381トン
全長 14.50メートル 35.00メートル
幅 14.00メートル
深さ 2.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット
船種船名 プレジャーボートはま丸
全長 7.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 9キロワット
3 事実の経過
第三十一向運丸(以下「向運丸」という。)は、船殻ブロック等の鋼材輸送に従事する鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首尾ともに0.2メートルの喫水をもって、船首0.8メートル船尾2.1メートルの喫水となった長さ35.00メートル、幅14.00メートル、深さ2.20メートルの空倉の台船MK102(以下「台船」という。)を左舷側に横抱きした引船列(以下「向運丸引船列」という。)となって、平成10年3月17日15時17分広島県三原市幸崎町にある幸陽船渠を発し、同県尾道糸崎港に向かった。

A受審人は、発航後、針路を北東方に向けて進行していたとき、右舷前方約1.5海里に同県高根島を認め、この北端と本土との幅約1,000メートルの青木瀬戸のほぼ中央部を抜けて東行する予定でいたところ、同瀬戸には当時約2ノットの西流があって、これに逆らって進行することになることから、同島北端の高根島灯台から304度(真方位、以下同じ。)約0.9海里のところにある宇竜島と本土間に挟まれた潮流が弱く、わい潮が予想される可航幅約100メートルの狭い水道を東行したのち本土沿いに接航して航行することにした。
ところで、この水道は、宇竜島西端から南西方にかけて約500メートルにわたり拡延する浅所の南端とその西方の本土間を結ぶ付近を南口とする北東方に向け約300メートルの水道と、ここから東方に屈曲して約700メートル延びる水道とがへの字状につながっているものであった。

A受審人は、単独で操船操舵に当たり、15時25分高根島灯台から274度1.3海里の地点に達したとき、同水道南口の中央部に向け針路を031度として操舵を手動とし、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
15時29分A受審人は、高根島灯台から295度1.1海里に達したとき、右舷船首47度300メートルのところに、同水道を西進するはま丸を初めて視認し、同船が狭い水道の右側端に寄って航行していないのを認め、間もなく自船が同水道の右側端に寄って進行するため右転すれば、ほぼ正面に相手船を認めることとなる状況となったが、自船が転針すれば、相手船も右転して同水道の右側端に寄って西行するものと思い、警告信号を行うことなく続航した。
15時29分半少し前A受審人は、高根島灯台から296度1.1海里の地点に達し、針路を同水道に沿う085度に転じたとき、はま丸をほぼ正船首210メートルに認める状況となったが、速やかに船体を停止するなど衝突を避ける措置をとらないまま、同時30分わずか前間近に迫ったはま丸を認めて慌てて、左舵一杯、機関を全速力後進としたが及ばず、向運丸引船列は、15時30分高根島灯台から298度1.1海里の地点において、原針路、ほぼ原速力のまま、台船の船首部にはま丸の左舷船首部が前方から10度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風は弱く、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には微弱な西流があった。
また、はま丸は、木製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日12時遊漁の目的で、高根島灯台から292度約1.3海里にある幸崎町宇和島船だまりを発し、青木瀬戸周辺の釣場に向かった。
B受審人は、三原市須波西の東方沖合で釣りを行ったのち、高根島灯台南西沖180メートルの地点に移動して釣りを行い、15時15分同地点を発し、帰途についた。
B受審人は、15時18分高根島灯台から309度600メートルの地点に達したとき、船尾甲板に座った姿勢となり、舵柄を操作して宇竜島と本土間の狭い水道の東口に向け針路を307度とし、機関を半速力前進にかけて4.5ノットの速力で進行した。
B受審人は、15時26分高根島灯台から308度1,600メートルの地点に達したとき、針路を前示船だまりに向け268度として、狭い水道の右側端に寄せることなく続航した。

15時29分B受審人は、高根島灯台から300度1,900メートルの地点に達したとき、左舷船首11度300メートルに同水道を北東進する向運丸引船列を視認し得る状況となったが、見張り不十分で、このことに気付かなかった。
B受審人は、15時29分半少し前、高根島灯台から299度1,930メートルの地点に達したとき、向運丸引船列とほぼ正船首210メートルに接近したが、依然、見張り不十分で、これに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、15時30分わずか前ふと前方を見たとき、至近に迫った台船を初めて認め、右舵一杯としたが及ばず、275度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、向運丸引船列の台船船首部破損及びはま丸の左舷船首部外板破損、船尾帆用マストが傾く等の損傷をそれぞれ生じた。


(原因)
本件衝突は、宇竜島と本土間の狭い水道において西進中のはま丸が、同水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、東進中の向運丸引船列が、警告信号を行わず、速やかに停止するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、宇竜島と本土間の狭い水道を西行する場合、向運丸引船列を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、向運丸引船列に気付かず進行して同引船列との衝突を招き、台船の船首部破損及びはま丸の左舷船首部外板破損、船尾帆用マストの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、宇竜島と本土間の狭い水道を東行中、同水道を右側端に寄らずに西行しているはま丸を認めた場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が転針すれば、相手船も右転して同水道の右側端に寄って西行するものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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