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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月20日05時45分 京浜港東京区 2 船舶の要目 船種船名
油送船第三十栄正丸 油送船第八黒潮丸 総トン数 236.83トン 166トン 全長 39.50メートル
43.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 294キロワット
441キロワット 3 事実の経過 第三十栄正丸(以下「栄正丸」という。)は、主として河川を航行する鋼製油タンカーで、A、B両受審人ほか2人が乗り組み、空倉のままバラストとして河水70トンを張水し、船首0.7メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成10年8月20日05時30分京浜港東京第2区にある月島物揚場を発し、千葉港に向かった。 A受審人は、発航操船に引き続き操舵操船に当たっていたところ、05時36分芝浦ふ頭北端の手前250メートルのところでB受審人が昇橋してきたので、同人と操舵を交替し、自分は船橋左舷側に位置して前方の見張りに就くかたわら書類点検を行いながら朝食の準備ができるのを待った。 B受審人は、空船時の船尾トリムが大きく、前方見通しが困難な状況であったことから、踏み台に乗り、操舵室天井の開口部から顔を出して操舵に当たり、芝浦ふ頭に沿うほぼ180度(真方位、以下同じ。)の針路で南下し、05時39分東京13号地船舶通航信号所(以下「13号地信号所」という。)から337度1.3海里の地点において、針路を170度に定め、ほぼ東京西第18号灯浮標(以下、東京西各号灯浮標については、「東京西」を省略する。)に向首して、機関を全速力前進にかけ、8.7ノットの対地速力で進行したところ、第6台場及び13号地その1陸岸側に接近することとなり、品川ふ頭との間の可航幅約300メートルである航路筋の左側端に寄って航行する状況になったが、このことに留意しないまま、品川ふ頭沖合に離・着岸する他船の操船水域を開けた方がよいと思い、漫然と航路筋の左側に寄る針路で続航し、同時41分半13号地信号所から331度1,700メートルの地点に達したとき、左舷船首3度約1海里のところに、航路筋の右側端に寄って北上してくる第八黒潮丸(以下「黒潮丸」という。)を初認した。 一方、A受審人は、これより先、05時40分少し過ぎレインボーブリッジを通過したあたりから、B受審人が針路を左に寄せ、航路筋の左側端を航行する状況にあったが、頻繁に通航している水域であり、B受審人もこの水域の操船に慣れているので、大丈夫と思い、安全で実行に適する限り、同航路筋の右側端に寄せて航行するよう指示を与えないまま、同時43分食事の準備ができた知らせを聞き、操舵室を離れた。 このころ、B受審人は、黒潮丸を左舷船首3度1,150メートルのところに認め、その後衝突のおそれがある状況で接近したが、同船が河川を航行する同業船であり、間近に接近してからでも十分替わすことができると考え、依然、航路筋の右側端に寄らずに進行中、05時44分少し過ぎ同船が第18号灯浮標近くの、正船首わずか左370メートルのところで右転したのを認め、操船信号を行わないまま自船も右舵15度をとったところ、同時45分わずか前今度は黒潮丸が左転し始めたので、あわてて右舵一杯をとったが、及ばず、05時45分13号地信号所から307度880メートルの地点において、栄正丸は、船首が240度を向き、ほぼ原速力のまま、その左舷側前部に、黒潮丸の船首部が、直角に衝突した。 当時、天候は曇で風力1の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 A受審人は、操舵室下の後方にある船員室で食事中、衝撃を感じ、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。 また、黒潮丸は、主として河川を航行する鋼製油タンカーで、C受審人ほか3人が乗り組み、ガソリン及び灯油計560キロリットルを積載し、船首2.0メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、同日05時25分大井ふ頭その2北側にある東京第3区の城南島係船場を発し、隅田川上流の東京都北区にあるコスモ石油株式会社王子油槽所に向かった。 C受審人は、発航操船に引き続き、甲板員1人を見張りに就けて自ら操舵操船に当たり、第11号灯浮標の南側で東京西航路に入り、第12号灯浮標に近寄ってから第14号灯浮標を右舷側に見て北上し、05時41分半第16号灯浮標を左舷正横20メートルばかりに見る、13号地信号所から224度550メートルの地点で、針路を344度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、品川ふ頭沖の航路筋の右側端に寄って進行した。 05時43分C受審人は、13号地信号所から267度500メートルの地点に達したとき、右舷船首3度1,150メートルのところから、航路筋の右側端に寄らないで南下してくる栄正丸を認め得る状況にあったが、自船が航路筋の右側端に寄って航行しているので問題ないものと思い、その後右舷側の陸岸や浅瀬を気にしていて前路の見張りを十分に行わなかったので、栄正丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わなかった。 こうして、C受審人は、05時44分少し過ぎ第18号灯浮標を右舷側に10メートルばかり離して航過したとき、更に右に寄せるつもりで、針路を349度に転じたところ、栄正丸と間近に接近したが、依然このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに続航中、見張りの甲板員からの報告がないまま、同時45分わずか前、船首至近に迫った栄正丸に気付き、操船信号を行わずに、とっさに左舵をとったとほぼ同時に、栄正丸の船首が右回頭していることを知り、急いで右舵をとり直したものの及ばず、黒潮丸は、船首が330度を向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、栄正丸は左舷側前部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、黒潮丸は船首部外板を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、京浜港東京区品川ふ頭沖合において、南下中の栄正丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったことによって発生したが、航路筋の右側端に寄って北上中の黒潮丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 栄正丸の運航が適切でなかったのは、在橋していた船長の指示が十分でなかったことと、操舵に当たっていた航海士の措置が適切でなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、京浜港東京区品川ふ頭沖合において、B受審人を操舵に就かせて航路筋を航行するにあたり、同人が同ふ頭沖に他船の操船水域を開けるつもりで同航路筋の左側に寄せる針路としたのを知った場合、安全で実行に適する限り、右側端に寄せて航行するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、B受審人もこの水域の操船に慣れているので大丈夫と思い、その旨指示を与えなかった職務上の過失により、そのままの針路で航行し、航路筋の右側端に寄って北上してくる黒潮丸との衝突を招き、栄正丸の左舷側前部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、黒潮丸の船首部外板を圧壊させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。 B受審人は、京浜港東京区品川ふ頭沖合の航路筋を南下する場合、航路筋の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、品川ふ頭沖合に離・着岸する他船の操船水域を開けた方がよいと思い、航路筋の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、漫然と航路筋の左側に寄る針路で進行し、航路筋の右側端に寄って北上してくる黒潮丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。 C受審人は、京浜港東京区品川ふ頭沖合において、航路筋の右側端に寄って北上する場合、同航路筋の左寄りに航行してくる他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は航路筋の右側端に寄って航行しているので問題ないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近してくる栄正丸に気付かず、そのまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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