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2000年(平成12年)

平成12年函審第8号
    件名
漁船第三十八龍王丸プレジャーボートいとう丸衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年4月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗
    理事官
堀川康基

    受審人
A 職名:第三十八龍王丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:いとう丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
龍王丸・・・・損傷なし
いとう丸・・・右舷側外板に破口、船外機に濡れ損

    原因
龍王丸・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
いとう丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十八龍王丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のいとう丸を避けなかったことによって発生したが、いとう丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月28日08時37分
北海道室蘭市チキウ岬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八龍王丸 プレジャーボートいとう丸
総トン数 9.7トン
全長 19.55メートル 5.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 330キロワット 18キロワット
3 事実の経過
第三十八龍王丸(以下「龍王丸」という。)は、かにかご漁業に従事する軽合金製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的をもって、船首0.3メートル船尾2.5メートルの喫水で、平成11年7月28日01時00分北海道室蘭市追直漁港を発し、同漁港の東南東方9海里ばかりの漁場に至り、操業ののち、けがに約300キログラムを獲て、操業を打ち切り、07時57分チキウ岬灯台から104度(真方位、以下同じ。)8.0海里の地点を発し、帰途に就いた。
ところで、龍王丸は、全速力前進に増速すると船首が浮上し、船首左右各舷に約2点の死角を生じ、前方の見通しが妨げられる状況であった。

A受審人は、単独で船橋当直に当たって航行中、08時30分チキウ岬灯台から135度1.1海里の地点に達したとき、針路を280度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、右舷船首9度1.4海里に漂泊中のいとう丸を視認できる状況であったが、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かずに続航した。
こうしてA受審人は、08時33分チキウ岬灯台から164度1,350メートルの地点に達したとき、右舷船首16度1,480メートルに接近したいとう丸に気付かないまま針路を追直漁港西防波堤突端の少し南方に向く296度に転じたところ、いとう丸に向首し、その後、同船と衝突のおそれある態勢で接近した。しかし、同人は、前路に他船がいないものと思い、依然、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、08時37分チキウ岬灯台から236度1,150メートルの地点において、龍王丸の船首が、原針路、原速力のまま、いとう丸の右舷側前部に前方から26度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風はなく、潮候は低潮時で、視界は良好であった。
また、いとう丸は、和船型の船外機付きFRP製プレジャーボートで、B受審人が船長として乗り組み、娘婿と孫1人を乗せ、全員が救命胴衣を着用し、魚釣りの目的をもって、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水で、同日07時50分追直漁港を発し、同時55分ごろチキウ岬灯台の南西方800メートルばかりのところで、船首からパラシュート型シーアンカーを投下し、その引き索を約10メートル延出して船首ビットに係止し、船外機を停止して漂泊し、一本釣りを開始した。
B受審人は、船首甲板左舷側に置いたいすに船尾方を向いて腰をかけ、右手で釣り糸を左舷側の海中に入れて手釣りをしていたところ、08時30分自船が090度に向首しているとき、右舷船首19度1.4海里のところに自船の右舷方を無難に替わる態勢で西行する龍王丸を視認できる状況であったが、釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。

B受審人は、08時33分右舷船首26度1,480メートルのところで龍王丸が右転して自船に向首し、その後衝突のおそれのある態勢で接近する龍王丸を視認できる状況となった。しかし、同人は、自船が漂泊しているから航行船が避けてくれるものと思い、このころ釣り糸にかかった大型のかれいを引き揚げることに熱中して周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、龍王丸に対して有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近してもシーアンカーの引き索を解き放し、船外機を始動して後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、同時37分わずか前、船尾部右舷側で釣りをしていた娘婿の叫び声を聞いて振り向き、右舷前方至近に迫った同船を初めて視認し、同人に声をかけて孫を抱いた同人とともに左舷側から海中に飛び込んだとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、龍王丸に損傷はなかったが、いとう丸は、右舷側外板に破口を生じ、船外機に濡れ損を生じた。


(原因)
本件衝突は、北海道室蘭市チキウ岬の南西方沖合において、漁場から北海道追直漁港に向け帰航中の龍王丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のいとう丸を避けなかったことによって発生したが、いとう丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、北海道室蘭市チキウ岬の南西方沖合において、同岬東方沖合で操業を終え、機関を全速力前進にかけて帰航する場合、船首が浮上して船首方の一部に死角が生じ、前方の見通しが妨げられる状況であったから、前路で漂泊中のいとう丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船がいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のいとう丸に気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、同船の右舷側外板に破口を、船外機に濡れ損をそれぞれ生じさせるに至った。
B受審人は、北海道室蘭市チキウ岬の南西方沖合において、パラシュート型シーアンカーを投じ、漂泊して一本釣りを行う場合、自船に向首接近する龍王丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が漂泊しているから航行船が避けてくれるものと思い、釣り糸にかかった大型のかれいを引き揚げることに熱中して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、龍王丸が自船に向首接近することに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近しても、シーアンカーの引き索を解き放し、船外機を始動して後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることなく、漂泊を続けて龍王丸との衝突を招き、自船に前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図






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