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2000年(平成12年)

平成11年函審第77号
    件名
漁船第十六大栄丸漁船第三十六龍王丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年4月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、酒井直樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第十六大栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第三十六龍王丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大栄丸・・・球状船首に凹損、船首部キールに曲損
龍王丸・・・右舷側中央部の外板及びブルワークに大破口、浸水沈没

    原因
第十六大栄丸・・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守(主因)
第三十六龍王丸・・・狭視界時の航法(信号、速力)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十六大栄丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第三十六龍王丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月20日07時40分
北海道室蘭市チキウ岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十六大栄丸 漁船第三十六龍王丸
総トン数 19トン 9.99トン
全長 24.00メートル
登録長 13.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 120
3 事実の経過
第十六大栄丸(以下「大栄丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的をもって、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水で、平成9年8月20日06時00分北海道追直漁港を発し、北海道浦河港の南方10海里ばかり沖合の漁場に向かった。
A受審人は、発航時から1人で船橋当直に就き、追直漁港西防波堤突端を左舷側に通過したのち、機関の回転数を徐々に上げてチキウ岬の南方に向け東行し、06時20分チキウ岬灯台から180度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点で針路を前示漁場に向く098度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.2ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。

A受審人は、定針後間もなく霧により視界が約100メートルに制限される状況となったので、レーダー見張りに当たったが、前路に他船の映像を認めなかったことから、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもせずに続航し、07時25分チキウ岬灯台から101度11.3海里の地点に達したとき、3海里レンジとしたレーダーで、正船首わずか左1.6海里に1個の映像を認め、その動静監視に当たって進行した。
A受審人は、07時30分左舷船首17度1.6海里に第三十六龍王丸(以下「龍王丸」という。)の映像とその北方から自船の右舷前方にかけて点在する多数の映像を認め、このころ動静監視に当たっていた前示の映像が1,400メートルに接近し、その方位が左方に変わったので、同海域がえびかご漁の漁場であることから、同映像が漁具の標識旗竿に取り付けられたレーダーリフレクターのものと知り、前方の映像も全て漁具の標識旗竿に取り付けられたレーダーリフレクターのものと思い、龍王丸の映像にカーソルを合わせるなどして動静監視を十分に行わなかったので、その後同船と著しく接近することを避けられない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行し、このころ更に視界が約50メートルに悪化してきたので、機関を少し減速し、9.0ノットの対地速力で続航した。
A受審人は、07時35分龍王丸の映像が左舷船首8度1,460メートルに接近したとき、同船が減速し、その後同船の映像の方位がほとんど変わらず、衝突のおそれある態勢で接近したが、依然、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず続航中、同時38分同船と570メートルに接近したとき、同船がモーターホーンで数回にわたって吹鳴した短音5回に気付かずに進行中、同時40分わずか前、ほぼ正船首30メートルに同船の船体を視認し、急ぎ左舵一杯、全速力後進としたが効なく、07時40分チキウ岬灯台から100度13.6海里の地点において、大栄丸の船首が、原針路、原速力のまま、龍王丸の右舷側中央部に前方から77度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約50メートルであった。

また、龍王丸は、えびかご漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が甲板員1人と乗り組み、操業の目的をもって、えびかご2連を載せ、船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水で、同日03時30分北海道登別漁港を発し、04時40分同漁港の南南東方12海里ばかりの漁場に至り、えびかご2連の設置作業を開始した。
ところで、龍王丸のえびかご漁業のえびかご投下作業は、1連の長さ約1,800メートルの幹縄の1端に捨縄を結び、捨縄の他端に瀬縄と錨索を結び、錨索に瀬石を、瀬縄の上端に浮玉3個とレーダーリフレクター付き標識旗竿を取り付けて投下し、低速力で前進しながら幹縄に直径約70センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約30センチの笠形の同かごを約18メートル間隔に枝縄で取り付けて投下し、100個のかごを投下し終わったとき、再び幹縄に捨縄、瀬縄、瀬石、浮玉などを連結して投下し、海底に設置するものであった。

B受審人は、06時15分えびかご2連の設置作業を終えたとき、前日投入しておいた同かご3連のうちの1連の揚収作業にかかり07時15分その揚収作業を終え、次のえびかご投入地点を探索し、同時30分チキウ岬灯台から098度13.8海里の地点において操舵室で同かご投入の操船に就き、針路を201度に定め、機関を半速力にかけ、甲板員に同かごを投入させながら、4.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
B受審人は、定針後間もなく、霧のため視程が約50メートルに狭められてきたので、レーダー見張りに当たったが、前路に他船の映像を認めなかったことから、霧中信号を吹鳴せずに続航した。
B受審人は、07時35分チキウ岬灯台から099.5度13.7海里の地点に達したとき、1.5海里レンジとしたレーダーで、前日に右舷船首69度1,460メートルに投入しておいたえびかごのレーダーリフレクター付き標識旗竿の映像のわずか南方を替わって東行する大栄丸の映像を認め、減速すれば同船がなんとか左方に替わっていくものと思い、機関を微速力前進に減じ、2.0ノットの対地速力で、その動静監視に当たって進行した。

B受審人は、07時37分大栄丸の映像が右舷船首71度860メートルに接近したとき、その方位がほとんど変わらず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じたから、どうにか左方に替わっていくものと思い、速やかに行きあしを止めることをせず、更に減速して機関を極微速力前進とし、1.0ノットの対地速力としたところ、その後同船の映像の方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近したが、同針路、同速力でえびかごを投入しながら続航し、同時38分同船の映像が570メートルに接近したとき、モーターホーンで短音5回を数回吹鳴したが、行きあしを止めることなく進行中、同時40分わずか前右舷ほぼ正横30メートルに同船の船首を視認したが、何をする暇もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大栄丸は、球状船首に凹損、船首部キールに曲損を生じ、龍王丸は右舷側中央部の外板及びブルワークに大破口を生じ、浸水沈没した。


(原因)
本件衝突は、霧による視界制限状態の北海道室蘭市チキウ岬東方沖合において、東行中の大栄丸が、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもせず、レーダーによる動静監視が不十分で、えびかごを投入しながら南下中の龍王丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、龍王丸が、霧中信号を吹鳴せず、レーダーにより認めた大栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、霧による視界制限状態の北海道室蘭市チキウ岬東方沖合において、単独で船橋当直に就いて東行中、レーダーにより前路に龍王丸の映像とその付近に点在する多数の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避け得るかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同海域がえびかご漁の漁場であることを知っており、龍王丸の映像を認める以前に漁具の標識旗竿に取り付けられたレーダーリフレクターのレーダー映像が後方に替わったことから、前方の映像も全て漁具の標識旗竿に取り付けられたレーダーリフレクターのものと思い、同船の映像にカーソルを合わせるなどして動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもせず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行して同船との衝突を招き、大栄丸の球状船首に凹損を、船首部キールに曲損をそれぞれ生じさせ、龍王丸の右舷側中央部の外板及びブルワークに大破口を生じさせ、浸水沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、霧による視界制限状態の北海道室蘭市チキウ岬東方沖合において、えびかごを投入しながら南下中、レーダーにより前路に認めた大栄丸の方位がほとんど変わらず、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、速やかに行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を保つことができる最小限度の速力に減じたから、なんとか左方に替わっていくものと思い、速やかに行きあしを止めなかった職務上の過失により、大栄丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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