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2000年(平成12年)

平成11年函審第76号
    件名
漁船第二十一運漁丸漁船第五勝進丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年4月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第二十一運漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五勝進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
運漁丸・・・船底外板前部右舷側に擦過傷
勝進丸・・・左舷側中央部外板及び機関室を圧壊、後部魚倉及び機関室内に浸水して水船状態、修理不能で廃船処分

    原因
運漁丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(主因)
勝進丸・・・形象物不掲示、見張り不十分、注意喚起信号不履行、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、航行中の第二十一運漁丸が、見張り不十分で、なまこ桁網えい網中の第五勝進丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第五勝進丸が、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げず、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月16日14時20分
北海道稚内市富磯漁港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一運漁丸 漁船第五勝進丸
総トン数 5.8トン 3.66トン
全長 15.63メートル
登録長 9.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 257キロワット
漁船法馬力数 60
3 事実の経過
第二十一運漁丸(以下「運漁丸」という。)は、ホタテ採苗漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が甲板員1人と乗り組み、ホタテ種苗採取網の幹縄を設置する目的で、長さ200メートルの幹縄3本と、その設置用錨、錨索及び浮玉などを載せ、平成11年4月16日05時30分北海道稚内市富磯漁港を発し、同時45分富磯港西防波堤灯台から260度(真方位、以下同じ。)2.7海里のホタテ採苗漁業区域に至り、09時45分幹縄を50メートル間隔で並行に設置したのち10時00分帰港した。

帰港後A受審人は、帰宅して昼食をとったのち1人で乗り組み、前示幹縄に横張り縄を設置する目的で、長さ50メートルの横張り縄2本とその設置用錨及び錨索などを載せ、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、11時30分同漁港を発し、同時45分再びホタテ採苗漁業区域に至り、14時13分横張り縄の設置作業を終え、同区域を発進して帰途に就いた。
発進後A受審人は、操舵室内中央に立って操舵に当たり、機関を次第に増速しながら東行し、14時15分富磯港西防波堤灯台から260度2.4海里の地点に達したとき、針路を同灯台に向く080度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
ところで、運漁丸は、全速力に増速すると船首が浮上し、操舵室中央の見張り場所からは船首左右各舷約1点の範囲に死角を生じて前方を見通すことができない状況であった。

定針したときA受審人は、右舷船首2度1.5海里に、なまこ桁網をえい網して低速力で北上中の第五勝進丸(以下「勝進丸」という。)を視認できる状況で、その後同船の方位がほとんど変わらず衝突のおそれのある態勢で接近した。しかし、同人は、朝の富磯漁港、ホタテ採苗漁業区域間の往復航海と正午前の往航中、付近に他船を認めなかったことから、帰航時、前路に他船はいないものと思い、転舵により船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、操舵室中央に立ったまま前方の見張りに当たっていたので、なまこ桁網えい網中の勝進丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、速やかに右転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく続航中、14時20分少し前、突然、無線電話に入ったB受審人の叫び声を聞いたが、どうすることもできず、14時20分富磯港西防波堤灯台から260度1,600メートルの地点において、運漁丸の船首が、原針路、全速力のまま、勝進丸の左舷側中央部に後方から70度の角度で衝突し、その機関室囲壁の上部に乗りかかった。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、勝進丸は、なまこ桁網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日05時30分富磯漁港を発し、同時45分同漁港の北西方1.5海里ばかりの漁場に至り、投網を開始した。
ところで、勝進丸のなまこ桁網は、直径約5センチメートル(以下「センチ」という。)の丸鋼棒に長さ約30センチの爪を兼ねたチェーン支え棒8本が等間隔に溶接された熊手形の桁の前面に長さ約70センチの股綱用のU字形の腕金2本が縦に溶接され、各チェーン支え棒の先端にはチェーンが張り渡され、更にその先端から後方に延びる長さ約70センチのチェーンが取り付けられ、その後端には長さ約1.8メートルの山形に開口した袋網の網口下部が、両腕金には長さ約1.5メートルの股綱が取り付けられたもので、その漁法は、この桁網2丁の股綱に長さ約30メートルの引き索を連結して船尾ギャロース及び揚網ウインチで吊り上げて船尾両舷側に投下し、低速力で1時間ばかりえい網したのち揚網して袋網に入ったなまこを取り出すというもので、1回の投揚網作業に要する時間は約1時間半であった。
投網を開始したとき、B受審人は、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げることなく、漁場移動しながら4回の投揚網を繰り返したのち13時30分富磯港西防波堤灯台から226度1.4海里の地点に移動して5回目の投網を終え、針路を010度に定め、機関を微速力前進にかけ、1.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
B受審人は、14時15分富磯港西防波堤灯台から257度1,630メートルの地点に達したとき、左舷船尾71度1.5海里に東行中の運漁丸を視認することができる状況で、その後同船の方位がほとんど変わらず衝突のおそれのある態勢で接近した。しかし、同人は、自船がなまこ桁網をえい網しているから、航行中の他船が避けてくれるものと思い、低速力でえい網中の自船の針路を保持することに気を取られて周囲の見張りを十分に行わなかったので、運漁丸の接近に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、速やかに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることなくえい網中、14時19分半なまこ桁網のチェーンが海底の岩に根がかりして行きあしが止まったので、前示針路のまま機関を停止し、操舵室から出て船尾揚網ウインチに赴き同時20分少し前、揚網作業を始めようとして顔を上げたとき、左舷船尾70度100メートルに自船に向首接近する運漁丸を初めて認め、操舵室に駆け込んで無線電話のマイクをとり、大声で同船を呼んだが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、運漁丸は、船底外板前部右舷側に擦過傷を生じたのみであったが、勝進丸は、左舷側中央部外板及び機関室を圧壊し、後部魚倉及び機関室内に浸水して水船状態となり、運漁丸により富磯漁港に引き付けられたが、修理不能で廃船処分された。


(原因)
本件衝突は、北海道稚内市富磯漁港西方沖合において、ホタテ採苗漁業区域から同漁港に向け東行中の運漁丸が、見張り不十分で、前路でなまこ桁網えい網中の勝進丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、勝進丸が、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げず、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、北海道稚内市富磯漁港西方沖合において、ホタテ採苗漁業区域から同漁港に向け東行する場合、全速力に増速すると船首が浮上して操舵室中央の見張り場所からは船首方の一部に死角を生ずる状況であったから、前路でなまこ桁網えい網中の勝進丸を見落とすことのないよう、転舵により船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、午前中の富磯漁港、ホタテ採苗漁業区域間の往復航海と正午前の往航中、前路に他船を認めなかったことから、帰航時、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、なまこ桁網えい網中の勝進丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、速やかに右転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、自船の船底外板前部右舷側に擦過傷を生じさせ、勝進丸の左舷側中央部外板及び機関室を圧壊し、後部魚倉及び機関室内に浸水、水船状態にさせ、廃船処分させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、北海道稚内市富磯漁港西方沖合において、なまこ桁網をえい網する場合、衝突のおそれのある態勢で接近する運漁丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船がなまこ桁網をえい網しているから、航行中の他船が避けてくれるものと思い、低速力でえい網中の自船の針路を保持することに気を取られて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、運漁丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、速やかに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることなくえい網を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自船を廃船処分させるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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